『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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身勝手な王家

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 その後私は王宮の一室へと連れていかれました。幸いレリアも一緒ですが、セレン様はどうなったのでしょうか。今はリアさんたちの姿も見えず、何がどうなっているのか、状況が全くわかりません。部屋にはカギがかけられて外に出る事も、誰かに事情を聴く事も出来ず、私は不安の中で一夜を過ごしました。
 
 翌日、全く眠れなかった私が連れて来られたのは、王宮の謁見の間でした。そこには陛下や王妃様、オレリア王女殿下、宰相様とその補佐と思われる文官たち、そして神官長様とその補佐の神官様達が集まっていました。不思議な事に…王太子殿下とセザール殿下の姿がありません。いつもなら必ずこの様な場にはいらっしゃるでしょうに…

「よく来たな、ルネ」
「国王陛下…」

 レリアとも離され、一人御前に連れて来られた私に、陛下は声を掛けられました。恐れ多い存在ですが、正直これまでの陛下の対応には不信感しかないので、今は畏敬の思いよりも怒りも感じていました。セザール殿下がセレン様に眠り薬を盛ったと言っていましたが、きっと陛下はその事もご存じだったのでしょう。もしかしたら陛下が命令されたのかもしれません。
 セレン様の身の安全を保障すると仰っていたのに…強制的にこの世界に呼び出されても、この国のために結界の補修をと協力を申し出て下さったセレン様に比べると、あまりにも身勝手で腹立たしくすらあります。こんな方がこの国のトップだなんて…不敬とは思いますが、今はそんな思いが強く心を占めていました。
 その時です。私が入ってきた入り口のドアが開く音がしました。皆の視線がそちらに一斉に向かったため、、私も思わずそちらに視線が向きました。

「…セレン様っ!」

 そこにいたのはセザール殿下と、騎士に両脇を抱えられたセレン様の姿でした。両手は後ろ手に縛られ、両腕には大きな腕輪のようなものが嵌められていました。頬には殴られた痕なのか青紫の痣が見えますし、服などもヨロヨロで汚れている上、細かい傷も見られます。あれはもしかして…

「父上、異世界の悪魔をお連れしました。仰せの通り、力を封じる腕輪も」
「な…」

 セザール殿下のいいように、私は胸騒ぎが増すのを止められませんでした。

(悪魔…?力を封じる腕輪って…)
 
 陛下はセレン様を悪魔だとみなしたという事でしょうか…この世界を案じて、今後の事を色々考えて下さっていたセレン様を…それに、力を封じる腕輪とは一体…もしかして初代の聖女様が魔物を封じるのに使ったという、伝説の神器の事でしょうか。王家の秘宝の一つだと聞いた事がありますが、実際に使えるとは思いませんでした。

「うむ、よくやった、セザールよ」
「王子として当然の事です」

 陛下がセザール殿下をねぎらうと、殿下は尊大に胸を逸らせました。陛下もセザール殿下も、セレン様を犠牲にしてご自身の失敗をなかった事にするその態度が腹立たしいです。

「よく来たな、アシャルティよ」
「この様な歓待を受けるとは思いませんでしたよ」

 陛下が呼びかけると、セレン様は侮蔑を含んだ冷たい視線を陛下に向けました。それだけでも不敬と断じられてしまいます。セレン様は魔術が使えない様ですが、そのような態度をとられては酷い扱いをされないでしょうか…

「国と民を思えば仕方のない事よ」
「それなら何故、二度目の召喚を行われたのか。失敗すると、聖女を呼ぶのは無理だと、何度も申し上げた筈だが」
「異世界の者を信じるわけにもいかないのでな」
「なるほど。それで私を消してなかった事にしようという訳ですか」
「それも全ては王家の威信と民を守るためだ」
「ふっ、王家の失態を隠すためでしょう?一度失敗した召喚を行うなど、愚か者のする事ですからね」
「なっ、何だと…」

 セレン様の容赦ない言葉に、陛下が一気に怒気を膨らませました。確かに一度失敗したのに更に召還をするなど、愚かとも言われても仕方ありませんし、民の安全を考えれば二度目はないでしょう。

「言葉通りですよ。自身の失態をなかった事にしたいだけ。全く、見苦しいですな」
「何を…!ぶ、無礼な!」
「無礼?無礼なのは人を無理やり召喚したそちらでしょう?私も王族の一員。我らの国の者が私を迎えに来るとはお考えにならないのか?」
「な…!」
「ご自身の物差しで物事を考えない事ですな。我らの国はこの国とは比べ物にならないほどに魔術が盛んだ。一度だけならいざ知らず、二度も召喚をしたのであれば、その痕跡を辿って私を迎えに来てもおかしくはない」
「なん、だと…」

 セレン様の言葉に、陛下が言葉を詰まらせました。その可能性を、陛下は微塵もお考えになっていなかったのでしょう。一方で私は、お茶の合間にその可能性についての話を聞いていました。セレン様は、そんな可能性は低いけどね、と笑っていらっしゃいましたが、理論上は出来ない訳ではないと言うのがセレン様のお考えでした。

「父上!仮にそうだとしても、我らには悪魔を封じる魔封じがあります。異世界の者など、恐れる事はありません!」
「そ、そうじゃ、セザールの言う通りじゃ。残念だったな、アシャルティよ。そなたがいなくなれば、あの従魔とか言う異形も存在出来ぬ。我らはこれまでの平安を取り戻すのじゃ」
「なるほど…それが本音という事ですね」
「為政者とは、時には非情な決断も必要なのだ。悪く思うな」
「いえ、本音が分ったので十分な収穫ですよ。ですが…あなた方に私を害する事など不可能ですけどね」
「何だと…?」

 セレン様がとってもいい笑顔を浮かべると、その瞬間腕に嵌められていた腕輪があっという間に粉々に砕けて床へと広がりました。

「な…!」
「そんな…魔封じが…!」

 陛下達が悲鳴にも近い声を上げましたが、セレン様はそんな陛下達の戸惑いなどどこ吹く風。縛られていた筈の手をすっと一振りすると…そこにはいつも通りのセレン様の姿がありました。頬の痣もなく、服などもいつものパリッとした状態です。

「あんなおもちゃみたいな魔封じが効くと、本気で思っていたのですか?」
「な…そんな筈は…」
「確かに魔を封じる力はあるでしょうが…あまりにも脆弱ですね。あれではリア達を抑えるのは不可能ですよ。勿論、私もですが」

 そう言いながらセレン様は、いつの間にか私の側まで来ていました。私を逃がさないように側に控えていた騎士達も、魔封じを粉々にしたセレン様に怖気づいたのか、セレン様が近づいてくると後退ってしまいました。

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