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だって君が大切だから
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しおりを挟むその後のバイトはもちろんルンルンだった。
飛び跳ねるんじゃないかってくらいぴょんぴょん跳ねて歩いていたから、店長までななにめいちゃんに何があったのかって聞いてたくらい。
とにかくそれくらいのビッグニュース。
だってだって、あの人と群れるのが嫌いで私を煙たがり何度も拒絶していた類くんが!
ついに!
私を自ら家に誘うだなんて……!
「お待たせしましたーっ!お通しのピリ辛きゅうりでーすっ」
「めーちゃん今日めっちゃテンション高くない?何か良いことあったの?」
「わかります?嬉し過ぎて身体が軽いんです」
おじさんたちとのコミュニケーションも弾む弾む。
そんなこんなで楽しくバイトをして、時間通り21時に上がって私は先に更衣室で着替えていた。
類くんも21時上がりなんだけど、社員さんに何かを教わっていてまだかかっているみたい。
休憩室で待ってようと鞄をロッカーから出すと、携帯に着信が入った。
画面を見ると優斗から。
普段やり取りをするにしても優斗とはLINEが多い。
どうしたのかなーと思って、休憩室の椅子に腰を下ろして電話を取る。
「やほー優斗。どったの?」
『……明子』
ぼそ、と優斗の声がする。
あまりに小さい声だったから、携帯の電波が悪いのかと思って耳をよくくっつけてみる。
「優斗?あんま声聞こえないんだけど、何かあった?」
電波とかのせいというより、なんかおかしい。
優斗の様子が変だ。
私はへらへらするのをやめてまた聞く。
「ねえ優斗。どうしたの?」
『…母さんが』
絞り出すような声。
私はその小さな声に耳を傾ける。
『…母さんが、倒れた……』
は?!と私は声を出して立ち上がる。
えっ、えっ、と私の方がパニックになって休憩室をうろうろと歩いた。
「倒れたって……、いつ?病院は?」
『……30分くらい前に母さんが倒れて、救急車呼んで今は病院に来てる。緊急手術になって、まだ…』
「病院ってどこの?教えて!」
優斗から聞いた病院を私はすぐに検索して場所を調べた。
そして鞄を手に取る。
「優斗、すぐ行く」
そう言って私は電話を切って休憩室を出ようとする。
すると退勤した類くんが休憩室に入ってきて私は振り返った。
「ごめん類くん!急用ができたの!また今度絶対お家行くから!」
そう言い残すと私は走って焼肉屋を後にする。
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