『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
22 / 71

麗しき王女の勘違い

しおりを挟む
 黄金に輝く髪に、青く煌めく瞳。最も華やかな大輪の花のようだと称賛される美貌に、王女という身分。私は、この国の誰よりも美しくて尊い存在だ。そう、王妃という女性では至高の存在の母ですら、生まれは臣下である公爵家なのだ。そう言う意味では私こそが至高の存在だろう。
 そんな私には、十五歳の時に決められた婚約者がいた。隣国エスタータの第二王子だった。一つ年上で、美しい銀の髪と紫の瞳を持つ大変麗しい王子だと聞いていた。美男美女でお似合いだと称賛されていたし、年齢的にも容姿的にも私に釣り合いが取れるのは彼しかいなかったとも言える。
 なのに…その王子殿下は一年半前に病を得て、半年前に亡くなってしまった。
 お陰で私は十八になったというのに、婚約者がいなかった。王族や高位貴族は早くから婚約者を決めてしまうから、急に相手がいなくなれば次を見つけるのは至難の業なのだけど…私はその困難な状況に陥っていた。
 さすがに家格が低い相手は、私のプライドが許さなかった。公爵家ですら物足りないと思うのに、それ以下など問題外だ。
 でも王族となれば、年が近い者でも既に正妃がいて、嫁ぐとしたら第二妃扱いになってしまう。こんなにも美しく高貴な私が、臣下出身の正妃の下など到底受け入れられるものではなかった。でも年下となると、一番近くでも八歳下…さすがに十歳の王子に輿入れする気にはなれなかった。
 そんな感じで、八方塞がりだった私だったが、神は私をお見捨てにはならなかった。そう、私に相応しい相手が突如訪れたのだ。それは次兄が自分の婚約者の代わりにと召喚した異世界の者で、その者は元の世界では王族に連なる者で、これまでに見た誰よりも美しく雄々しく、そして類まれな力を持っていた。

(彼こそが、私にぴったりの存在だわ)

 初めて彼を見た時、心が高まるのを私は喜びと共に感じていた。私よりもさらに豪奢に見える深みのある黄金の髪、この世界では見た事もない青みの強い緑の瞳は怜悧で、顔立ちは男らしいが武骨さなど欠片もなく、優美で神々しい程だった。均整の取れた身体は逞しくしなやかで、背は…背が少しだけ高い私でも十分に釣り合うほどに高い。堂々とした威厳のある態度と気品に溢れた所作。セレン=アシャルティと名乗ったその男性は、まるで私のために用意されたような存在だった。

 なのに…

「御身の安全を保障出来ませんから、ここには近づかないで頂きたい」

 私が彼と話をしようとわざわざ離宮に足を運んだというのに…彼から掛けられた言葉は、拒絶するものだった。特別に愛称呼びだって許したのに、ペットと同じ名だからと言って断ったのも失礼極まりない。
 何よりも…私がいるというのに、聖女だったという貧相な娘にピッタリとくっ付き、離れようともしなかった。私には表情を変えなかったというのに、あの娘に向ける笑みは柔らかかった。この私よりもあんな小娘を優先するなど、あってはならない事なのに…

 しかも、護衛に促されてその場を後にした私を待っていたのは、王太子でもある兄からの叱咤だった。

「彼には近づくなと行っておいただろう!」
「でもお兄様、大切なお客様をもてなすのは王女としての役目ですわ」
「彼はそんな事を望んではいない。彼は元の世界では王族だ。そんな彼は数多の女性に結婚をせがまれて、自分から押しかける女性は苦手だと言ったのだ。それはお前ですら例外ではないのだぞ?」
「まさか…この私を他の女たちと同じに見るなど不敬ですわ」
「彼にとってこの国は、無理やり祖国から引き離した相手だ。我々は彼に恨まれても仕方ない事をしたんだぞ?」
「まさか…そんな筈は…」
「彼にだって家族や友人がいて、これまでに築き上げてきたものもある。それを一方的に奪ったのは我々だ。お前はある日突然、知らない世界に飛ばされて平気なのか?」
「そ、それは…」
「知り合いが一人もいない。身の安全を保障してくれるものもない。習慣も何もかも違う世界に一人で放り出されても文句も言わずに生きていけるのか?そこでは王女としての特権も何もないのだぞ?」
「……」
「彼はこの国を護るために必要不可欠な存在になり得るが、一方で不興を買えば敵にもなり得る。どれほどの力があるのかわからない以上、彼の機嫌を損ねるような真似はやめろ」

 お兄様にそう言われた私は、その場では何も言い返せなかった。いきなり知らない世界に飛ばされ、王女として扱われないなんて…そんな事、想像した事もなかったからだ。私はこの国の王女で、国一の貴婦人として称賛され、多くの男性に羨望の目を向けられる存在だ。そんな私が…いえ、そんな私だからこそ、違う世界に行ってもみんなが私の美しさや優美さに目を奪われる筈…
 セレン様だって、お父様が王族に準じる待遇をなさったと聞いたけれど、だったら私と結婚すればその立場はもっと強固になる筈だ。

「そうよ、私と結婚なされば、セレン様だって堂々と王族の一員になれるし、誰も文句を言う者もいない筈よ」

 彼だって私の夫になれると分かれば、きっと考えも変わるわ…それに、あの娘は彼の魔力をコントロールするために協力していると言っていた。そうよ、あの娘を優先したのは道具として必要だから。時期が来れば彼もあの娘が不要になる筈。それまではあの娘が側に居る事も仕方がない。

「でも、私が姿を見せたのに、臣下の礼もとらないなんて生意気だわ。何れはあの娘に罰が必要ね」

 いくら聖女だったとはいえ、元は卑しい平民だ。あんな娘がセレン様の側に居るなんて分不相応だし、私を蔑ろにするなど許せない。

「それに…もしかしたらあの娘がセレン様を誘惑しているのかもしれないわ。でなければ、私が袖にされるなんてあり得ないもの。それにあんな素晴らしい方が、貧相な平民を相手にする筈がないわ」

 そう、王国一の、いえ、大陸一の美姫と称賛される私が相手にされないなどあり得ない。きっとあの娘がよからぬ事を吹き込んでいるのだわ。その考えに至った私は、ようやく苛立ちが収まるのを感じた。

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

異世界から本物の聖女が来たからと、追い出された聖女は自由に生きたい! (完結)

深月カナメ
恋愛
十歳から十八歳まで聖女として、国の為に祈り続けた、白銀の髪、グリーンの瞳、伯爵令嬢ヒーラギだった。 そんなある日、異世界から聖女ーーアリカが降臨した。一応アリカも聖女だってらしく傷を治す力を持っていた。 この世界には珍しい黒髪、黒い瞳の彼女をみて、自分を嫌っていた王子、国王陛下、王妃、騎士など周りは本物の聖女が来たと喜ぶ。 聖女で、王子の婚約者だったヒーラギは婚約破棄されてしまう。 ヒーラギは新しい聖女が現れたのなら、自分の役目は終わった、これからは美味しいものをたくさん食べて、自由に生きると決めた。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...