Art Crime Team

煮卵

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A.C.T1

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次の日、ドゥリューが指定したホテルの部屋に仏頂面で現れたのはジュリアンだった。ケストナー捜査官は顔をサニーに見られた可能性があるため、急遽代役として偽のIDと身分が与えられた。ドゥリューは特に驚いた様子もなく中に迎え入れる。
彼が泊まっていたのは、以外にもツインの狭い部屋だった。全体的にモノトーンでまとめた部屋にえんじ色のクッションと同色のアートワークがアクセントとなっている。部屋の隅におかれた黒い革の旅行鞄とほんの少し端がよれリネンが乱れたベット以外はこの部屋が使われていることを示すものは何もなかった
「遅かったな」
潜入捜査をするはずだった捜査官が来れなくなったと伝えると、とくに残念そうでもなく「そうか」と頷き座るように促す。
先日の調査でサニーに顔を見られてしまったケストナー捜査官は、潜入捜査を行うジュリアンを追跡する「ハンドラー」と呼ばれる役割としてこの捜査に参加することとなっていた。
ジュリアンが部屋の片隅にあるソファに腰掛けると開口一番
「FBIのお勉強で何を習った」
と切り出した。つっけどんなその態度に戸惑いつつ、美術操作の講習で習った知識を伝える
「デュフィは、その帯状の色彩が特徴的な画家だ。この作品は晩年ものの輪郭線から色彩を開放した独特の手法を確立した。くだんの作品はその年代に・・・」
「全く使い物にならねえ」
厚さ１センチ程の紙の束を二束、テーブルの上を滑らせるように放ってよこす。
「読んで一晩で頭に入れろ」
「これは？」
「デュフィのこの３年間のオークションハウスでの落札価格、もう一冊はこの絵の来歴だ」
「来歴？」
「来歴を知らないなんて言うなよ？」
「知っているよ。この絵が誰にわたったかの記録だ。そんなこと・・・」
「保証してもいい。この絵に関する質問で値段と来歴に関する以外の質問はこねえ」
「は？そんなわけないだろう？画廊のキュレーターに」
「画家のことなんざ聞くのは暇と金に明かしたアホだけだ。いくらで売れるか、どんな価値があるか以外になんの興味があるってんだよ
興味があるのはどれぐらい売りやすいかとどれぐらい価値があるか。デュフィが晩年に帯状の独特の色彩に表現にたどり着いた事なんて飼ってる猫が追っかけているメス猫より興味がねえ。サニーに話している間中ずっと欠伸でもしていてほしいんなら話は別だが、興味を引きたいなら金の話をして金を保証する話をして金が動く話をしろ。それと」
ジュリアンのカバンを指差し、言い放つ。カバンの中には今回の交渉で使う、かつてFBIが押収した本物のマネの作品が入っていた
「それは証拠保管室に大事にしまっとけ。今回は使わない」
驚いてジュリアンは立ち上がった
「絵がなければ、交渉のセッティングはできないよ」
「その絵があっちゃ余計にできない。相手はFBIに押収された絵のリストなんざ数秒のタイムラグで更新しているだろうよ。俺たちがひも付きだってバラすようなもんだ」
カバンの中を見もせずに中身を当てられ、ジュリアンは困惑した。いったい自分は何と対峙しているのか。
「安心しろ、俺がもう手配してある」
ドゥリューは得意げに笑った。
「車出せ」
「どこに？」
「マウントバーノンスクエア」

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