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だって君が大切だから

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優斗のおばちゃんは、昔からすごくパワフルで明るくて楽しい人だった。

私のこともめいちゃんと呼んで可愛がってくれたし、小さい頃はうちの家族とご飯を食べに行ったりもした。

そんなおばちゃんだから他人事だとは思えなくて、私はバイト終わりの身体に鞭打って病院まで走った。

病院に着いてしばらく人影を探して歩くと、優斗が一人で待合のソファに腰を下ろしているのが見えた。


「優斗!」


見つけてすぐ駆け寄って、息を吐く間もなく優斗の手を握る。


「おばちゃんは?!」

「…まだ、手術してる」


そっか…、と私は力なく答え、優斗の隣にどさっと座った。

看護師さんたちが慌ただしく廊下を通っていく中、私は言葉を選びながら優斗に聞く。


「その…、どういう状況だったの?」

「……母さん、今日も仕事があったから19時くらいに帰ってきて、そっから俺が作った飯を食べてケーキ食べて」


そっか、おばちゃん誕生日だったじゃん、と思い出す。


「俺が片付けておくから風呂入ればって言って、しばらくしたら脱衣所の方で何かが崩れ落ちるような大きな音がしたから、慌てて見に行ったら風呂に入る前に母さんが倒れてた」


ぽつぽつとゆっくり彼は話してくれた。

私はこくこくと頷きながら優斗の力の抜け切った左手を握り続ける。


「親戚も県外だからすぐには来れないし……、ごめん。一人でいられなくて、明子に電話しちゃった…」

「…そんなの、全然気にしなくていいんだよ!一人じゃ不安に決まってるもん!」


優斗のお父さんは彼が小さい頃に亡くなっている。
だから頼れる大人が優斗の近くにいないんだ。

私はただ優斗のそばにいる事しかできないけど、一緒におばちゃんの身を案じてドキドキしながら待ち続けた。

それから1時間ほどして手術室のランプが消え、少ししてお医者さんが出てきた。


「佐々木貴代さんの息子さんかな」

「…は、はい」

「執刀した吉瀬です。お母さんは一命は取り留めました。でもまだ予断は許さない状況です」


お医者さんが優斗にたくさん今後の説明をしていたけど、とりあえず私は一命を取り留めたと聞いて安心して力が抜けてしまう。

お医者さんは話し終えると、優斗にナースステーションに行くようにと告げて行ってしまった。


「優斗…、おばちゃん、よかったね……っ」

「うん。でもまだわからないし、とりあえず手続きとかがあるみたいだから俺向こうに行ってくるよ」

「じゃあ私も…」

「ううん、明子はもういいよ。夜遅いから帰って」


でも、と優斗の腕を掴んだけど、優斗はさっきよりは優しい顔になって私の手をそっと解いた。


「待ってる間、十分俺は明子に支えられたから。もう大丈夫。まだ電車はあると思うし、帰りな」

「優斗…。本当に大丈夫?」

「うん。心配かけてごめん。来てくれて本当にありがとう」


優斗がそう言うから、私は優斗をナースステーションまで見送って病院を出て行く。

これから優斗、どうするんだろうと考えながら私はゆっくりと家路についた。
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