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呪いの詳細
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「やはりそうなるか……」
「いや~残念だけど、君の家族なら『見えていた』だろうからねぇ」
「…………」
二人とも魔力が見えるので私の呪いも見えていたでしょう。それでも何も言わなかったということは……いえ、今まで気づかなかった私も間抜けですが……
「こうなると一番怪しいのは姉の方かな」
「そう、ですよね。私も、そう思います……」
お父様ならこんな術はかけないでしょう。従属の呪いは禁忌で、職を失うような真似をするとは思えません。
一方でお姉様は私になら何をしてもいいと思っている節があるので、実験台のつもりだったのかもしれません。私は社交に出たこともないし友人もいないのでバレないと思ったのでしょう。
「そういうことなら納得だ。彼女は控えめというには度が過ぎた。使用人に嫌がらせをされても何も言えなかったからな」
「そうなるだろうね。術式が完全なら相手も絞られるが、こうも適当だと全方向に向かっていただろうし。でも、不完全だから多少は自己主張したんだろ?」
「ああ。最終的には使用人に言い返していたし、解呪したいと申し出てくれたのも彼女からだ。どこかちぐはぐだなとは思っていたんだ。不完全だと聞けば納得だ」
ウィル様がそう言われて、なるほどそうかもしれない、と私も思いました。何というか、他人への恐怖感は常にあって、いつも相手の顔色が気になって仕方なかったからです。それは家族から受けた仕打ちのせいだと思っていましたが……呪いだったとは……
「トーマス、解除を頼めるか?」
「それは構わないけど……」
「エルーシアもいいだろう? どうせ実家に帰ることはないのだから」
「え、ええ……」
確かに離婚しても実家に帰ることはありません。だからもう解呪してもいいでしょう。呪いが掛かっているなんて気持ち悪いですし。
「あ、念のために言ってだけおくけど、従属の呪いを解くと性格が変わっちゃうかもしれないから」
「性格が?」
「うん、呪いの縛りがなくなるからね。もしかしたら性格が真逆になるかも」
「真逆……」
「極めて低いだろうけど、君の元の性格があまりにも苛烈だったから術をかけた、なんて可能性もあるからね」
そう言われると不安になってきました。真逆と聞いて浮かんだのがお姉様の顔だったのも一因でしょう。あんな風になるなら今のままの方がいいような気がします。自分があんな風になるなんて絶対に嫌です。
「エルーシアに限ってそれはない」
そう言い切ったのはウィル様でした。どうしてそう言い切れるのでしょう。私自身ですら躊躇しているのに……
「エルーシアは誰かを傷つけたり貶めたりしたことは一度もない。下の者にも丁寧で気遣いを忘れない。そういう気質は変わらないはずだ」
「まぁ、そう思いたいよね」
「彼女は私の妻だ。何があっても私が責任を持つ」
ウィル様がきっぱりそう言い切ってしまわれましたが……いいのでしょうか? 禁呪なだけにもう一度という訳にはいかないのですが。
「そう? じゃ、いいかな?」
「ああ、頼む。エルーシア、大丈夫だ」
ウィル様が安心させるように笑みを向けて励ましてくれました。そこまで言われてしまえば断るなど出来ません。早く解除して欲しいというのが本音ですから。でも、一つだけお願いしたい事があります。
「ウィル様、もしトーマス様の悪い予感が当たったら……」
「あなたに限ってそれはない」
「それでも、です。そうなったら私を離れなりに閉じ込めてください。誰かを傷つける自分は……私が許せませんから」
そこは約束して頂きたいです。文字通りお飾りの妻なのです。ウィル様の解呪も終わりが見えている今、問題はないでしょう。
「それをお約束して頂けないなら、解呪はしません」
「エルーシア……わ、わかった。約束しよう。何があっても私が責任をもって対処する」
「ありがとうございます」
