君となら

紺色橙

文字の大きさ
34 / 41

34 約束決行

しおりを挟む
 パソコンはシャットダウンされたわけではなく、ただ眩しさのためにモニターの電源を落とされた。下の方で本体のランプが赤く光っているが、体を起こさなければ気にならない。
 ゴロンと転がったベッド。小さく漏れたあくびを一つ。続いて誘発された大きなあくびをもう一つ。
 外は熱帯夜だというのに室内はいつも27度に保たれている。薄い夏掛けを足元からお化けが入ってこないように爪先まで詰めた。汗をかいてしまわないように首元は開け腕を出し、いそいそと隣に入ってきた仁を薄目に見る。
 本当はもっと仕事をしていたいんだろうに、仁はオレが眩しいだろうからとベッドに入るのだ。オレがちゃんと家に帰ればそんなことをさせずに済むのに、甘えている。

 腕が触れないように壁際に張り付く。なのに仁はもっと真ん中においでと言う。オレは美少女アキラよりも体が大きいから、ゲームの中よりもベッドは狭い。触れようとせずとも届く指先が触れてしまうのが、申し訳なくて、ほっとする。

「おやすみ」

 目を閉じたまま呟いた。



***


 山田に連絡を取り、連れてきたのはあの池。美女が出ると噂だがあいにく遭遇できていないあの池である。
 当然山田にも美女が出るらしいよと噂話はしておいた。実際に美女か化け物かは分からないが、何か大物に遭遇する可能性はあるということだ。

「この下に通路がある。ひたすらまっすぐ進めば海岸に出るから、横道は行ってないんだ。それに通路の下にも水槽があって、何が隠されててもおかしくない」
「とりあえず行ってみるしかねーな」

 今度は足を踏み外すのではなく、足元から勢いよく飛び込んだ。続いて後ろに山田が落ちてくる。振り返り一瞬確認して、指先で深い場所を示した。
 山田はすい、とオレを越して行く。大きな体は水の中で自由に動いた。どこに括り付けているのかでかいハンマーを背負っているのに沈んでいかないのだからファンタジーだ。
 水の中は以前見た時と変わらず美しく、魚はオレたちを避けてくれる。濁ってもいないし、見たことのないモンスターも発生していない。状況が変わっていないことは安心材料の一つだ。突然水草が意思をもって絡んできたら困る。刃物は無いし勝てる気がしない。

 一度沈んでいるものだから呼吸の恐怖もなく、前回よりも落ち着き余裕をもって入口にたどり着いた。相変わらずの光のカーテンをくぐれば、酸素がある。

「おおー、ほんとだ」
「オレはここで何も見つけられてない」
「探索しがいがあるな」

 ツインテールではなくなった髪が重たい気がする。結んでいる時よりも水を含んでいるからだろうか。経験上すぐ乾くとはわかっていたが、手で絞る。

「水のスキル石がないかなーってここに来たんだよね。でもボスにも会えてないから」
「スキル石ってものがボス限定だと狩場で喧嘩になるし、多分他にも入手手段があると思うんだよな」
「採掘みたいな」
「そうだな。だとするなら、いっぱいある何かからドロップする可能性がある」
「キバウオって魚のモンスターは殺したけど出なかったな。でも数倒してはいないし……」
「ま、適当に戦うか」



 真っすぐは行かない。横道があればそこへ行き、行き止まりになれば戻る。敵が出れば逃げずに戦い、そのドロップを見守った。
 キバウオとの戦いは経験済みだし、火力が居るものだから随分と楽になっていた。山田がハンマーで殴り、ぐえっとなっているところを燃やす。かなり一方的な戦いじゃなかろうか。それでも耐久力があるから一度に何匹もは相手していられなかったけれど、優しいキバウオたちは集団では襲い掛かってこなかった。

「出ねーな」
「やっぱり水の中かなぁ」

 水槽を覗き込む。水の中では火は効かないだろう。噴火ほどの火力ならまだしも。
 前回見た感じ、水中に鉱石はなかった。火のスキル石と同じように採掘で取れるなら、ここではないどこかになる。それとも何か違うものだろうか。はたまた、ここには存在していないのだろうか。

「スキル石自体は初期に貰えていいと思うんだよね……。でもここじゃないのかな」
「まだあの魚しか叩いてねーし探すしかないだろ」

 でかい魔法を出すのに鍛錬や慣れが必要とされるとしても、その基本となる小さな魔法を生み出すスキル石そのものは最初期に貰えてもいいはず。事実火のスキル石はそうだった。鉱石を地道に叩けば出るというのも、ボスを倒せないソリストに優しい。ということは町の近場で得られておかしくない――と数多のゲームの経験上思う。あの池は王都から近いし、町の人が美女の噂話を知っている。何もないところよりも発見しやすい。だからここで見つかる可能性はかなり高いと思うんだけれど。
 山田の言う通り探してみるしかない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

古森きり
BL
東雲学院芸能科に入学したミュージカル俳優志望の音無淳は、憧れの人がいた。 かつて東雲学院芸能科、星光騎士団第一騎士団というアイドルグループにいた神野栄治。 その人のようになりたいと高校も同じ場所を選び、今度歌の練習のために『ソング・バッファー・オンライン』を始めることにした。 ただし、どうせなら可愛い女の子のアバターがいいよね! と――。 BLoveさんに先行書き溜め。 なろう、アルファポリス、カクヨムにも掲載。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

どうしてこんな拍手喝采

ソラ
BL
ヤクザ×高校生

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

処理中です...