ファーストフラッシュ

紺色橙

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第二章 露呈

2-5

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 あの夕勤の日から、雪は俺の布団にいることが多くなった。
 寝ぼけていながらも会話したことは覚えていたのだろうか。
 寂しさを出せるようになったあいつは、長い時間ただ一人で家にいるから寂しさが募るのだろう。
 帰りが遅い時は先にベッドで眠っていて、俺はそれをどかさずに眠る。
 最初は布団もなかったのにベッドからいつの間にかいなくなっていた奴が、人のいない間に他人のベッドを使っている。
 ずいぶん慣れたものだ。
 なんだか野良猫が懐いたような気分だった。


「欲しい物とかねーの?」
 家のことを任せているから、掃除用具でもなんでも欲しいものがあるかと思った。
 絵を描くことに関してだって俺は詳しくないからわからないが、あればいいなと思うものがあるかもしれない。

 温めた弁当を前に、雪は手をとめた。
「もし、家にご飯があればすぐに帰ってきますか」
「自炊? そりゃ買わなくて済むならその分早くはなるけど」
 スーパーやらコンビニやらによる時間が丸っとなくなるのだ。
「早く帰ってきた方がいい?」
 雪は小さな声で頷いた。
「寂しがり屋だなぁ」
 何とも言えず申し訳なさそうな顔をする雪に食べることを促す。
 俺のベッドで眠っていることと言い、子供返りしているようだと思う。
 まだ18なのだから、大人ではないか。
 露呈し始める幼さに悪い気はしなかった。


 雪は自分がご飯を作りたいと言った。
 あまり料理をしない俺の家にだってフライパンと包丁くらいはある。
 しかしそもそも料理をしたことがないという雪に、まず本を買うことにした。
 肉と野菜を炒めて適当に塩を振ればいいだろうと自分の飯でなら思うが、せっかく本人がやる気を持っているのなら基本くらい知れたほうが良いだろう。
 こいつが今後出て行って冴木の元に戻らず一人暮らしをするとしても、最低限知っておくに越したことは無い。

 数少なくなったさほど大きくもない本屋の料理本コーナーで、"初心者"だとか"簡単"だとか"基本"だとかが書かれている本を見ていく。
 写真が多い方がいいか、調理法まで詳しく描かれている方がいいか、聞きながら次々に本を雪に見せていく。
 本人は真剣なもので、頭の中で実際に作ることを想定しているのかじっくりとページを睨むように見ていた。

 そこそこ長いこと突っ立って選んでいたが、最終的には2冊の本を買うことにした。
 1冊は道具の名前や切り方、ひとつまみという言葉の解説までされているような基本も基本の本だ。
 もう1冊は基本調味料だけで作れるとうたう本。
 その2冊をもとに、必要なものを買い揃えることにした。
 布団を買うときにも使用したホームセンターで、これまた時間をかけて選んでいく。
 うちには無かった大匙小匙・計量カップ、セラミックの料理用の鋏と包丁のセット、両手鍋等。

 何でも、安いのを。
 雪はそう口にして、すぐに否定した。
 俺の家に来るときにそういうのをやめろと言ったからだろうか。実際これからメインで使っていくのは雪なのだし、本人に適したものの方がいい。
「使っていくうちにこういうのがあればいいとか、使い勝手が悪いとか出てくるだろ。そん時にまた買い換えればいいよ」
 棚には商品が溢れている。
 雪でなくたって、何でも良いと言いたくなった。


 重い帰り道、整備された河川敷で散歩中の犬に寄ってこられた。
 もふもふ真っ白の犬はなかなかに大きく、その毛の中に雪の手を沈めた。
「初めて触った。すごい、柔らかくって」
 でも暑くないのかなと心配をする。
 珍しく興奮気味に話す雪の頭上には、こいつが描いていたような青空が広がっていた。
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