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どうやら夏はまだ終わらない
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しおりを挟むそれからしばらくして。
「…めーいーこー」
「ごめんなさい!すいません!方向音痴でごめんなさい!」
バスから降りてきた優斗は怒りながらも笑っていて、そんな優斗を見てやっと少しほっとする事ができた。
優斗はこちらに向かう途中にいろいろと調べてくれていて、皆とはとある寺で落ち合うことになっていた。
「ったく。だからフラフラすんなよって言ってたのに」
「いやー面目ない」
「高校生にもなってバス間違えて気づかないってどういう大人だよ」
「だって京都ってバスいっぱい通ってるの知らなかったんだもん」
「皆心配してたぞ。ななも」
次の目的地に向かうためのバス停に向かって私たちは歩いていた。
ななも心配してくれたのか。
昨日から悪いことばかりしてるな、私。
バス停に着いて時間を見るとあと15分くらいあって、私たちは日陰になっている椅子に腰掛けて電車を待つ。
「ななのことは気にするな。多分もう機嫌戻ってるよ」
「そうなの?」
たぶんね、と優斗は優しく言う。
優斗にそう言われると、そうなんだとストンと心に響いた。
「それよか一条の事だろ。前の、あの夫婦が焼肉食べにきた時の」
「うん……。まあ、あれより前から類くんにはこれ以上あの人について詮索するなって言われてはいたんだけど」
足をバタバタと小さく振る。
ハゲた青色のペンキの椅子がキシキシと鳴る。
「……不倫ってさ、よくないじゃん」
「よくないな」
「でもきっと、皆何かしらの理由があってそうなってしまうって事なんだと思うんだよ。だめだけど、それもわかってて」
まだ私は大人じゃないから。
複雑な大人の気持ちなんてわからない。
「類くんには類くんの過去があって、気持ちがあって。それが初恋ともなるとこじらせ方がすごくて」
「うん」
「どうしたら類くんが幸せになれるのかなって、ずっと考えてるんだ」
本当は、私が類くんを幸せにしたいけど。
類くんが心の底から彼女を大事に思って、何に変えても彼女がよくて、それが本当の幸せだというなら私が身を引くのはポジティブな選択。
でも、あの人で本当にいいの?
あの人は本当に類くんを見てくれているの?って。
どうしても聞きたくなるから難しい。
優斗は黙って私の話を聞いてくれて、難しい顔をして静かに言った。
「明子に、あいつを幸せにしたいって気持ちがあるならそれで十分だろ」
私はあまり頭がよくないから。
優斗がシンプルに出してくれる答えがいつも有り難かったりする。
「その気持ちがわからないやつに、明子はもったいないよ」
汗が彼の首筋につつ、と流れて落ちた。
優斗が伝えてくれる優しい言葉が私の心を解してくれる。
「優斗はさ、ほんと優しすぎるよね。いつも私を慰めてくれてありがとう」
「はいはい」
「でも、好きな子ができたらその子を1番に優先してあげなきゃだめよ?女の子は嫉妬しいなんだから。ま、私はちょっと寂しくなるけどさ!」
そう私が冗談めかしてガハハと笑うと、優斗が突っ込んでくるかと思ったら少し苦い表情をして笑う。
「…そんなの、当たり前だろ」
低い、静かな声。
耳障りのいいその声は少し寂しげだった。
それから少ししてバスが来て、席はがらがらに空いていたから2人で奥の席に座る。
すると優斗は私に手を差し出して言った。
「この前のさ、お礼、ちょうだいよ」
「ああ、2人をストーキングした時のあれね。何に決めたの?」
「手、繋いで。バスを降りるまででいい」
そんなこと?と思って私は躊躇いなく彼の手を握る。
あ、ちょっと汗かいてるかも、と思って一度拭おうとしたらぎゅっと握られた。
「バス降りるまでダーメ」
そう言う優斗の横顔は、少し楽しそうだった。
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