Worldtrace

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[Worldtrace2]

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視察に出た時のある日を思い出す。

クリス「僕に不得意な属性はありません。」

シリウス「自慢かよ。」

マーク「ふんっ!当たり前だ!貴様とは格が違う!」

クリス「いえ、そう言う話では無くて。僕は不得意な魔法は無いんですが、これと言って得意と言える魔法も無くて・・・・。敢えて言うなら水の属性が1番相性が良いんですけど、基本戦闘には使え無い属性なのであまり意味が無いんです。」

マーク「飲み水や砂煙を抑えるなど色々と用途はあります!」

シリウス「水の玉を作って人の顔を覆ってみたら?」

マーク「それでどうなる?」

シリウス「ああ、知らないか。人間は基本的に口と鼻で呼吸して、酸素を身体に入れる事で生きてるんだ。だから口と鼻を塞げば呼吸出来なくて気絶するか、下手をすると息の根が止まる。」

クリス「な、成程!」

マーク「お前!クリス様に何て事を教えるんだ!それはどう考えても暗殺の領分では無いか!」

シリウス「まぁ、そういう感じではあるけど。」

クリス「他には何かありませんか?」

マーク「そんな!クリス様!暗殺者にでもなるつもりですか!」

シリウス「大袈裟だよ。水かぁ。基本、水って言えば勢いと量で押し切る感じだけど。」

マーク「それが普通だろ?」

シリウス「話すより先に見た方が良いか。」

3人は人のいない場所に移動し、手頃な岩を見つける。

シリウス「あれを的にして水を出してみろよ。」

クリスはシリウスの言う通り水を掛ける。ただ岩が濡れるだけで変化は無い。

シリウス「まぁ、普通はああなるよな。」

マーク「それはそうだろう。何を言ってるんだ?」

シリウス「溜め込んでる水の量が多いからって、それを一回で大量に使えば効率的とは限らないんだよ。」

クリス「?」

マーク「何を言ってる?」

シリウス「ごめん。これで伝わるなら苦労しないよな。使いたい理由によって、必要な量が違うから状況によって違うけど。クリスが必要としてる事に関してはこの考えで合ってる筈だ。」

クリス「はぁ。」

マーク「う~ん?分からん。」

シリウス「水を発射する時に細く束ねるんだよ。発射口を窄めるって事なんだけど。え~と、線みたいに・・・。ああ!そのレイピアの刀身みたいに細くして、水をさっきと同じくらいの量で撃ち出すんだ。」

クリス「この刀身の様に細く。」

クリスは刀身を頭の中に焼き付け、目を閉じる。従来の魔法術式に特殊な操作を加え魔法を変化させる。姉、アイリス独自の魔法は創作した本人に習い習得した。しかし自らで考え、変更するというのは今までにした事が無かった。初めての作業に困惑しつつもなんとか形にする。何も無い所に線の様な細さの水を留めるのは難しい。刀身に水を纏わせ見た目は作る。

マーク「おお!流石ですね!」

シリウス「お前、それそれしか言わないな。」

マーク「何を!」

クリスは周りの声を気にする事無く構える。今、別の事に気を取られれば努力が正しく水の泡になる。とにかく準備は出来た。目の前の岩に向けて魔法を放つ。

クリス「な!」

マーク「え!」

最初の時と同じ、量と速度で出した水はピシュッと小さな音を立て先程より早い勢いと衝撃を放ちながら岩へと到達する。ただ問題は勢いと衝撃では無かった。

マーク「な、何をした!」

シリウス「俺は何もして無いよ。要するに使い方の問題さ。水ってのは・・・。」

クリスは目の前の敵を見る。あの時の旅は実に充実した日々だった。教わった話は知らない事ばかりだった。そしてあの時習った事を実行する為、準備を始める。
右腕と剣に意識を集中し魔力を流す。魔力を細く維持する。言われた事を思い出し機会を狙う。

クリス「[Icebullet]!」

ブロート「チッ!」

意識的な死角を作る為、氷の弾丸を放つなるべく大きさを小さくしながら。
ブロートは盾と剣で弾きながら近付き、確信する。

ブロート「そろそろ魔力が切れそうだな。」

クリス「く!」

確かに最後の攻撃だ。それにこの魔法に全ての魔力を使うつもりでいる。ブロートとの距離が近い。そしてクリスは意を決して右のレイピアで突きを放つ様に動く。

ブロート「は!」

ブロートは咄嗟に盾を構えた。しかし何の衝撃も感じない。ブロートはクリス位置から魔法を放つつもりだと考えたが、パシュッと小さい音がしただけで何の衝撃も無かった。
だが不意にブロートは自分の左腕、盾を確認した。盾を持つ左腕の横に小さいが穴が空き、そこからヒビが入っていた。こんな所に穴は無かった。さっきの音の後出来たのか?だがその時、脚元の水滴が目に入る。水滴は線の様に続きその先はクリスへと続いている。

