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第三章 捨てる、捨てない
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ケースケさんは仕事の愚痴を俺に言わない。
きっとオレなんかに言っても意味が無いからだと思う。
オレはケースケさんの仕事を理解せず、本当にただ聞くだけになる。
だから仕方が無いのだろうけど、オレが一方的に頼るばかりで情けなくなる。
これが自立をしろということなのかな、とふと思う。
一向に出て行かないオレをケースケさんは咎めない。
けれどケースケさんに頼ってばかりの情けないオレはケースケさんに頼られることは無く負担になっているだけ。
迷惑をかけているだけ。
この家の中でオレに出来ることをしたところで、この家のことなんてケースケさん自身が全て出来てしまう。
オレがいる必要はない。
しんどいも辛いも本当はケースケさんが言いたい言葉なのかもしれない。
それを言われてもオレには何もできない。
だから愚痴も聞かされないし、相談もされない。
どうしよう。
行き場のない不安が広がる。
ここを出ていきたくは無いのに、認めてもらうには出ていくしかない。
渡してもらったスマホで家の借り方を調べる。
文字はただ目を素通りしていくだけで頭に入ってこない。
ここを出て行って近くに住むことは出来るだろうか。
この団地は取り壊しになってしまうとケースケさんは言っていた。
だとしたら、いずれ自然と近いうちに出ていかなければならない時が来る。
オレが我儘を言い自立せずこの家にしがみついていようと、取り壊され別れる時が来る。
それなら自主的に出ていくほうが認めてもらえるのではないだろうか。
ちゃんと自分で考えて決めたんだなって褒めてもらえるんじゃないか。
頭に入ってこない数字を、図面を、何度も眺めた。
あの家から出ていくことを口にしてしまえばすぐに現実になってしまいそうで、休憩中にずっとスマホを見ていることを依子さんに聞かれても何も答えられなかった。
ただ寝るだけの場所なんか狭くていい。
お風呂はないと困る。
綺麗でいないとケースケさんに会えない。
鍵のしまる狭い部屋であればそれでいい。
買ってもらった服にくるまって寝れば、昔に比べ快適なほどに快適だろう。
とにかくケースケさんに近いところがいい。
あの夏の日のように、待っていればその姿を見られるように、今日会えずとも明日には会えると何度も通えるところがいい。
依子さんが見せてくれる子供のエコー写真。
まだ生まれていない人型のそれがお腹の中に入っているようには全然感じられない。
つわりでたまに吐くけどと軽く言う依子さんはそんな様子を見せはしない。
でも白黒の写真を見つめる姿に、何があっても出産が無事に終わるまでここで力になりたいと思った。
安定期に入った依子さん。
これは、ずるいと思うけど、依子さんが出産するまでの間ケースケさんの家にいたいと言ってしまおうか、と考えた。
最初から1年はずっとここで働く予定でいた。
だからそれを言い訳にして、離れられないんだと言い訳にして、家に居させてもらおうか。
きっとケースケさんは優しいから許してくれる。
でも、言い訳にしているのがばれてしまうかな。
ぐだぐだと言い訳をつけて行動しない奴だと思われてしまうかな。
そうしたら自立した人間から遠のいてしまう。
ケースケさんに好きだというにはちゃんとしていないといけないのに。
***
全部与えてもらったスマホで見れるのに、わざとらしくスーパーの入り口に置かれているフリーペーパーを貰ってきた。
昔からずっとこれを手に取ることを夢見ていた。
あの頃はこれを手にして、どこか違うところに住みたいと漠然とし過ぎる夢を思い描いていた。
でも今は、まだあったんだなと自分の意に反したことを思った。
これをテーブルに置いておけば、ケースケさんにアピールできると考えた。
ちゃんと出ていこうと行動しているんですってアピールできるって。
なのに、こんなの無ければいいのにとも思ってしまった。
この冊子があろうと無かろうと賃貸の情報はどこかしらで得られるのに、この手にした冊子が無ければと訳の分からない憎しみのような思いがあった。
いつ、これを出そうか。
仕事終わりのケースケさんに話したら疲れてしまわないだろうか。
仕事が休みの日だったら、そのまま駅前の不動産屋に連れていかれたりしないだろうか。
なるべく長くここにいたい。
なるべく早く自立した姿を見せなければ。
