Worldtrace

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後の祭り

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少し時間が遡り、戦闘開始から数分後。戦況が少し動いた。シリウスとジンがいた冒険者達とは反対の傭兵部隊の所である戦闘が起きていた。
魔族が現れた。その魔族は傭兵部隊を吹き飛ばし騎士団を翻弄していた。その魔族は魔法使いだった。
魔法に対する対処が難しい傭兵には相手が出来なかった。となると騎士団の出番だ。別に難しい仕事じゃない。攻めて来た敵の数は1人だったからだ。しかし相手が剣か槍なら普通に対処出来るだろうが、"彼女"の使う武器は鞭だった。
その鞭は何か文字が書かれていて、魔力を流しながら振るうだけで魔法を行使する。下手に近付けば鞭で叩かれついでに魔法で吹き飛ばされる。だけど離れても遠距離から撃ち抜かれる。中遠距離は完全に彼女のテリトリーだった。ただ鞭を使うからこそ近距離に弱い。騎士達は接近戦を挑むが近付けない。
彼女は状況から言えば移動する必要はない。遠くから蹂躙するだけで良い。だが彼女は止まらない。騎士と傭兵を蹴散らしながら前に進む。1人の女性を見つめながら。


アイリス「完全に私狙いね。」

取り巻き1「逃げましょう!騎士団でもまともに戦えないのに!」

取り巻き2「そうです!何かあってからでは遅いんですよ!」

クロード「この状況で逃げ切れるかは分かりませんが、お2人の仰っている事は確かだと思いますよ。いざという時はお嬢様だけでも連れて帰れと御当主様が仰っていましたから。戦場はあの傭兵に任せれば良いかと。」

クロードの言葉からシリウスの方を見る。ここからだとハッキリしないけど、こちらに気を配る余裕は無いと思う。それに戦う覚悟を決めたんだ!逃げたくない!

アイリス「いえ!ここで迎え撃ちます!」

取り巻き達「えぇ~!」

クロード「はぁ、そうですよね。全く、あの男と関わってからお嬢様が好戦的になった気がする。」

アイリス「何か言った?」

クロード「はい。私もお供致します。」

アイリス「ありがとう。お願いね。皆んなは負傷者の手当てをお願い。」

取り巻き達「は、はい。」

不安が無いと言えば嘘になる。でも退かない!行くぞ!

魔族「あんたが人族の英雄だね?ここで死んでもらうよ!」

アイリス「私はアイリス・スワロウ。貴女は?」

魔族「フッ、律儀だね。あたいはアンリ・グラスだよ。」

あ!聞いた名前だ!確か第二師団、四天王の1人がアンリだった。それにしても不思議だ。何で第一師団は3魔将なのに第二師団は四天王なのか?

クロード「以前から気になっていたのですが、何故数が違うのですか?3魔将か四天王か統一したらどうです?」

クロード、ナイス!こんなシリアスな場面でそんな事聞けないから丁度良かった。何か驚きの理由があるかも。さぁ!返答は?

アンリ「はぁ?そんなの師団長の趣味だよ。」

アイリス「はぁ?」

クロード「趣味?」

2人で顔を見合わせる。ある意味驚くべき理由だけど、趣味って何?

アンリ「第一師団長のドワイト様は3の数字が好きで、第二師団は師団長様が四天王の方が格好良いでしょ?って決めたのさ。」

えぇ~。もう少ししっかりした設定があるのかと思ってた。ちょっとガッカリ。

クロード「お嬢様!今の口調だと第二師団長とやらは女性かも知れません。くだらない内容の会話で少しでも情報が引き出せましたね。」

アイリス「え!あ、ああ。うん。」

クロード、情報聞き出す為にあの話題振ったの?私はただ疑問の解消がしたかったのかと思ってた。
後でシリウスに話そう。きっとシリウスは趣味の方に食い付く筈。今はとにかくこの場を凌ぐ事だけ考えよう。
アンリは鞭を回し地面を打つ。

アンリ「さぁ!始めよう!・・・いや、終わらせようか!」

少し前から観察して分かった事は鞭を横、又は斜めに振ると風魔法の衝撃波が出る。その場で新体操のリボンの様に回すと炎が出る。他にもあるかも知れない。
クロードが先制のファイアボールを撃つ。アンリは地面を打った鞭を空に振り上げる。すると地面から土の壁が建った。

クロード「む!」

クロードの攻撃を防ぐと土壁は崩れたけど、まさか風に炎、土まで使うなんてね。基本複数を同時に練習するとどれも半端になり威力が落ちるとかの弊害が起きる。2つでも大変なのに3つか。鞭が魔導具だから、本人の実力は関係ないって話なら別だけど。アンリは鞭を回転させて炎の渦を出し、私に向かって放つ。今度は逆に私が聖剣アイスクリエイトで氷の壁を作る。2つがぶつかり辺りに水蒸気が広がる。

アンリ「へぇ~、あんたも少しは出来るみたいだね?」

アイリス「それはどうも!」

私は聖剣を鞘に納め、左手にファイアと右手にウインドを作る。ファイアを放つとアンリは軽く躱す為に動く、間を開けずにウインドで勢いをつける。

アンリ「チッ!」

ウインドで勢いと範囲が広がったファイアを見て、舌打ちすると躱すのをやめ鞭で円を描く。そして私の炎にぶつける為に同じく炎を出す。物凄い熱量の炎が発生する。

傭兵「うわ!アチッ!」

騎士「離れろ!巻き込まれるぞ!」

ほとんどの人が怯む中1人構わず走る人影があった。

クロード「そこまで鞭を振り回しているならこちらに向ける余裕は無いだろ?」

アンリ「舐めるな!アースニードル!」

アンリが足から魔力を流すと、地面から大きな棘が出る。名前は針だけどサイズが針じゃないのよね。

クロード「く!ならば!」

クロードも負けじと躱しながらナイフを投げる。だが既に鞭が手元に戻っていてナイフは簡単に落とされた。あんなに長い武器をあそこまで使いこなせるのは彼女の実力の成せる技だと思う。