不安ではありますが、こうして約束して頂ければ少しは安心です。
「それではトーマス様、よろしく、お願いします」
こうなったら腹をくくりましょう。絶対にお姉様たちのように他人を貶めたりしないと心に強く誓いました。もしそんなことになったら、離れにでも軟禁です。元々そのつもりだったので問題はありません。
「なんか大袈裟だなぁ……」
そう言ってトーマス様が苦笑されましたが、私にとっては一世一代の大事ですし、ウィル様にとっても妻の人格が激変されたら困るはずです。王命での結婚なので離婚も簡単ではないでしょうし……
「さ、ちょっと変な感じがするけど、じっとしててね」
そう言われて身構えると、トーマス様の手から魔力が流れてくるのを感じました。その魔力が私の身体に届くと、ふわっと何か術式らしい光が浮かび上がり、それは右下から順番に消えていきます。それはウィル様の解除でもよく見た光景ですが、痛みも何も全くないのですね。自分がされるのが不思議で、最後の光が消えるまで目を離せませんでした。
「どうかな?」
術式が消えると、トーマス様がそう尋ねてきました。どこかに異変がないか身体の隅々まで感じましたが、特に変化はないように思います。
「何か変わったという感じは、特には……」
「だろうね。精神に干渉する術だから身体に変化はないと思う。あるなら気持ちの方かな」
「気持ち?」
「うん。他人に対しての気の持ちよう。今の気分は?」
「そう、ですね。何だかすっきりした感じはします。今までは……何ていうか、胸に石が詰まっているような感じがありました」
そう、解呪されてわかりましたが、胸の辺りにあった鈍く重い何かが消えた感じがして体が軽くなりました。常にあった足の裏の鈍い痛みもです。そういうとトーマス様は足の裏に魔術の紋があったと教えてくれました。そこなら見つかりにくいと思ったのだろうと。
「エルーシア、これであなたは自由ですよ」
そう言ってトーマス様が安心させるように笑みを向けてくれました。今までも自由という言葉はどこか遠いもののように感じていましたが、今はすっと身体に沁み込むような、馴染むような、そんな感じがしました。
「いや~残念だけど、君の家族なら『見えていた』だろうからねぇ」
「…………」
二人とも魔力が見えるので私の呪いも見えていたでしょう。それでも何も言わなかったということは……いえ、今まで気づかなかった私も間抜けですが……
「こうなると一番怪しいのは姉の方かな」
「そう、ですよね。私も、そう思います……」
お父様ならこんな術はかけないでしょう。従属の呪いは禁忌で、職を失うような真似をするとは思えません。
一方でお姉様は私になら何をしてもいいと思っている節があるので、実験台のつもりだったのかもしれません。私は社交に出たこともないし友人もいないのでバレないと思ったのでしょう。
「そういうことなら納得だ。彼女は控えめというには度が過ぎた。使用人に嫌がらせをされても何も言えなかったからな」
「そうなるだろうね。術式が完全なら相手も絞られるが、こうも適当だと全方向に向かっていただろうし。でも、不完全だから多少は自己主張したんだろ?」
「ああ。最終的には使用人に言い返していたし、解呪したいと申し出てくれたのも彼女からだ。どこかちぐはぐだなとは思っていたんだ。不完全だと聞けば納得だ」
ウィル様がそう言われて、なるほどそうかもしれない、と私も思いました。何というか、他人への恐怖感は常にあって、いつも相手の顔色が気になって仕方なかったからです。それは家族から受けた仕打ちのせいだと思っていましたが……呪いだったとは……
「トーマス、解除を頼めるか?」
「それは構わないけど……」
「エルーシアもいいだろう? どうせ実家に帰ることはないのだから」
「え、ええ……」
確かに離婚しても実家に帰ることはありません。だからもう解呪してもいいでしょう。呪いが掛かっているなんて気持ち悪いですし。
「あ、念のために言ってだけおくけど、従属の呪いを解くと性格が変わっちゃうかもしれないから」
「性格が?」
「うん、呪いの縛りがなくなるからね。もしかしたら性格が真逆になるかも」
