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もう恋なんてしないなんて
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しおりを挟む女なら誰でもいいって言う類くんには、ほんとは誰でもいいんじゃなくて特別な人がいた。
初恋で、特別で、今でも忘れられていない大切な人。
あの人を超えるには、私どうしたらいいんだろう。
それから少しして2学期も始まり、類くんとバイトのシフトが被る日がきた。
憂鬱だなー、どんな顔して話したらいいんだか。
そんな事を考えながら、それでも会いづらくてぎりぎりの時間に出勤して、類くんとは離れた位置に立っていたらお客さんが来店した。
「いらっしゃいま、せ…」
「予約してないんですけど、2人入れますか?」
男性がそう尋ねてきて、その後ろから姿を見せたのは今最も顔を見たくないナンバー1の麗華さんだった。
あまりに不意打ちだったからしばらく停止していると、奥にいた優斗も気づいて慌てて私のフォローに入ってくれる。
席に案内された2人に類くんも気づいて、すると麗華さんはわざとらしく類くんに声をかけた。
「あれ?もしかして類くん?」
「え?わ…、ほんとだ!類くんじゃん」
にこにこ麗華さんは微笑みながら手を振り、類くんも驚いた顔をして彼らのテーブルに近づく。
「類くんだよね?覚えてる?ほら君が中学生くらいの時に近所に住んでた間宮だよ」
「あ……、ご無沙汰してます」
「ご無沙汰だって。かしこまっちゃって。すごーい、身長伸びたのねえ」
まるで今ここで初めて会ったかのように振る舞う麗華さん。
いやあんたもうすでに何回か類くんに会ってるでしょうが!と言ってやりたい気持ちを、何も知らないだろう旦那さんのためにググッと押さえ込む。
「もしかしてこの辺りに住んでるの?類くん」
「…まあ、一応一人暮らししてます」
「そっかー。いや、5年ぶりに戻ってきたけどそんなに駅前も変わってないし、まさか類くんにまた会えるなんて思わなかったな」
「本当ね」
何をいけしゃあしゃあと……!と暴れたい気持ちが飛び出し掛けて、優斗に落ち着けと止められる。
しかも旦那さんがすごく良い人そうな感じがするから余計はらわたが煮えくりかえってきた。
「今も出張やら転勤が多くて麗華には寂しい思いさせてるからさ。また昔みたいに遊んでやってよ」
「…はあ」
旦那さん、この人たちもう遊んでるから!
そんな簡単に嫁の首輪外しちゃだめだから!
叫び出したい気持ちとの葛藤に苦しむなか、やっと類くんは解放されたらしく厨房に一時避難してきた。
それを類くんから見える範囲でじーっと睨む私。
「……んだよ、その目は」
「…旦那さんとどんな気持ちで会話してんのかなっていう汚い物を見るような目」
ふんっ、と私は珍しく怒ってホールに戻って行った。
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