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第一章 3か月
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翌日、バイトを終え家に帰ると電気がついていなかった。暖房もついていない。
いないのかと思ったが、部屋の中自分の荷物を抱えるように静かにただ座っているそいつにひどく驚いた。
お化けでも出たのかと思った。
動悸のする心臓を押さえ、電気をつけ水を飲みにキッチンに行く。
朝から何も変わっていない。
コップもお皿も使われた形跡がない。
冷蔵庫の中も何一つ動いていなかったし、ゴミも全く増えていない。
コンビニで買ってきた飯を与えたが、俺が食えというまでこいつは手を付けなかった。
食器が何も使われていなかったし冷蔵庫の中にある食パン一枚すら減っていない。
「食ったら風呂入れ。服は洗濯機に直接入れて」
「はい」
帰ってきた時の姿が頭に浮かぶ。
暗い部屋の中座り込んでいたのは具合が悪かったのだろうか。
この家で飯を食った形跡はないが、外で食ってきたのだろうか。
風呂に入れている間に、何か盗まれたものはないかと調べた。
家は特に何も変わった様子はない。
封筒はテーブルに置かれたまま。
あいつが持ってきた袋も勝手に触ったが、覗くまでもなく何も入っていなかった。
何も、だ。
ただ着ていなかっただけではなくまだ寒いのに上着すらなく、服は昨日から着ている服と、これから着替える予定の2着だけだった。
風呂上がりの男を昨日と同じくベッドの隅に寝かせる。
あの荷物の少なさに、ここにいる気はないのだろうと思った。
翌日も全く同じだった。
勝手に食ってもいいと言っておいた冷蔵庫のものは減っておらず、相変わらず食器も何一つ出ていない。
部屋の中は暗く冷え、何もせずに座っている。
風邪でも引いていて具合が悪いのかと聞いてみたが、「大丈夫です」と返された。
坊主頭に似合わない幼く中性的な顔は、そう具合が悪そうにも見えない。
財布も持っていない気がするが外で食っているのだろうか。
「冷蔵庫の中にパンがまだある。明日それ食っとけよ」
「はい」
こいつはこちらの顔を見てはっきりと返事をする。
その返事には快活さがあるのに、全体で見るとそれが全く伴っていない。
ひどくアンバランスだった。
さらに翌日。
帰宅して暗い家で蹲る姿にもう驚くことは無く、無言のまま電気をつける。
冷蔵庫のパンは1枚だけ減っていた。
――もしかして、と漠然とした考えが浮かぶ。
「おい、出かけるぞ」
「はい」
男は突然の呼びかけにそれでもはっきりと返事をした。
自分の鞄を抱えて立ち上がる。
「荷物は置いてけ。スーパー行くだけだから」
出かけると言ったのに、出て行けと同じ意味に取ったのだろうか。
その手からそっと鞄が離される。
遠慮されつつも上着を押しつけ、薄汚れ削れたスニーカーを履かせ、深夜営業をしているスーパーに向かった。
何となく浮かんだ考えを除き、まず思ったのは物凄い偏食なんじゃないかということ。
生活力が見るからになさそうだし、特定のものしか食わずに生きてきたんじゃないかと思った。
「何なら食える?」
「何でも大丈夫です」
でもそれは本人に否定される。
手に取り「これは?」と聞くたびに「大丈夫です」と返事をされる。
だから俺が選ぶのをやめた。
「食いたいものを自分で選んでこい」
「オレはなんでも」
「選んでこい」
怒鳴る様に強く言えば男はまた返事をして、不安そうに店内を見渡した。
俺は自分のものを選び、カゴに入れる。
そう待たずして戻ってきたあいつが持っていたのは、割引シールのついた8枚切りの食パンだけ。
おそらく『もしかして』は遠からず当たるのだろう。
「これを買ってもいいですか」
「いいよ」
でも、今すぐ食べるわけでもなし、狭い冷凍庫にも押し込めない賞味期限近いパンを買う気はない。
パン売り場に戻り、値引きされていない同じものを手に取る。