「真逆……」
「極めて低いだろうけど、君の元の性格があまりにも苛烈だったから術をかけた、なんて可能性もあるからね」
そう言われると不安になってきました。真逆と聞いて浮かんだのがお姉様の顔だったのも一因でしょう。あんな風になるなら今のままの方がいいような気がします。自分があんな風になるなんて絶対に嫌です。
「エルーシアに限ってそれはない」
そう言い切ったのはウィル様でした。どうしてそう言い切れるのでしょう。私自身ですら躊躇しているのに……
「エルーシアは誰かを傷つけたり貶めたりしたことは一度もない。下の者にも丁寧で気遣いを忘れない。そういう気質は変わらないはずだ」
「まぁ、そう思いたいよね」
「彼女は私の妻だ。何があっても私が責任を持つ」
ウィル様がきっぱりそう言い切ってしまわれましたが……いいのでしょうか? 禁呪なだけにもう一度という訳にはいかないのですが。
「そう? じゃ、いいかな?」
「ああ、頼む。エルーシア、大丈夫だ」
ウィル様が安心させるように笑みを向けて励ましてくれました。そこまで言われてしまえば断るなど出来ません。早く解除して欲しいというのが本音ですから。でも、一つだけお願いしたい事があります。
「ウィル様、もしトーマス様の悪い予感が当たったら……」
「あなたに限ってそれはない」
「それでも、です。そうなったら私を離れなりに閉じ込めてください。誰かを傷つける自分は……私が許せませんから」
そこは約束して頂きたいです。文字通りお飾りの妻なのです。ウィル様の解呪も終わりが見えている今、問題はないでしょう。
「それをお約束して頂けないなら、解呪はしません」
「エルーシア……わ、わかった。約束しよう。何があっても私が責任をもって対処する」
「ありがとうございます」
不安ではありますが、こうして約束して頂ければ少しは安心です。
「それではトーマス様、よろしく、お願いします」
こうなったら腹をくくりましょう。絶対にお姉様たちのように他人を貶めたりしないと心に強く誓いました。もしそんなことになったら、離れにでも軟禁です。元々そのつもりだったので問題はありません。
「なんか大袈裟だなぁ……」
そう言ってトーマス様が苦笑されましたが、私にとっては一世一代の大事ですし、ウィル様にとっても妻の人格が激変されたら困るはずです。王命での結婚なので離婚も簡単ではないでしょうし……
「さ、ちょっと変な感じがするけど、じっとしててね」
そう言われて身構えると、トーマス様の手から魔力が流れてくるのを感じました。その魔力が私の身体に届くと、ふわっと何か術式らしい光が浮かび上がり、それは右下から順番に消えていきます。それはウィル様の解除でもよく見た光景ですが、痛みも何も全くないのですね。自分がされるのが不思議で、最後の光が消えるまで目を離せませんでした。
「どうかな?」
術式が消えると、トーマス様がそう尋ねてきました。どこかに異変がないか身体の隅々まで感じましたが、特に変化はないように思います。
「何か変わったという感じは、特には……」
「だろうね。精神に干渉する術だから身体に変化はないと思う。あるなら気持ちの方かな」
「気持ち?」
「うん。他人に対しての気の持ちよう。今の気分は?」
「そう、ですね。何だかすっきりした感じはします。今までは……何ていうか、胸に石が詰まっているような感じがありました」
そう、解呪されてわかりましたが、胸の辺りにあった鈍く重い何かが消えた感じがして体が軽くなりました。常にあった足の裏の鈍い痛みもです。そういうとトーマス様は足の裏に魔術の紋があったと教えてくれました。そこなら見つかりにくいと思ったのだろうと。
「エルーシア、これであなたは自由ですよ」
そう言ってトーマス様が安心させるように笑みを向けてくれました。今までも自由という言葉はどこか遠いもののように感じていましたが、今はすっと身体に沁み込むような、馴染むような、そんな感じがしました。
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