【完結】戦死認定された薬師は辺境で幸せを勝ち取る

灰銀猫

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第三部

リアム王家の終焉

 どんよりした雲が重く立ち込める空の下でその日、リムス王家は数百年に及ぶ王統の終焉を迎え、新たな王が誕生した。



 あれからは目まぐるしく状況が変わったわ。日が昇った直後に王城に突入した私たちは、あっという間にリアム王族を捕らえた。現王によってマリウス殿への譲位が宣言されたのはまだ日が高く天に座している頃で、リムス王家の終焉はひどく呆気ないものだった。

 すでに王城内ではこの日のための準備が出来上がっていたらしく、使用人たちの抵抗もほとんどなかった。一部王家に忠誠を誓う貴族家や騎士が抵抗を示したものの、彼らが頼みの綱としていたマルトリッツ家の騎士団は精彩を欠き、十分な活躍が出来ないままに逆賊として捕らえられ、それを目の当たりにした国王派の貴族家は態度を一変させてマリウス殿への恭順を口にして命乞いに走った。その様はこれまでの横暴な態度からすると滑稽なほどだった。

「な? 何の心配も要らなかっただろう?」

 得意げにそう言うウルガーに苦笑するしかなかったわ。一体裏でどんなことをしていたのかと薄ら寒くすら感じるけれど、ほぼ無血で王城を占拠して王位を得たのはその準備のおかげでもあるのよね。何をしたのか後で詳しく聞いてみたいけれど……知らない方がいいような気もする。それでも、人にも建物にも被害が殆どなかったのは見事しか言いようがないわ。

 貴族家の抵抗にあうかと思ったけれど、王弟で人望があったレンガー公爵や由緒あるロンバッハ伯爵、マリウス殿と親交が深いフレーベ辺境伯、、王都騎士団の団長を務めるオッペル伯爵、更にはリムスに常駐しているエーデルのフォイルゲン総督がマリウス殿についたこと、王党派の忠臣だったマルトリッツ家の騎士団の惨敗などを経て、多くの貴族家が早々に恭順を示した。

 それでも王子二人を擁する貴族家が抵抗したけれど、肝心の王子がこちらの手中にあるとなれば抵抗することも出来ない。王族の側に侍っていた重鎮らも王族と同じように牢へと繋がれ、当主を人質に取られた家門はなす術もなかった。




 空が夕焼けに染まって明日の晴れを約束している中、マリウス殿が謁見の間で即位宣言を行った。それを見守るのはレンガー、ロンバッハ、フレーベ、オッペルを中心に、恭順を示した貴族家の当主、エーデルのフォイルゲン総督やレーデンスやメルテンスの大使たちだった。私はウルガーと共にマリウス殿の近くでその様子を見守る。当然だけど異議申し立てをする者はなく、割れんばかりの拍手の中でマリウス殿の即位は承認された。

 王となったマリウス殿―いえ、マリウス陛下は騎士服のままで、ところどころに戦闘の跡を残していたけれど、輝く銀の髪と王都の令嬢たちの噂になるほどの美貌、そして強い意志を秘めた青い瞳は王の品位に相応しいものだった。この場にいる彼を支持する主要な貴族家の当主も同じように騎士服に身を包んでいたし、贅沢三昧だった旧王家への反感もあってか清廉さを印象付けているように見えた。むしろ着飾った貴族家の当主たちが滑稽に映ったほど。

 その日はそのまま散会になり、後日正式な集まりを行うことになった。主要な者たちは会議室へと移動することになったけれど、どういうわけか私はウルガーに手を引かれて連れていかれたわ。さすがに場違いだと思うのだけど……

 会議室には陛下と副官のランドルフ殿、ウルガーとジークハルト殿、レンガー公爵とロンバッハ伯爵、フレーベ辺境伯、オッペル伯爵、そしていつの間に王都に来ていたのかブラッツ様の姿もあった。いいのかしら、ダーミッシュは今はエーデル国に属しているからここにいる資格はないし、エーデルに知られると面倒なことになりそうだけど。

 一同が着席すると、まずマリウス陛下が彼に協力した貴族家に労いと感謝の言葉を述べた。堂々としていながら丁寧な物言いは彼の性格を表していて、新たな時代を作る国王としての資質を十分に備えているように見えた。

「マリウス、いや、新国王陛下。これの裁可を頼みます」

 陛下の挨拶が終わるとすぐ、ウルガーが軽く手をあげた。懐から二枚の紙を取り出して陛下の前に出したけれど、その紙には見覚えがある。あるけど……

「ちょ……いくら何でもこの場で……」
「いいや、真っ先にお前さんとの婚姻を裁可する。これは最初から約束していたことだ。そうだよな、マリウス?」
「ウルガー、陛下に失礼よ!」

 王位に就かれた陛下に今まで通り接する彼に慌てたわ。座っていなかったらその口を塞ごうとしたかもしれない。マリウス様はもう国王におなりになったのよ。そんな口をきくのは不敬罪にも問われるし、周りに示しがつかないじゃない。顰蹙を買ったかと周りを見渡したら、なんだか可哀想な子を見るような目で見られていた。やっぱり不快に思われたわよね。もう立場が変わったのだからそこは弁えてほしいわ。

「ウルガー、いくら何でも焦りすぎですよ」
「いいや、フォイルゲンが何か言いだす前に裁可しなきゃ意味がねぇだろ」
「まぁ、確かにそうですが……」

 エーデル王がウルガーとエーデル貴族の令嬢との婚姻を計画しているのは知っているけれど、さすがに慌てすぎだわ。王の元に連絡が行くには最低でも半月はかかるのだから。そうは思うのだけど……

「いいや。後でと言って先送りにしてきた結果が今だ。今日、今すぐしてくれ。出来ねえと言うなら俺はお前らから手を切らせてもらう」
「ウルガー? だからって、今この場でそんなことを言い出さなくても……」
「そんなことじゃねえよ。そのためにマリウスに手を貸したんだからな」

 そ、そんなことを皆の前で言わなくても……周りの視線が痛い。それでなくても私だけ場違いだし、面識のないレンガー公爵たちもさっきから怪訝そうな視線を向けているのに。

「まったく、ダーミッシュの英雄は余裕がないなぁ」

 豪快に笑ったのはジークハルト殿で、その声を機に会場内に笑いが広がった。何なの、この流れは……恥ずかしすぎるのだけど……

「ははっ、わ、わかりましたよ。あなたとの約束ですからね」

 そう答えた陛下の肩が揺れていた。そういえばこの方、一度笑いのツボにはまると止まらなくなるんだったわ。それでもランドルフ殿にペンとインクを頼んですぐに署名して、彼と私の婚姻を宣言された。証明書を受け取ったウルガーがそれを眺めて満足そうにうなずいている。いいのかしら、こんな形で婚姻が成ってしまったけれど。思わずブラッツ様の反応が気になって視線を向けた。目が合うとしっかりとうなずかれてしまったわ。

 こうして私が全く想像していなかった形で彼の妻になった。これでいいのかしらと思わなくもないけれど……もう他からの邪魔が入らないのよね。だったらいいわ。これでようやく不安を感じずに眠れそうだから。



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