クロード「お嬢様。お嬢様はこのまま魔法攻撃をお願いします。私は接近戦を挑みます。」

アイリス「大丈夫?近付くのも一苦労な気がするけど。」

クロード「大丈夫です。あの男に出来て私に出来ないという事はありません。」

ん?誰の事?そんな会話をしていると援軍が来る。

エレナ「何だ?アイリス。苦戦してるのか?」

アイリス「エレナ!来てくれたの?」

エレナ「皆んなは大丈夫みたいだし、今1番大変なのはお前の所だろうからな。」

彼女がいれば百人力だ。私は聖剣を抜きクロードと共にアンリに近付く。

アンリ「あんたも英雄の1人だね?」

エレナ「英雄っていうのが何なのか分からないけど、お前の敵って事はハッキリ言える。」

アンリ「フッ、そこまで分かれば十分さ。」

そこからは凄かった。エレナが炎出せば、アンリがまた土壁を作る。その土壁をエレナが風で壊し、次に氷の礫を飛ばす。アンリはその氷を風で跳ね飛ばす。そのタイミングでクロードは接近戦を仕掛けるけど阻まれる。ただエレナの魔法とクロードの牽制のお陰で私は近付く事が出来た。

アイリス「は!」

アンリ「く!甘く見るな!」

接近して突きを出す。体捌きで躱され反撃が来る。私は氷を盾にして受ける。

アンリ「チッ!」

お互い距離を取る。クロードとエレナも近くに来る。

クロード「思っていた以上に強いですね。こっちは3人なのに。」

アイリス「本当。四天王も伊達じゃないのね。彼女よりも強い師団長と魔法も無しで戦ってるシリウスが人間か疑わしく感じる。」

クロード「あの男を常識と照らし合わせても仕方ないと思いますよ。」

エレナ「失礼な言い方だな。それにシリウスが強いのは当然だ!私の家族だからな!」

クロード「それは説明になってませんよ。」

フフンと自慢するエレナとツッコミのクロード。2人のやり取りを見てまだ余裕だなと感じるけど家族と言われると確かにとも思う。エレナは魔法特化型、そしてシリウスは物理特化型。方向性は違う両極端な2人だけどそれ以外は同じ、似た者同士だ。

エレナ「さて奴を仕留めるか。」

アイリス「手があるの?」

エレナ「1つだけな。ただ少し時間が掛かるのと奴の隙が欲しい。」

クロード「お嬢様に囮になれと?」

エレナ「ああ。」

返事の後、私を真剣に見つめて来るエレナ。

アイリス「分かった。やる。」

エレナ「良し。」

クロード「お嬢様!」

アイリス「多分このままだと負ける。」

クロード「く!分かりましたお供にします。」

エレナ「当たり前だろ!アイリス1人にやらせるものか!」

クロード「私には尋ねませんでしたよね?」

エレナ「お前の場合、頼んでもやるか分からないがアイリスがやると言えば確実に付いて行くだろ?」

クロード「計算尽くですか。嫌な兄妹ですね。」

エレナ「言っておくが位置的にあいつが弟だからな。」

アイリス「ほら、2人共!やるわよ!集中して!」

2人を宥め、アンリと睨み合う。私は走り出し、左手に氷のラウンドシールドを作り鞭を弾く。

アンリ「フンッ、それで・・・は!貴様!」

クロードが一気に距離を詰めて襲い掛かる。

アンリ「舐めるなと言ったぞ!」

今度はファイアだ。

クロード「ぐぉ!」

アイリス「く!」

私はクロードが心配だけどとにかく突進する。そして近距離から斬り付ける。アンリは鞭を引き戻すがこの距離では使えない。私の距離だ。だがその時風が吹いた。原因は分かってる。アンリが私の足下に起こしたのだ。足が浮き攻撃が止まる。

アイリス「しまった!」

アンリ「喰らえ!アースニードル!」

私は氷の壁を作り出し防ぐ。だけど思った通り距離を取られ、アンリは鞭から炎を出す。私は更に氷を出し最初の時と同じく水蒸気が出る。

アンリ「フンッ、振り出しだな。」

アイリス「そうでも無いわ。」

エレナ「アイリス!伏せろ!Airpiercing!」

私は急いで伏せるとアンリが吹き飛んだ。クロードが確認する。

クロード「息をしてませんね。何やら眉間に穴が空いてますが。」

エレナ「フッ、新技だ。」

アイリス「そんな技いきなり本番で使ったの!」

エレナ「む!い、いきなりじゃないぞ!ちゃんと試し撃ちしてる。それにシリウスも知ってるぞ!」

あいつ!そんな大事な事黙ってたのね!

エレナ「それに新技ならジンだって・・・あ、あれ?これは言わない方が良いヤツか?」

クロード「いえ、大いに語って下さい。お嬢様の奴に対する評価が下がるなら大いに結構。」

ジンの新技まで黙ってたの?
魔法でライフル作るとは思わなかった。助かったから良いけど。報告が無かった事は後で注意しないと!戦いはとりあえず終わったけど私は気合いを入れ直す。
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