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第三章 捨てる、捨てない
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ゴールデンウィークだというのにどこにも連れて行ってやれないとケースケさんはオレに謝ってきた。
3交代の仕事は土日や祝日という決まった休みが無く、ゴールデンウィークも稼働しているという。
オレは行きたいところがあるわけでも期待していたわけでもないからなぜ謝るのかわからなかった。
そもそも、連休に遊びに行くという概念がわかっていてもやったことがなく、他人事の話だった。
夏にはまだ早い暖かな風と日差しの中で窓を開けて安全な部屋の中にいる。
そのことが夢のようだった。
依子さんが検診の日はお休みで、翌日には赤ちゃんの成長を話してもらう。
エコー写真を見せてもらって、自分の兄弟でもないのに気にかけた。
まだ名もなく性別もわからないお腹の中の子にオレも一緒に呼び掛けた。
夏に出産日が予定されている依子さんの病院の電話番号と、ケースケさんの電話番号。
何度も何度も繰り返す。
薄着になっていくたびに着実に日が経つのを感じて緊張と不安があった。
とっくに次の号が出ている賃貸冊子を捨てられずにいる。
いずれそれをまた見なければいけなくなるんだろうと悲しい思いがある。
クリスマスプレゼントに貰った水彩画用紙は綺麗に色を滲ませた。
オレのためを思って買ってくれたそれを、少しずつ使う。
片付けが簡単になるだろうと渡されたそれらは実際にそうで、ぼんやりして慌てて立ち上がる時にも絵具の汚水を零す必要が無くて助かった。
スマホでこっそり撮ったケースケさんの写真を見て、写し描く。
この写真が無くなってしまってもオレの頭の中から消えなければいい。
風が吹いて絵具はすぐに乾いていく。
色の輪郭が綺麗に絵を飾る。
ケースケさんの短く黒い髪は日に照らされても色が透けない。
体力を使うお仕事で鍛えるでもなく鍛えられた腕に、いつも触れたいと思ってしまう。
ケースケさんのベッドにもぐりこんでいることを、あの人は寂しさだと言った。
それだけではないのだと否定を口にすることは出来ない。
寂しさなんて可愛い物だけだったら、許してもらえる。
恋人になれば疚しさは無くなるのかな。
20歳になればこの体を使ってもらうこともできるのかな。
20歳になって、もし、オレが行動を起こして拒絶されたなら、その時は本当にここを出ていくとき。
20歳になっても受け入れてもらえないのなら、きっと30歳でも40歳でも受け入れてはもらえない。だからやっぱり出ていくとき。
20歳を曖昧なまま通り過ぎたとしてもきっといつかオレのやましさはばれてしまう。
むしろ、20歳までもてばいいのかな?
ハタチになって成人して、ケースケさんに襲い掛かってしまおうか。
そんなことを、考える。
3交代の仕事は土日や祝日という決まった休みが無く、ゴールデンウィークも稼働しているという。
オレは行きたいところがあるわけでも期待していたわけでもないからなぜ謝るのかわからなかった。
そもそも、連休に遊びに行くという概念がわかっていてもやったことがなく、他人事の話だった。
夏にはまだ早い暖かな風と日差しの中で窓を開けて安全な部屋の中にいる。
そのことが夢のようだった。
依子さんが検診の日はお休みで、翌日には赤ちゃんの成長を話してもらう。
エコー写真を見せてもらって、自分の兄弟でもないのに気にかけた。
まだ名もなく性別もわからないお腹の中の子にオレも一緒に呼び掛けた。
夏に出産日が予定されている依子さんの病院の電話番号と、ケースケさんの電話番号。
何度も何度も繰り返す。
薄着になっていくたびに着実に日が経つのを感じて緊張と不安があった。
とっくに次の号が出ている賃貸冊子を捨てられずにいる。
いずれそれをまた見なければいけなくなるんだろうと悲しい思いがある。
クリスマスプレゼントに貰った水彩画用紙は綺麗に色を滲ませた。
オレのためを思って買ってくれたそれを、少しずつ使う。
片付けが簡単になるだろうと渡されたそれらは実際にそうで、ぼんやりして慌てて立ち上がる時にも絵具の汚水を零す必要が無くて助かった。
スマホでこっそり撮ったケースケさんの写真を見て、写し描く。
この写真が無くなってしまってもオレの頭の中から消えなければいい。
風が吹いて絵具はすぐに乾いていく。
色の輪郭が綺麗に絵を飾る。
ケースケさんの短く黒い髪は日に照らされても色が透けない。
体力を使うお仕事で鍛えるでもなく鍛えられた腕に、いつも触れたいと思ってしまう。
ケースケさんのベッドにもぐりこんでいることを、あの人は寂しさだと言った。
それだけではないのだと否定を口にすることは出来ない。
寂しさなんて可愛い物だけだったら、許してもらえる。
恋人になれば疚しさは無くなるのかな。
20歳になればこの体を使ってもらうこともできるのかな。
20歳になって、もし、オレが行動を起こして拒絶されたなら、その時は本当にここを出ていくとき。
20歳になっても受け入れてもらえないのなら、きっと30歳でも40歳でも受け入れてはもらえない。だからやっぱり出ていくとき。
20歳を曖昧なまま通り過ぎたとしてもきっといつかオレのやましさはばれてしまう。
むしろ、20歳までもてばいいのかな?
ハタチになって成人して、ケースケさんに襲い掛かってしまおうか。
そんなことを、考える。
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