居場所を探していただけの俺が、気づいたら世界の作業環境になっていた件 ~追い出され続けたパソコンおじさんの静かな異世界生活~

あああの書

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3話 戦っていないのに魔物が全滅した件について、村がざわつき始めた

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「魔物だー!!」

その悲鳴は、
俺の集中が一番乗ってきたタイミングで聞こえた。

正直に言おう。

「……今、いいところなんだけど」

ノートPCの画面には、
なぜか“クエストログ”みたいなものが表示されている。

【進行中タスク】
・初期村の安全確保
・世界の理不尽さを理解する
・作業の邪魔を排除する

「いや、俺こんなの作ってないけど?」

概念Wi-Fi、仕事しすぎである。

悲鳴の方向を見ると、
ゴブリンっぽい何かが村の外れで暴れていた。

棍棒。
筋肉。
テンプレ。

村人が逃げ惑う。

「勇者様はいないのか!」
「兵士!兵士!」

――ああ、この世界。

まだ“戦う”という選択肢しかないんだな。

俺はゆっくり立ち上がり、
ノートPCを小脇に抱えた。

「……近づくなよ」

ゴブリンがこちらに気づく。

「グギャァ!」

走ってくる。

正直、怖い。

だが同時に、
ものすごく集中していた。

カタ、カタ、ターン。

「え?」

俺、
歩きながらキーボード打ってる。

すると――

ズン。

空気が、止まった。

【スキル発動】

《絶対静寂領域 Lv1》
・騒音:無効
・敵意:減衰
・不要な存在感:排除

ゴブリンが、
ピタッと止まった。

「……?」

次の瞬間。

ゴブリン、座った。

「グ……?」

さらにもう一体、
その後ろのゴブリンも――座った。

棍棒を置き、
地面を見つめ始める。

「……反省してる?」

村人が呆然としている。

「え?」
「なに?」
「魔法……?」

俺は何もしていない。

ただ、作業しているだけだ。

そこへ、
衛兵が震えながら聞いてきた。

「な、何をしたんですか……?」

「えっと……
 集中しました」

「?」

ゴブリンたちは次第に、
眠り始めた。

スゥ……スゥ……

最後には全員、
完全に熟睡。

【タスク完了】
・初期村の安全確保

【報酬】
・信頼(困惑)
・畏怖(誤解)
・噂(危険)

村が、ざわつき始めた。

「武器を使ってない……」
「詠唱もない……」
「カタカタ音だけで……」

誰かが言った。

「……あの箱、
 兵器なんじゃないか?」

「やっぱり……」

「光ってたし……」

やめろ。

俺はただの
社会的に居場所がなかったおじさんだ。

村長が深刻な顔で言った。

「……申し訳ないのですが」

来た。

この流れ、
何度も経験している。

「この村に、その……
 長居されるのは……」

「ですよね」

俺は即答した。

ノートPCを閉じる。

「出ていきます」

村人たちが、
なぜか安心した顔をする。

その中で、
一人だけ違う反応の少女がいた。

「……すごい」

目を輝かせている。

「ねえ、あなた……
 どこで作業してる人なの?」

俺は少し考えて、答えた。

「……今は、
 まだ決まってない」

村の外。

草原。

夕焼け。

俺は一人、
再びノートPCを開く。

カタ、カタ。

【称号獲得】

《どこにも居場所がない者》
効果:
・追い出されるほどステータス上昇
・拠点を持たないほど自由度上昇

「……異世界でも、これか」

でも、不思議と。

悪くない。

誰にも邪魔されず、
誰にも属さず、
ただ作業している。

遠くで、
王都方面が光っていた。

【次のイベント】
・王都での作業禁止
・ギルド登録拒否
・「あの男を城に呼ぶな」

俺はため息をつく。

「……次はどこだ」

そして、
静かにキーボードを叩いた。
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