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はろーまいぷりんす!

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私の腰を類くんは力強く抱いて、離れないようにそばに置く。


「大丈夫?どこに行こうとしてた?」

「あ……、えっと…」


ちらっと2人組を見るとバツが悪そうに小言を吐き捨てながら向こうに行ってしまった。

そしてそれを見送ると、類くんはパッと私を離して怪訝そうに見下ろす。


「もう離れていいんじゃない」

「あ、ごめんなさい」


私も類くんから2、3歩離れてまたそっと彼を見上げた。

ら、もうすでに駅の方に歩いてしまっていて慌てて私は彼の後ろを追う。


「あのっ、あのっ、ありがとう類くん!」

「…ああいうことよくあんの?」

「え?んー、いや?ナンパはされてもあそこまで強引なのはなかったような」

「まあどうでもいいけど」


スタスタとこちらの歩幅など構いもせず脚の長い彼は行ってしまう。

ゆえに私はとにかく小走り。


「でもっ、類くんよく気づいたね。裏口こっちの方角とは反対なのに」

「…べつに」

「私も今度から気をつけるね!特にラストだと終電ギリな時間だしっ」

「あんた家どこ?」


そう、終電ぎりぎりの時間なのよ、今。

だからきっと、類くんは足が速くなってるんだって思ってた。


「え、えっと」

「送る」


類くん、最初は冷たい人だと思ってた。
というか人に興味ないのかなって。

だっていつもバイト上がったらとっとと帰っちゃうし、皆とも必要最低限のやりとりしか交わさないし。

だからちょっと、いやだいぶ。

嬉しいかも、なんて。


それから最終の電車に乗ると、本当に類くんはついてきてくれてしまって。

何を話すでもなくただ歩いて帰っただけなんだけど、それが心地よくて。

なんだかんだ家まで送ってもらってしまいました。


「類くん!送ってくれて本当にありがとう!終電もうないよね?どうするの?うち泊まる?」

「あんたの実家に?それはないでしょ」


ですよねー。

そうは思いつつもそんなことしか思い浮かばず、あ!と思って私は家の鍵を探す。


「待ってて類くん!今タクシー代貰ってくるから!」

「いらない」

「や、悪いよそんな!ちょっと待ってて!」

「金ならあるから心配しなくていい」


そう言うと彼はまたスタスタ歩いてあっという間に見えなくなってしまった。

なんだろう、これ。

なんだか。

なんだか。

心があったかいというか、きゅんとするというか。


恋に落ちてしまったような音が聞こえてしまったのだ。
 
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