並ぶ食パンの中でも最も安いそれは、値引きされずとも100円にも満たない。
いないのかと思ったが、部屋の中自分の荷物を抱えるように静かにただ座っているそいつにひどく驚いた。
お化けでも出たのかと思った。
動悸のする心臓を押さえ、電気をつけ水を飲みにキッチンに行く。
朝から何も変わっていない。
コップもお皿も使われた形跡がない。
冷蔵庫の中も何一つ動いていなかったし、ゴミも全く増えていない。
コンビニで買ってきた飯を与えたが、俺が食えというまでこいつは手を付けなかった。
食器が何も使われていなかったし冷蔵庫の中にある食パン一枚すら減っていない。
「食ったら風呂入れ。服は洗濯機に直接入れて」
「はい」
帰ってきた時の姿が頭に浮かぶ。
暗い部屋の中座り込んでいたのは具合が悪かったのだろうか。
この家で飯を食った形跡はないが、外で食ってきたのだろうか。
風呂に入れている間に、何か盗まれたものはないかと調べた。
家は特に何も変わった様子はない。
封筒はテーブルに置かれたまま。
あいつが持ってきた袋も勝手に触ったが、覗くまでもなく何も入っていなかった。
何も、だ。
ただ着ていなかっただけではなくまだ寒いのに上着すらなく、服は昨日から着ている服と、これから着替える予定の2着だけだった。
風呂上がりの男を昨日と同じくベッドの隅に寝かせる。
あの荷物の少なさに、ここにいる気はないのだろうと思った。
翌日も全く同じだった。
勝手に食ってもいいと言っておいた冷蔵庫のものは減っておらず、相変わらず食器も何一つ出ていない。
部屋の中は暗く冷え、何もせずに座っている。
風邪でも引いていて具合が悪いのかと聞いてみたが、「大丈夫です」と返された。
坊主頭に似合わない幼く中性的な顔は、そう具合が悪そうにも見えない。
財布も持っていない気がするが外で食っているのだろうか。
「冷蔵庫の中にパンがまだある。明日それ食っとけよ」
「はい」
こいつはこちらの顔を見てはっきりと返事をする。
その返事には快活さがあるのに、全体で見るとそれが全く伴っていない。
ひどくアンバランスだった。
さらに翌日。
帰宅して暗い家で蹲る姿にもう驚くことは無く、無言のまま電気をつける。
冷蔵庫のパンは1枚だけ減っていた。
――もしかして、と漠然とした考えが浮かぶ。
「おい、出かけるぞ」
「はい」
男は突然の呼びかけにそれでもはっきりと返事をした。
自分の鞄を抱えて立ち上がる。
「荷物は置いてけ。スーパー行くだけだから」
出かけると言ったのに、出て行けと同じ意味に取ったのだろうか。
その手からそっと鞄が離される。
遠慮されつつも上着を押しつけ、薄汚れ削れたスニーカーを履かせ、深夜営業をしているスーパーに向かった。
何となく浮かんだ考えを除き、まず思ったのは物凄い偏食なんじゃないかということ。
生活力が見るからになさそうだし、特定のものしか食わずに生きてきたんじゃないかと思った。
「何なら食える?」
「何でも大丈夫です」
でもそれは本人に否定される。
手に取り「これは?」と聞くたびに「大丈夫です」と返事をされる。
だから俺が選ぶのをやめた。
「食いたいものを自分で選んでこい」
「オレはなんでも」
「選んでこい」
怒鳴る様に強く言えば男はまた返事をして、不安そうに店内を見渡した。
俺は自分のものを選び、カゴに入れる。
そう待たずして戻ってきたあいつが持っていたのは、割引シールのついた8枚切りの食パンだけ。
おそらく『もしかして』は遠からず当たるのだろう。
「これを買ってもいいですか」
「いいよ」
でも、今すぐ食べるわけでもなし、狭い冷凍庫にも押し込めない賞味期限近いパンを買う気はない。
パン売り場に戻り、値引きされていない同じものを手に取る。
並ぶ食パンの中でも最も安いそれは、値引きされずとも100円にも満たない。
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