上 下
133 / 155
抱きしめたかっただけだった

1

しおりを挟む

そうこうしているうちにクリスマスが過ぎると、街はすっかり年末ムードに。

そして大晦日の早朝から店長や他の社員さんが車を出してくれて、私たちは店長の別荘へと向かっていた。


「いやー、なんだかんだ結構人数集まってよかったよ。その分男女で相部屋になっちゃうけど、部屋は数あるからさ」

「そしたら割と大きめな別荘なんですね」

「うん、祖父が昔建てたものだから古いっちゃ古いんだけど、リフォームしたから綺麗だよ」


私たちは店長の運転する車に乗せてもらって、助手席にななが座り後部座席は私が真ん中で両隣に優斗と類くんという狭すぎる状態。


「おい、あんまもたれるな」

「しょうがないじゃんカーブだったんだから!大体そんなに狭いのが嫌だったら助手席座ればよかったでしょ!」

「前は眩しいから嫌だ」

「わっがままだなあ!」

「…明子もっとこっち寄れば」

「おい、お前何こいつの腰触ってんだよ」

「いやー人数多いと賑やかだなあ!」


賑やかというか騒がしい後部座席を店長は楽しんでいるらしい。

その後は朝が早かったから皆寝てしまい、着く頃には雪景色で山小屋のような所にたどり着いていた。


「うおー!思ってたよりも立派!」


周辺の土地も所有しているらしく、意外と店長はおぼっちゃまだったみたい。

私たちは車から荷物を下ろして、もう一台の車も着いて荷物を運んで行く。

中はリフォームしたばかりということもあって古さを感じさせず、なんだかワクワクしてきてしまう。


「うわー!広い広い!夜は皆でカレー食べようね!」

「まだ朝なのに、明子ってば気が早いよ」


荷物を運びながらななが笑う。

女子と男子で部屋は分かれていて、女子部屋に荷物を持っていくと他の2人が先に部屋に着いていた。


「あ、めいちゃんたち荷物こっちに置きなよー」

「ありがと、ゆなちゃんさっちゃん」


いつものバイトの時と同様に手際良く2人は場所をあけてくれていて、私たちは空いてるベットの近くに荷物を置いて少し整理する。


「2人とももう行ける感じ?」

「うん、スキーウェア着てるし、大体レンタルしようと思ってるし」

「そういえば坂本さん、ボードの板自前の持ってきてたよ。よく滑りに来るんだって」

「えー絶対かっこいいやつじゃん。ゆなちゃん坂本さん狙いだもんね」

「そ、そんなことは…っ」


ゆなちゃんが頬を赤らめてじたばたする。

ゆなちゃんもさっちゃんも高校1年生だから私たちより年下だけど、いい子たちだから一緒に来れて嬉しい。

にしても社員である坂本さんは、吉田さんほどではないけど女の子によく喋りかけているのを見るからちょっと注意はした方がいい気もするけど。

するとゆなちゃんは手持ち無沙汰になったのか私の所に来てツンツンと腕をつつく。


「ね、そういうめいちゃんはどうなの?結局佐々木さん?それとも一条さん?」


にやにやと目を細めてゆなちゃんは囁いた。
しおりを挟む

処理中です...