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俺だけ見てろ
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しおりを挟む病院を出て駅に向かい、電車に乗った。
手すりにもたれながら類くんからのLINEを開く。
『今どこ』
絵文字もスタンプもないシンプルなLINE。
まあ逆にLINE上だけ愛想振り撒かれても逆に笑っちゃうんだけど。
返信しようかと文字を打とうとしたら電車が揺れて、私の前に立っていた優斗の胸に正面から思い切りぶつかってしまう。
「わっ、ごめ!」
すぐに離れようと思ったが電車の中は結構混んでいて、足と身体が不安定な位置になってしまって動くことができなくなってしまった。
すると優斗は私の肩に触れて。
「別にお前の重さくらい耐えられるから、そのままもたれててもいいよ」
そう優斗が言うもんだから、じゃあお言葉に甘えて、と無理に体勢を保つのを諦めた。
でもそうなると完全に彼の胸に頼り切っちゃうことになるから恥ずかしいっちゃ恥ずかしい。
結局数駅分そんな感じで解放されたのは自分たちが降りる駅だった。
「あー重かった」
「優斗がもたれていいよって言ったんじゃん」
ムッとしながら私が言うと優斗はふふ、と笑って前を歩いて行く。
改札を出るともう空は暗くなりかけていて、オレンジ色と濃い藍色がじんわりぼやけて滲む。
「何か飲む?」
「あ、うん。そだね」
駅から少し離れたところに自販機を見つけて優斗がそう言った。
買ってくる、と優斗が言うから私は近くの道沿いのポールにもたれながら携帯を触って待つ。
そういえば類くんに返信してなかったと思って、『最寄り駅にいるよ』と返信した。
「コーンスープ」
「お、さすがわかってるねえありがとう」
優斗は缶を振ってから私に手渡す。
今日は晴れていたからそんなに寒くはないけど、やっぱり温かい飲み物はありがたい。
「寒くない?」
「平気。電車の中、ちょっと暑かったし」
こういうちょっとした気遣いができる辺りがモテる要素なんだろうなと思う。
まあそれも、私の面倒を見てたから養われたと思えば私のおかげなのかもしれない。
私たちは並んでポールに腰掛けながら缶を開けてちょびちょびと飲む。
「明子」
「んー?」
「ありがとう」
私がコーンの粒を気にしながらコーンスープを飲んでいると、不意に優斗は私を見つめてそう言った。
「何が?」
「ずっと、そばにいてくれて。話聞いてくれたり、お見舞い来てくれたり」
「そんなん当たり前じゃん」
わざわざちゃんとお礼を言ってくれる辺り優斗らしいっていうか。
だけどそんなの私にとってはお礼を言われるようなことでもない。
私は真剣な表情の優斗に手を伸ばしてポン、と髪を撫でる。
「ただただ私が優斗のこともおばちゃんのことも心配だったってのもあるし」
「…うん」
「それに、私が悲しい時はいつも優斗が慰めてくれたでしょ?だからそれのお返し」
ニヒッと私は彼をぽんぽん撫でながら笑う。
すると優斗はおもむろにポールから離れて、その平らな部分に缶コーヒーを置いた。
そして私に近づいて、そのまま抱きしめる。
「……好きだ」
彼の聞き慣れた声が、耳のすぐそばでじんわりと聞こえた。
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