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そして追いかけた

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え…、と思って私は目を丸くして隣に座るななを見つめる。

ななの表情は穏やかで、微笑んだその表情は柔らかい。


「優斗、明子に告ったんでしょ」

「……え…」

「優斗の様子がいつもと違ったから、前聞いちゃった。ま、私は前から優斗が明子好きなの知ってたし、やっと言ったかって感じなんだけど」


んーっ、とななは背筋を伸ばす。

私は何て返したらいいのか分からずただ彼女を見つめる。


「私、夏祭りの時に優斗に好きだって言ったの」


ストレートなその言葉は私をさらに驚かせて、小さくえ、と言葉が漏れた。

そんな私の顔を見てななは、やっぱり気づいてなかったかと笑った。


「高校に入学して、明子たちと同じクラスになって、毎日優斗と明子のやり取り見てていつの間にか明子が羨ましいなって思うようになっちゃってた」


校舎の中は人が多くてざわついているのに、今はなぜかななの澄んだ声がよく聞こえる。

その横顔は凛としていて、見惚れてしまうくらい。


「すぐに気づいたよ、優斗が明子を幼馴染として見てるんじゃないって。なのにそれを明子に悟られないようにしててバカだなーと思ってた。だって明子って鈍感なんだもん、ちゃんと言わないと多分気づかないよって、私言ったのに」


ななと優斗は多分少し似ている。

相手のために、自分が思ってることやしたいことを全ては伝えない。


「でも、そういう優斗を好きになったの。明子の事が好きなのに、簡単には言い出せない気持ちを大切にしてる優斗のことが、気づいたら好きになってた」


ななの表情は澄んでいて、声からして優斗を想う気持ちは痛いほど伝わってきた。

なのにどうして私にあんなことを言うの。
優斗だったら類くんみたいなことはしないって、言うの?


「夏祭りで告白したけどもちろん断られた。それも分かってた。だけど言いたかったの。そしたらきっと、優斗も明子に何かしらのアクションを起こすかなって思って」

「アクション…」

「別に優斗のためだけじゃないの。私そんなに人間出来てないし。だって、ずっと好きなままじゃ優斗はずっと苦しいままでしょ。動き出してほしかったって言うか」


なんだか頭の中がぐるぐるする。


「だから、明子にはほんとの気持ちで動いてほしい。一条さんを選ぶのか、優斗を選ぶのか。気持ちを偽ったって仕方ないから」


ななは決して優斗を選ばないで、とは言わない。

その言葉に意味がないから。

だからななは、修学旅行の時に私に言ったんだ。
私が何も優斗のことをわかってないって。


「修学旅行の時、ごめんね。訳わかんなかったよね」

「…ううん、私が悪い。何も分かってなかった私が悪いの」


キキに言われた、早く類くんとの関係にキリをつけろって。

それはわかってる。
…わかってるんだけどなあー。
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