ブロート「がふっ!あ、・・ああ?」

ブロートは途端に吐血する。その直後、身体に痛みが走る。ブロートの身体から血が出ていた。

ブロート「な、何・・・だと!何を・・・した!」

クリス「僕は回復魔法以外の魔法は全て使えます。ただその中でも得意なのが水でした。しかし今までそれを人に伝えた事はありません。戦場以外では役に立たない職業の僕には水というのはあまりに意味が無い。」

ブロート「な、何の話だ!」

クリス「そんな僕に先生が教えてくれたんです。水は状況と環境で人を助けるけど、一瞬で凶器にもなると。要するに問題は使い方だって。」

ブロート「!」

クリス「水の量が同じでも、流れ方が変わるだけで水は岩すら砕く。貴方の炎の剣は僕の水なら恐れる事はありません。しかし石の盾は簡単に破壊出来ない。だから僕が創作した水魔法を使う事にしたんです。」

ブロート「くそ!くそ!ふざけるな!あの野郎!本当に迷惑千万だ!」

クリス「これで終わりです。」

ブロート「待て!分かった!降参だ。これで終わらせよう。これ以上戦っても意味は無い。そうだろう?」

クリス「僕は貴族です。」

ブロート「?」

クリス「貴方がどういう存在で今後どうなるか、ある程度は理解していますよ。そして僕自身どう行動するべきかも。」

ブロート「!」

クリス「貴方には何が何でもここで消えて貰う。その事に躊躇いは無い。」

ブロート「くっそぉ!」

クリスが構えると同時にブロートは特攻する。だがクリスは気にする事無く放つ。

クリス「[Waterthread]!」

糸の様な無数の水がブロートを盾毎貫いていく。その勢いでブロートは後ろへ吹き飛ぶ。

ブロート「ぐは!が、はぁ!く、くそ!」

逃げようというのか床を這いながら移動をする。そんなブロートの顔を踏みつける。

ブロート「ぐぁ!な、何を・・する!」

マーク「ふんっ!貴様を逃す訳が無いだろう!」

ブロート「ぐ、貴様に人としての感情は無いのか!ここまで手負の者の顔を踏みつけるな!」

マーク「何を言う!そうしなければ私を操る気だろう?」

ブロート「や、止めろ!何をする気だ!」

マーク「貴様如きにクリス様を手を汚させる訳にはいかない止めは私が刺す。」

ブロート「くそ!こんな所で!スコルアス!ハ・・・!」

マークは一思いに心臓を貫く。

クリス「マーク。」

マーク「済みません。差し出がましい事を致しました。」

クリス「いや、良いさ。助かる。それと済まない。マークにこんな事をさせて。」

マーク「構いません。私はクリス様の剣にして盾です。・・・な!クリス様!」

マークに言われ、ブロートの方を見るとブロートの亡き骸が光になって消えていく。

クリス「ふぅ。本当人間では無かったのか。」

マーク「その様ですね。あ!そういえばクリス様!」

クリス「え?」

マーク「今後はこの様な事はお控え下さい!良いですね!」

クリス「あ、ああ!分かってるよ。さて、そろそろ僕も戦場に向かうとしよう。先生には悪いけど和解についてはまだ何も考えていないだろうし。」

マーク「あの男は考えるという事自体しないでしょう。それに権力を持たないあの男には和解の条件なんて約束出来ませんよ。それにしても、本当にあの条件を魔族に提示するのですか?」

クリス「言い方は悪いかも知れないけど、
あれが僕の権限で出来る最大の譲歩だからね。」

マーク「ですが、下手をすると姉君、アイリスお嬢様を犠牲にする事になるかも知れませんよ。」

クリス「多分、姉上に取っては良い話だと思うんだけど。」

マーク「兄上は納得しないと思います。それに御当主様も。」

クリス「まぁ、クロードは確かに難しいだろうね。ただ父上は大丈夫だよ。」

マーク「そうなのですか?」

クリス「父上からは言質を取ってある。今回の件を片付けた暁には、僕は家督を継いでスワロウ公爵になる。そうなれば僕の決定に文句は言わせないよ。」

クリスはニヤリと笑う。

マーク「あの、クリス様。その笑い方は辞めた方が良いと思います。似合ってませんよ。」

クリス「え?そうなのかい?う~ん。でも先生が偶にこういう笑い方をするから。あの笑い方は相手を威圧するのには向いてると思うんだけど。」

マーク「あの男を真似るなど言語道断です!それにアイリスお嬢様が泣きますよ!」

クリス「え~。分かったよ。姉上の前ではしないよ。さて、本当にそろそろ行くよ。」

マーク「は!護衛の支度は済んでおります。私はこちらに残って片付けと、御当主様、それに父上へ説明をしておきます。」

クリス「済まないな。後は頼む。後で僕も怒られるよ。はぁ、しかし先ずは姉上かな?クロードにも黙っていたからな。」

マーク「兄上は何かを察していたと思いますよ。」

クリス「そうか。挨拶した時にしっかり頷きながら"御武運を。"と言っていたからもしかしたらと思ってたけどね。」

マーク「フッ。では改めて、クリス様。御武運を。」

クリス「ああ!行って来る!」

マーク「はは!」
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