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別れの後
あの後、みんなからの冷たい視線を背に受けながらギルベルト殿は二人の騎士を伴って領都へと発った。珍しく気落ちしているようで肩が下がって見えたけれど、だったらあんなことやらなきゃよかったのにと思う。
「ベルちゃん、ごめんね。領都に戻ったらきっちり叱っておくから」
そういうとカミルさんが眉を下げて力なく笑った。これまでも無茶をする彼に振り回されていたけれど、もしかしたら素行にも悩まされていたのかもしれない。
「いえ、気にしないでください。私も気にしていませんから」
カミルさんが謝る理由はないわ。悪いのはギルベルト殿なんだから。
「それよりも、よかったんですか? 一緒に行かなくて。危ないんじゃ……」
さっきまでは身の安全が心配だったけれど、今は素行が大丈夫かとそっちが気になる。行く先々であんなことしてたらそのうち刺されそうよ。いえ、今までの刀傷のいくつかは痴情のもつれが原因だったのかもしれないけれど。
「ベルちゃん、あんな奴にまで優しい……」
そういうわけじゃないんだけど。でも、一応ここまで連れて来てくれた恩人なのよね。
「はぁ、こんないい子にあのバカは……ベルちゃんは気にしなくていいよ。あいつらが一緒なら心配はいらないから」
同行するのは戦争中も彼の元にいた騎士たちで、優秀で腕も立つから全然問題ないという。さすがに道中で女性に不埒なことなんかしないわよね。まったく、別れ際くらい綺麗に出来なかったのかしら。
「さ、今夜はゆっくり休んで。明日領都に向かって出発するから」
「お世話になります」
実際、ギルベルト殿と離れた不安はあまりなくて、今はルチアと無事合流出来た喜びが勝っていた。いい人だと思っていたし、実際強くてとても頼りになったけれど、やっぱり異性と二人きりは変な緊張感があったから。今にして思えば気を許し過ぎていたわ。あんな人だったなんて……態度に難ありだけど騎士としての矜持は持っていると信じていたからその分裏切られたと感じてしまう。私が勝手に信用していただけなんだけど。
その日はルチアとおば様の部屋にお邪魔した。もう宿に部屋が余っていなかったし、どうせ一泊だけ。ルチアと同じベッドなら色々話もしやすいわ。話したいことが山のようにあるから。
「それにしても、よく無事だったわね」
「自分でも思うわ。荷馬車から落ちた時は人生終わったと思ったもの」
あの時は痛みよりも恐怖が勝ったわ。若い娘が破落戸に捕まったらどうなるかなんて言わずもがな。万が一の時は鞄に隠し持っていた毒で死のうと覚悟を決めたもの。幸いギルベルト殿が見捨てずにいてくれてそんな未来にはならなかったけど。
「あの時は私も驚いたわ。ギルベルト様がベルの名を呼んで馬車から飛び降りたんだから」
「そうだったの?」
「ええ、父さんにこのまま行け! って怒鳴って。鬼気迫る勢いで、ああ、辺境の英雄って呼ばれてるのは伊達じゃなかったんだなって思ったわ」
普段はやる気なさそうでとてもそんな風には見えないのにねとルチアが笑った。そこは同感だわ。だけど敵を前にすると変わるのよね。別人が入り込んだのかと思うくらいに。
「野生児って感じだわ。木に登ったり、鳥や獣を獲ったりして」
「え? そんなこともしてたの?」
「してたわよ。あの人が獲ってきた鳥が食事だったこともあるわ」
ホロホロ鳥まで捕まえてきたのよと話したら羨ましがられたわ。あの肉は絶品だものね。街で売るとかなりいい稼ぎになると言うし。
「うわ~私も食べたかったなぁ~最近王都にはまったく入って来なくなったから」
「ふふ、ルチアは馬に乗れるし、私よりは快適に過ごせたかもね」
「ええ? ベルったらまだ乗れないの?
