【完結】戦死認定された薬師は辺境で幸せを勝ち取る

灰銀猫

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再会前夜

 突然告げられた言葉に、まじまじと彼を凝視してしまった。ベッドの上で胡坐をかいてくつろいだ様子はいつも通りだけど……急にどうしたの? 領邸に連れて行ってやると言ったのに。急な彼の方針転換に何となく胸騒ぎがした。

「急に、どうしたんですか?」
「どうもしねぇけど……いや、思った以上に状況がよくねぇ。早く屋敷に戻って親父や兄貴と話をしねぇとマズそうなんだ」

 そういえばジェイ殿が言っていたわ、王家が貴族家にギルベルト殿の捕縛を命じたと。ダーミッシュ家が逆賊として捕らえらえるとも。ようやく戦争が終わってホッとしているところに、今度は国が敵になるかもしれないのだ。

「俺は騎士と先に戻る。お前さんはドルフんとこの家族とゆっくり向かえばいい。カミルがいれば安心だろ?」

 そりゃあ、カミルさんがいてくれたら安心だけど……

「でも、ギルベルト殿は? 副官のカミルさんがいなきゃ不便なんじゃ……」
「一緒にいる騎士はどいつも精鋭だから変わらねぇよ。問題ねぇ」
「ですが、何かあったら……」
「ダーミッシュに入りゃ襲ってくる奴もいねぇよ。いても返り討ちにしてやるし」

 そう言うとにかっと笑った。確かに私みたいな足手まといがいなければどうとでもなるわよね。

「お前さんはもう平民だからな。ドルフに任せときゃ心配は要らねぇだろうけど、カミルがいればより安心だろ」
「それはそうですが……でも、今は火急を要するのですよね? だったらカミルさんも一緒に……」
「それじゃ、お前さんとの約束が守れねぇだろ」
「約束?」

 約束なんか……したわね、そういえば。責任もって領都に連れて行ってやるって。だけど……

「もう十分ですよ。むしろ私のせいで遅くなってしまって申し訳ないくらいです」

 もし彼だけなら、私が荷馬車から落ちなければ、彼はとっくに領都に戻って辺境伯や兄君と対策を練っていたはず。これから先どうなるのかわからないみたいだし、こんな時こそ彼の力が必要で、彼の帰りを待ち焦がれているはず。

「お前さんのせいじゃねぇよ。俺がしたくてやったことだ」
「……え?」
「まだまだ領内には怪我をして動けねぇ奴らが沢山いる。医師や薬師は一人でも多くほしいんだ」

 そうね、前線にはろくな治療も受けられずにいる怪我人がまだたくさん残っているはず。彼らは一月やそこらで動けるような浅い傷じゃない。だから戻ろうと思ったのだけど……

「これからダーミッシュはまた荒れるかもしれねぇ。だからあんまり来て欲しくなかったんだが……本音を言えば来てくれてほんとにありがたい。だが……本当にいいのか? また戦が始まるかもしれねぇぞ」

 さっきの軽い調子が消えて、その目には真剣な色が濃く見て取れた。それだけ危険が迫っているということ? しかも今度はリアム国が敵になるかもしれないのよね。そうなった時どうなるのか、全く想像がつかないわ……

「今なら引き返せる。エルダに戻るのも手だ。あの婆さんなら受け入れてくれるだろう」
「レダさん、ですか……」

 まだ言うのね。あの話はもう断ったのに。そりゃあ、それも一つの選択肢かもしれないけれど、王都に近過ぎるから戻りたいとは思えない。

 旅の間、ずっと考えていたけれど……アデリッサに当主は無理だわ。リーヴィス様にも。彼らは当主教育も薬師としての教育も受けていないから。グラーツ伯爵家は薬師の一族だから、次代にその知識がないなんて王家も認めてくれるかどうか……もし認められなかったら連れ戻されるかもしれない……そんな気がする。当主として戻れるのならいいけど、アデリッサたちの尻拭いだけされられる可能性もある。そんな人生、まっぴらごめんだわ。

「戻りませんよ。正直言えばリムス国にも未練がありません。ダーミッシュがリムスと戦うならダーミッシュ側に付きます」

 そう告げると少しだけ表情に驚きが乗った。

「おいおい、物騒なことを言うな。反逆罪に問われるぞ」

 戒めるように声を落としてそう言われた。確かに今のは失言だったかしら。

「そんなつもりはありません。ただ、それくらいの覚悟だって言いたかったです」

 生まれ育った実家よりも、三年半過ごした過酷なダーミッシュの方が身近に感じるなんて不思議だと思う。だけど、戦場では誰もが生き残るために必死で協力し合っていたわ。普段は反目し合っている相手とだって、いざという時には団結した。あの感じは実家なんかよりもずっと温かくて心地よかった。

「難儀な奴だな、お前さんも」
「そうですか? だったらダーミッシュのせいですよ。ちゃんと責任取ってくださいね」
「責任って……」

 あの飄々としたギルベルト殿が珍しく戸惑っていた。そんなに変なことを言ったかしら? って……やだ、勘違いさせてしまったかしら?

「や、薬師として雇ってほしいって意味ですから!」
「はは、わかってるって」

 そう言って笑ったけれど、何だか元気がないように見えた。やっぱり疲れているのよね。私という足手まといを抱えての旅は、私が想像する以上に大変だったでしょうから。申し訳ないわ……

「ああ、これを持ってけ」

 そう言うと小さな物が飛んで来たわ。慌てて受け取って驚いたわ。これって……ギルベルト殿の指輪じゃない!

「これがありゃ、お前の後見は俺だって証明になる」
「で、ですが……」
「この先は軍馬で駆けるからさすがに連れて行けねぇ。ま、その詫びの変わりだ」

 お詫び変わりって……それにしては立派過ぎるわ。さすがに受け取れないと返そうとしたけれど押し切られてしまったわ。だけど……私なんかが持っていていいの?



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