自立した人間ならケースケさんに好きになってもらえると、オレはそう思い込み始めていた。
きっとオレなんかに言っても意味が無いからだと思う。
オレはケースケさんの仕事を理解せず、本当にただ聞くだけになる。
だから仕方が無いのだろうけど、オレが一方的に頼るばかりで情けなくなる。
これが自立をしろということなのかな、とふと思う。
一向に出て行かないオレをケースケさんは咎めない。
けれどケースケさんに頼ってばかりの情けないオレはケースケさんに頼られることは無く負担になっているだけ。
迷惑をかけているだけ。
この家の中でオレに出来ることをしたところで、この家のことなんてケースケさん自身が全て出来てしまう。
オレがいる必要はない。
しんどいも辛いも本当はケースケさんが言いたい言葉なのかもしれない。
それを言われてもオレには何もできない。
だから愚痴も聞かされないし、相談もされない。
どうしよう。
行き場のない不安が広がる。
ここを出ていきたくは無いのに、認めてもらうには出ていくしかない。
渡してもらったスマホで家の借り方を調べる。
文字はただ目を素通りしていくだけで頭に入ってこない。
ここを出て行って近くに住むことは出来るだろうか。
この団地は取り壊しになってしまうとケースケさんは言っていた。
だとしたら、いずれ自然と近いうちに出ていかなければならない時が来る。
オレが我儘を言い自立せずこの家にしがみついていようと、取り壊され別れる時が来る。
それなら自主的に出ていくほうが認めてもらえるのではないだろうか。
ちゃんと自分で考えて決めたんだなって褒めてもらえるんじゃないか。
頭に入ってこない数字を、図面を、何度も眺めた。
あの家から出ていくことを口にしてしまえばすぐに現実になってしまいそうで、休憩中にずっとスマホを見ていることを依子さんに聞かれても何も答えられなかった。
ただ寝るだけの場所なんか狭くていい。
お風呂はないと困る。
綺麗でいないとケースケさんに会えない。
鍵のしまる狭い部屋であればそれでいい。
買ってもらった服にくるまって寝れば、昔に比べ快適なほどに快適だろう。
とにかくケースケさんに近いところがいい。
あの夏の日のように、待っていればその姿を見られるように、今日会えずとも明日には会えると何度も通えるところがいい。
依子さんが見せてくれる子供のエコー写真。
まだ生まれていない人型のそれがお腹の中に入っているようには全然感じられない。
つわりでたまに吐くけどと軽く言う依子さんはそんな様子を見せはしない。
でも白黒の写真を見つめる姿に、何があっても出産が無事に終わるまでここで力になりたいと思った。
安定期に入った依子さん。
これは、ずるいと思うけど、依子さんが出産するまでの間ケースケさんの家にいたいと言ってしまおうか、と考えた。
最初から1年はずっとここで働く予定でいた。
だからそれを言い訳にして、離れられないんだと言い訳にして、家に居させてもらおうか。
きっとケースケさんは優しいから許してくれる。
でも、言い訳にしているのがばれてしまうかな。
ぐだぐだと言い訳をつけて行動しない奴だと思われてしまうかな。
そうしたら自立した人間から遠のいてしまう。
ケースケさんに好きだというにはちゃんとしていないといけないのに。
***
全部与えてもらったスマホで見れるのに、わざとらしくスーパーの入り口に置かれているフリーペーパーを貰ってきた。
昔からずっとこれを手に取ることを夢見ていた。
あの頃はこれを手にして、どこか違うところに住みたいと漠然とし過ぎる夢を思い描いていた。
でも今は、まだあったんだなと自分の意に反したことを思った。
これをテーブルに置いておけば、ケースケさんにアピールできると考えた。
ちゃんと出ていこうと行動しているんですってアピールできるって。
なのに、こんなの無ければいいのにとも思ってしまった。
この冊子があろうと無かろうと賃貸の情報はどこかしらで得られるのに、この手にした冊子が無ければと訳の分からない憎しみのような思いがあった。
いつ、これを出そうか。
仕事終わりのケースケさんに話したら疲れてしまわないだろうか。
仕事が休みの日だったら、そのまま駅前の不動産屋に連れていかれたりしないだろうか。
なるべく長くここにいたい。
なるべく早く自立した姿を見せなければ。
自立した人間ならケースケさんに好きになってもらえると、オレはそう思い込み始めていた。
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