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夜の庭で

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 夜会は無事終わりました。招待客の中から異議を唱える方が出る事もなく、リシャール様に対しても概ね好意的だったと言えるでしょう。お父様の時は時間がかかった上、相当揉めたと聞くので、それに比べたら長女の相手が子爵家の三男だった事はむしろ許容範囲内で、ホッとしたのかもしれませんわね。

「リシャール様、お疲れになりましたか?」
「いや、思ったほど疲れませんでしたよ。貴女が一緒に居て下さったからでしょうか」

 そう言われて私はまたしても心臓がドクンと跳ねるのを感じました。それって…一緒に居た事がリシャール様の助けになったということですよね?そんな風に言われてしまうと嬉しすぎます。

「もしよければ、少し庭に出てみませんか?」
「庭に、ですか?しかし…」
「夜会の時はいつも開放しているのですよ」

 私がそう言うとリシャール様も少しだけなら…と付き合って下さいました。

「…これは…」

 庭に出たリシャール様が息を飲んだのが伝わってきました。

「我が家自慢の庭ですの。毎回こうして皆様に楽しんで頂いているのです」

 そう、我が家の庭は夜会の時、ライトアップしているのです。木々や今の季節の花の周辺を明るくして、いつもとは違う風景を楽しんで貰うのです。勿論、足元にはライトを小道に沿って並べてありますし、我が家の騎士達を配置して安全にも気を配っています。

「…見事ですね」
「そう言って頂けると嬉しいです」

 招待客は既に帰路に着き、今は私とリシャール様と二人きり…幻想的な風景に空には星も煌めいて、とってもロマンチックですわ。まるで恋愛小説のワンシーンのようです。

「レティ、暗くて危険ですから、手を」
「え?あ…はい」

 リシャール様の愛称呼びと差し出された手にドキドキした私でしたが、そっと自分の手を重ねました。

(…リシャール様の、手が…)

 先ほども夜会でエスコートされましたが、こうして二人きりになった状態で手を繋ぐのはまた格別といいますか、照れますし緊張しますわね。夜のせいで少し肌寒く感じますが、火照って赤くなっているであろう顔に気持ちがいいです。

「今日は、星も綺麗ですね」
「ええ…」

 何か話を…と思うのですが、いつもと違う雰囲気に呑まれてしまったせいか、言葉が出てきません。でも…不思議な事に今はそれがあまり苦痛には感じませんわ。半歩前を行くリシャール様の横顔が幻想的で、何だか夢の世界にいるように感じるからでしょうか…

「…お寒く、ありませんか?」
「だ、大丈夫です」
「…でも、手が冷たくなっていますよ」
「え…?」

 次の瞬間、リシャール様の匂いが強く香り、背中と両手を温かい何かが包み込んでくるのを感じました。

(え…っと…?)

 目の前に見えるのは自分の手で、その手はさらに大きな手で包み込まれています。リシャール様の手…思ったよりもずっと大きくて、固くて…温かい、のですね。いえ、それよりも…背中って…

(ええっ?せ、背中から抱きしめられて…る?)

 リシャール様の香りが一層強く感じられ、ゆっくりと背中と手から熱が伝わってくるのを感じると、私の頭も同時に熱に浮かされたような気がしてきました。きょ、距離が近すぎ…て、は、鼻血が出そう、です…

「どうですか?」
「…あ、ったかい、でしゅ…」

 不意にそう問われて、そう答えるのが精一杯でした。こんな場面で噛むのは、もうお約束なのでしょうか…手と背から伝わってくるリシャール様の馴染みのない熱に戸惑いながらも、私はまた一つ、距離が近づいたように感じました。



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