目を丸くして驚かれたわ。そうよね、半月近く馬で旅してたんだから普通乗れるようになるわよね。
「残念ながら。馬は可愛いと思うし好きなんだけど……何というか、お互いの間に見えない何かがあって反発し合うみたいで……」
「そっかぁ……え? じゃ、今までどうやって……」
口に運ぼうとしていた干し芋を持った手が止まった。
「ギルベルト殿の前に乗ってたわ。落ちないようにするにはそれが一番だって」
「そ、そう、前に……変なことされなかった?」
「変なこと?」
これまでの記憶を辿るけれど……
「特になかったわよ」
「そうなんだ。じゃ、さっきのキスは何だったんだろうね」
「……ああ、あれ……」
嫌だわ、思い出しちゃったじゃない。
「気の迷いだったんじゃない? もしくは……私、婚約者がいなくなったじゃない? 傷物だからそういうことしても平気だって思われたのかも」
世間一般的には婚約を白紙や解消された令嬢への風当たりはきついわ。理不尽なのは男性にはそういった評価がつかないってことよね。男尊女卑の世の中だから仕方ないのだけど……
「そんなことするようには見えなかったんだけどなぁ……」
「私だってそう思っていたわよ。だけど、人間の本性なんて簡単には見えないってことでしょ」
「う~ん……ベルのことが好きだとか?」
「……へ?」
思いがけない言葉に目が点になりそうだった。ギルベルト殿が、私を、好き?
「いやいやいや、それはないわ」
「でも……」
「もしそうなら、それこそあんな不意打ちなことしないでしょ? ずっと二人きりだったんだから、その間にもっとやり様があったと思うわ」
「それは……確かに」
私もその可能性を考えなかったわけじゃないけれど、だったらあんな騙し打ちみたいなことしないわよ。嫌われる可能性が高いのだから。
「そうだったら面白かったのに~」
「やめてよ。これから薬師として身を立てなきゃいけないんだから。そんなことしている暇なんかないわ」
前線の砦に行けば仕事はあるだろうし、ギルベルト殿の庇護もあるかもしれないけれど、それは未来に続くわけじゃない。守ってくれる家族も身分も無くなった以上、薬師としての経験をもっと積んで独り立ち出来るようにならないと。
その日はルチアと同じベッドに潜り込んだ。もっと話をしようと思っていたけれど、ろうそくを消して暗闇が訪れると私の意識はあっという間に夢の世界へと旅立っていた。
「ベルちゃん、ごめんね。領都に戻ったらきっちり叱っておくから」
そういうとカミルさんが眉を下げて力なく笑った。これまでも無茶をする彼に振り回されていたけれど、もしかしたら素行にも悩まされていたのかもしれない。
「いえ、気にしないでください。私も気にしていませんから」
カミルさんが謝る理由はないわ。悪いのはギルベルト殿なんだから。
「それよりも、よかったんですか? 一緒に行かなくて。危ないんじゃ……」
さっきまでは身の安全が心配だったけれど、今は素行が大丈夫かとそっちが気になる。行く先々であんなことしてたらそのうち刺されそうよ。いえ、今までの刀傷のいくつかは痴情のもつれが原因だったのかもしれないけれど。
「ベルちゃん、あんな奴にまで優しい……」
そういうわけじゃないんだけど。でも、一応ここまで連れて来てくれた恩人なのよね。
「はぁ、こんないい子にあのバカは……ベルちゃんは気にしなくていいよ。あいつらが一緒なら心配はいらないから」
同行するのは戦争中も彼の元にいた騎士たちで、優秀で腕も立つから全然問題ないという。さすがに道中で女性に不埒なことなんかしないわよね。まったく、別れ際くらい綺麗に出来なかったのかしら。
「さ、今夜はゆっくり休んで。明日領都に向かって出発するから」
「お世話になります」
実際、ギルベルト殿と離れた不安はあまりなくて、今はルチアと無事合流出来た喜びが勝っていた。いい人だと思っていたし、実際強くてとても頼りになったけれど、やっぱり異性と二人きりは変な緊張感があったから。今にして思えば気を許し過ぎていたわ。あんな人だったなんて……態度に難ありだけど騎士としての矜持は持っていると信じていたからその分裏切られたと感じてしまう。私が勝手に信用していただけなんだけど。
