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第一章 宮田颯の話
1-4 席替え
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チャイムが鳴る1分前に保健室を出た。
教室に戻ったが入らず、ドアの前で先生が出てくるのを待つ。
速攻捕まえて席替えを頼まなければならない。
「先生!」
出てきた数学教師を呼び止める。
「おお、なんだ。大丈夫か?」
「先生、席替えして欲しいんです。担任の林先生にも話しつけてください」
「席替え?」
「昨日来た上条君がアルファじゃないですか。それで俺具合悪くなるみたいです」
あ、言い方が悪かったかもしれない。
言った内容はそのもの事実だとは思うが、これだとアルファを悪人にしているように聞こえる。
「俺オメガで体調崩しちゃうし、迷惑かけるから」
先ほどのフォローになってるようには聞こえないがとりあえず足す言葉。
「まぁ席替えくらいなら……」
「僕がいると具合悪くなっちゃう?」
先生の後ろから現れた上条に、自然と体が後ろに引いた。
「そ、う」
否定はできない。
お前が悪いわけじゃないけど、と言いたいけれど言いたくもない。
「そうなんだ」
残念だけどと本当に心から残念がる様に上条は悲しんで見せた。
「悪いな。今までアルファなんて近くに来たことなかったから、こんなに強いって思わなかったんだ」
オメガというものがこんなに強くアルファに反応するなんて、知識でしか知らなかった。
「仲良くはしてくれる?」
「なかよく……」
声には出さず曖昧に頷く。
仲良くなんかできるわけがない。
メリットが一つもない。
「席が離れてても友達だよね」
友達になった覚えは一つもない。
だって昨日の今日だ。
廊下に出ていてた人間から、教室の中から、注目される。
アルファが何かを言っている。相手は誰? いったい何を?
この注目の中でアルファを否定はできなかった。
「うん」
席替えはすぐに行われた。
上条の席は窓際後ろの俺とは一番遠くなるように、対角線上に移動した。
何事もなく移動してくれたことに安堵する。
一つずつ後ろにずらされたクラスメイト達は面倒そうではあったが迷惑そうな顔はしなかった。
突然アルファが隣の席になった奴は早くも話しかけている。
「倒れたのあいつが原因?」
日暮が小さな声で聴いてくる。
「わかんない。けど今までなったこと無いし、可能性が一番高い」
「ふぅん」
ベータの日暮は俺の発情期に対して「面倒そうだな」という感想しか持っていない。
発情期ってどうなるのとか、どんな匂いがするのとか、知り合って数日で散々聞かれたことがある。
それにすべて適当に答えたが、日暮はそれで納得したようでそれからは俺のことを気遣ってくれている。
「とりあえず病弱な奴って感じだろ」と言っているから、こいつも適当な奴ではあるが。
次の授業の先生に促され、静かになる教室。
上条がこっちを見ている気がしたが、恨まれるほどのことは、していないと思う。
***
席替えをしてから学校が終わるまで頭痛は続いた。
これは薬の副作用でいつものことだし上条のせいでは無いと思いつつも、なんとなく勝手に浮かんでくる顔に怒りを向けてしまう。
薬を変えた方が良いんだろうか。
あいつのせいでなかったとして、単純に薬が合わなくなってしまったとかあるのかもしれない。
腐っても成長期だし、1年ほど前から徐々に明確に強まってきた発情期は夜の飲み薬一つでは治まらないのかも。
サイトで薬についての情報を見てみようと頭の中にメモをする。
だるい体を引きずるように廊下に出て、昇降口へ向かう。
「颯君」
慣れない呼び名に振り返る。
あまり見たくない顔に、露骨に嫌な顔をしてしまったことが自分でわかる。
「何」
頭が痛い。体が熱い。
「ちょっと、それ以上近寄ってくんな」
「そんな」
酷い、と続きそうな声。
「悪い。今あんまり調子が良くない」
「そうみたいだね。車で送ろうか?」
「はぁ?」
ただの高校生が何を言うのかと思い、ああこいつはアルファだから環境も違うのかと思い浮かぶ。
もしかしたら今までの学校では送り迎えが当然だったのかもしれない。
この学校では自転車や徒歩が普通でも、アルファの世界は違うのかもしれない。
「すぐ呼ぶから」
「いらねぇ」
語気が荒くなる。
「でもそんなに」
頭が痛い。
ずきずきと、痛む箇所が前から全体へと広がっていくようだ。
離れなければ。絶対にこいつが原因だ。離れないと。
「すぐに呼ぶから、少し休んでいて」
「いらねぇ」
先ほどのように音が白く遠くなっていく。
まるで貧血を起こしたかのように、このままではまた倒れてしまう。
発熱しだす体で後退る。
距離を保てないままに近寄られる。
「仲良くしてほしいんだ」
手で押さえたところで何もならないのに頭を押さえ、視界には足元しか映らない。
そこに、俺のではない足が見えた。
「辛そうだね」
薬を飲まなければ。
息が上手くできない。
薬を飲まなければ。
ポケットを探り、万が一の発情期用の予備の錠剤を震えた手で取りだす。
体が熱い。
「颯君」
名を呼ばれ反射的に顔を上げた。
視線は縫い付けられたように上条から離れず、自分の手元すら確認できない。
「薬?」
手が触れる。
薬のシートごと口に入れてしまえば零すこともないだろうと思っていたのに、触れられた体温に身体が反応して落としてしまう。
拾わないと。
今すぐあれを飲まないと。
思うのに、上条から目が離せない。
怖い。
「どうしてほしい?」
俺はただ帰りたかった。