その日はルチアとおば様の部屋にお邪魔した。もう宿に部屋が余っていなかったし、どうせ一泊だけ。ルチアと同じベッドなら色々話もしやすいわ。話したいことが山のようにあるから。
「それにしても、よく無事だったわね」
「自分でも思うわ。荷馬車から落ちた時は人生終わったと思ったもの」
あの時は痛みよりも恐怖が勝ったわ。若い娘が破落戸に捕まったらどうなるかなんて言わずもがな。万が一の時は鞄に隠し持っていた毒で死のうと覚悟を決めたもの。幸いギルベルト殿が見捨てずにいてくれてそんな未来にはならなかったけど。
「あの時は私も驚いたわ。ギルベルト様がベルの名を呼んで馬車から飛び降りたんだから」
「そうだったの?」
「ええ、父さんにこのまま行け! って怒鳴って。鬼気迫る勢いで、ああ、辺境の英雄って呼ばれてるのは伊達じゃなかったんだなって思ったわ」
普段はやる気なさそうでとてもそんな風には見えないのにねとルチアが笑った。そこは同感だわ。だけど敵を前にすると変わるのよね。別人が入り込んだのかと思うくらいに。
「野生児って感じだわ。木に登ったり、鳥や獣を獲ったりして」
「え? そんなこともしてたの?」
「してたわよ。あの人が獲ってきた鳥が食事だったこともあるわ」
ホロホロ鳥まで捕まえてきたのよと話したら羨ましがられたわ。あの肉は絶品だものね。街で売るとかなりいい稼ぎになると言うし。
「うわ~私も食べたかったなぁ~最近王都にはまったく入って来なくなったから」
「ふふ、ルチアは馬に乗れるし、私よりは快適に過ごせたかもね」
「ええ? ベルったらまだ乗れないの?
目を丸くして驚かれたわ。そうよね、半月近く馬で旅してたんだから普通乗れるようになるわよね。
「残念ながら。馬は可愛いと思うし好きなんだけど……何というか、お互いの間に見えない何かがあって反発し合うみたいで……」
「そっかぁ……え? じゃ、今までどうやって……」
口に運ぼうとしていた干し芋を持った手が止まった。
「ギルベルト殿の前に乗ってたわ。落ちないようにするにはそれが一番だって」
「そ、そう、前に……変なことされなかった?」
「変なこと?」
これまでの記憶を辿るけれど……
「特になかったわよ」
「そうなんだ。じゃ、さっきのキスは何だったんだろうね」
「……ああ、あれ……」
嫌だわ、思い出しちゃったじゃない。
「気の迷いだったんじゃない? もしくは……私、婚約者がいなくなったじゃない? 傷物だからそういうことしても平気だって思われたのかも」
世間一般的には婚約を白紙や解消された令嬢への風当たりはきついわ。理不尽なのは男性にはそういった評価がつかないってことよね。男尊女卑の世の中だから仕方ないのだけど……
「そんなことするようには見えなかったんだけどなぁ……」
「私だってそう思っていたわよ。だけど、人間の本性なんて簡単には見えないってことでしょ」
「う~ん……ベルのことが好きだとか?」
「……へ?」
思いがけない言葉に目が点になりそうだった。ギルベルト殿が、私を、好き?
「いやいやいや、それはないわ」
「でも……」
「もしそうなら、それこそあんな不意打ちなことしないでしょ? ずっと二人きりだったんだから、その間にもっとやり様があったと思うわ」
「それは……確かに」
私もその可能性を考えなかったわけじゃないけれど、だったらあんな騙し打ちみたいなことしないわよ。嫌われる可能性が高いのだから。
「そうだったら面白かったのに~」
「やめてよ。これから薬師として身を立てなきゃいけないんだから。そんなことしている暇なんかないわ」
前線の砦に行けば仕事はあるだろうし、ギルベルト殿の庇護もあるかもしれないけれど、それは未来に続くわけじゃない。守ってくれる家族も身分も無くなった以上、薬師としての経験をもっと積んで独り立ち出来るようにならないと。
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