帰って薬のことを調べて、いつものように桃と話して、それで――。
「たすけて」
落ちた薬は拾えなかった。
教室に戻ったが入らず、ドアの前で先生が出てくるのを待つ。
速攻捕まえて席替えを頼まなければならない。
「先生!」
出てきた数学教師を呼び止める。
「おお、なんだ。大丈夫か?」
「先生、席替えして欲しいんです。担任の林先生にも話しつけてください」
「席替え?」
「昨日来た上条君がアルファじゃないですか。それで俺具合悪くなるみたいです」
あ、言い方が悪かったかもしれない。
言った内容はそのもの事実だとは思うが、これだとアルファを悪人にしているように聞こえる。
「俺オメガで体調崩しちゃうし、迷惑かけるから」
先ほどのフォローになってるようには聞こえないがとりあえず足す言葉。
「まぁ席替えくらいなら……」
「僕がいると具合悪くなっちゃう?」
先生の後ろから現れた上条に、自然と体が後ろに引いた。
「そ、う」
否定はできない。
お前が悪いわけじゃないけど、と言いたいけれど言いたくもない。
「そうなんだ」
残念だけどと本当に心から残念がる様に上条は悲しんで見せた。
「悪いな。今までアルファなんて近くに来たことなかったから、こんなに強いって思わなかったんだ」
オメガというものがこんなに強くアルファに反応するなんて、知識でしか知らなかった。
「仲良くはしてくれる?」
「なかよく……」
声には出さず曖昧に頷く。
仲良くなんかできるわけがない。
メリットが一つもない。
「席が離れてても友達だよね」
友達になった覚えは一つもない。
だって昨日の今日だ。
廊下に出ていてた人間から、教室の中から、注目される。
アルファが何かを言っている。相手は誰? いったい何を?
この注目の中でアルファを否定はできなかった。
「うん」
席替えはすぐに行われた。
上条の席は窓際後ろの俺とは一番遠くなるように、対角線上に移動した。
何事もなく移動してくれたことに安堵する。
一つずつ後ろにずらされたクラスメイト達は面倒そうではあったが迷惑そうな顔はしなかった。
突然アルファが隣の席になった奴は早くも話しかけている。
「倒れたのあいつが原因?」
日暮が小さな声で聴いてくる。
「わかんない。けど今までなったこと無いし、可能性が一番高い」
「ふぅん」
ベータの日暮は俺の発情期に対して「面倒そうだな」という感想しか持っていない。
発情期ってどうなるのとか、どんな匂いがするのとか、知り合って数日で散々聞かれたことがある。
それにすべて適当に答えたが、日暮はそれで納得したようでそれからは俺のことを気遣ってくれている。
「とりあえず病弱な奴って感じだろ」と言っているから、こいつも適当な奴ではあるが。
次の授業の先生に促され、静かになる教室。
上条がこっちを見ている気がしたが、恨まれるほどのことは、していないと思う。
***
席替えをしてから学校が終わるまで頭痛は続いた。
これは薬の副作用でいつものことだし上条のせいでは無いと思いつつも、なんとなく勝手に浮かんでくる顔に怒りを向けてしまう。
薬を変えた方が良いんだろうか。
あいつのせいでなかったとして、単純に薬が合わなくなってしまったとかあるのかもしれない。
腐っても成長期だし、1年ほど前から徐々に明確に強まってきた発情期は夜の飲み薬一つでは治まらないのかも。
サイトで薬についての情報を見てみようと頭の中にメモをする。
だるい体を引きずるように廊下に出て、昇降口へ向かう。
「颯君」
慣れない呼び名に振り返る。
あまり見たくない顔に、露骨に嫌な顔をしてしまったことが自分でわかる。
「何」
頭が痛い。体が熱い。
「ちょっと、それ以上近寄ってくんな」
「そんな」
酷い、と続きそうな声。
「悪い。今あんまり調子が良くない」
「そうみたいだね。車で送ろうか?」
「はぁ?」
ただの高校生が何を言うのかと思い、ああこいつはアルファだから環境も違うのかと思い浮かぶ。
もしかしたら今までの学校では送り迎えが当然だったのかもしれない。
この学校では自転車や徒歩が普通でも、アルファの世界は違うのかもしれない。
「すぐ呼ぶから」
「いらねぇ」
語気が荒くなる。
「でもそんなに」
頭が痛い。
ずきずきと、痛む箇所が前から全体へと広がっていくようだ。
離れなければ。絶対にこいつが原因だ。離れないと。
「すぐに呼ぶから、少し休んでいて」
「いらねぇ」
先ほどのように音が白く遠くなっていく。
まるで貧血を起こしたかのように、このままではまた倒れてしまう。
発熱しだす体で後退る。
距離を保てないままに近寄られる。
「仲良くしてほしいんだ」
手で押さえたところで何もならないのに頭を押さえ、視界には足元しか映らない。
そこに、俺のではない足が見えた。
「辛そうだね」
薬を飲まなければ。
息が上手くできない。
薬を飲まなければ。
ポケットを探り、万が一の発情期用の予備の錠剤を震えた手で取りだす。
体が熱い。
「颯君」
名を呼ばれ反射的に顔を上げた。
視線は縫い付けられたように上条から離れず、自分の手元すら確認できない。
「薬?」
手が触れる。
薬のシートごと口に入れてしまえば零すこともないだろうと思っていたのに、触れられた体温に身体が反応して落としてしまう。
拾わないと。
今すぐあれを飲まないと。
思うのに、上条から目が離せない。
怖い。
「どうしてほしい?」
俺はただ帰りたかった。
帰って薬のことを調べて、いつものように桃と話して、それで――。
「たすけて」
落ちた薬は拾えなかった。
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