『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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歓迎の夜会

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「まぁ、ルネ、綺麗だわ!」
「マリアンヌ様も、とってもお似合いです」

 あれからあっという間に、セザール様とオレリア様の歓迎の夜会の日になりました。私は前日から大公宮に呼ばれて朝一番に起こされ、そこからはマリアンヌ様と一緒にピッカピカに磨き上げられ、今ようやくドレスに着替え終わったところです。
 近くにあのお二方が滞在しているため不安はありましたが、さすがにマリアンヌ様の過ごすスペースには押しかけては来ませんでした。

 今日のマリアンヌ様は、どういうわけかセレン様の瞳の色に近い青みの強いブルーグリーンと黒のドレスでした。黒髪に紫の瞳のマリアンヌ様には珍しい組み合わせですが、それはセレン様の色そのままで、私が着たかった…とちょっと複雑な気分です。
 一方の私は、上半身は深みのある赤に白と金の刺繍がされ、スカートは白を基調として上の方には上半身と同じような赤と金の刺繍が施されています。ぱっと見は上半身は赤で、下に向かって白に変化しているので、派手な印象は弱められています。デコルテの露出は控えめなので、色の割には全体的に清楚な印象です。そして…セレン様の衣装もお揃いでした、これはどこからどう見ても私の色、ですわね。てっきりセレン様の色になると思っていたので意外でした。

「ふふ、やっぱりルネには赤が似合うね。雪のように白い髪も肌も、その赤がよく映えるよ」

 そういってセレン様が私の全身をじっと見つめました。いえ、セレン様こそ何を着てもとってもお似合いなのですが…それでも、このような夜会では夫婦の色で合わせる事が多いので、私の色だとかなり目立ってしまいそうです。白と赤の髪や目の色を持つ者は、殆どいないのですから。

 今日の夜会はフェロー国の王族を歓迎するもので、夜会には大公領の貴族だけでなく、他国の王族や大使達が多く招待されています。今回の招待客で最も高貴なのはフェローの王太子でもあるセザール殿下でしょうが、オレリア様が嫁ぐ予定だったエスタータ王国の第三王子や、ルーベルク王国の王女殿下、ルーズバリューの王弟殿下も招待されています。彼らは…ジルベール様曰く、セザール殿下達の横暴を止めるストッパーなのだとか。人並み以上に見栄っ張りな彼らです、他国の王族や大使がいる前では勝手な真似も出来ないだろうとの事。それに各国の王族を招いた事で、バズレールがフェローの属国ではなく、独立した一国だと彼らに突きつける狙いもあるそうです。



 夜会が始まりました。私はセレン様のエスコートで、ジルベール様達の列の最後に続きました。本来子爵位の私達には出席の資格がないのですが、オレリア様がセレン様と話がしたいと仰っているとかで、仕方なしに…という感じです。ジルベール様も顔を見て話が出来れば気が済むだろうとのお考えで、それなら人の多い夜会の方が逃げ道もあっていいだろうと参加が決まりました。確かに夜会なら他国の王族もいらっしゃるので、セレン様だけに構っている余裕はないでしょう。

「セザールにオレリア、楽しんでいってくれ」
「兄上、このような夜会を開いてくださって感謝します」
「お兄様、ありがとうございます」

 セザール様は今回、婚約者のジオネ公爵令嬢は伴わなかったので、オレリア様をエスコートしていらっしゃいました。一年ぶりに見るセザール様は、昨年よりも更に大人っぽくなったように見えますが…何だかお疲れのご様子なのか、表情が冴えません。衣装もいつもはパリッと隙がないのですが、今日はなんだかヨロっとしています。
 そしてその隣のオレリア様も…同様にいつもの華やぎに欠けているように見えました。セザール様の色のブルーグリーンを基調としたドレスですが、こちらもいつになく力ない印象に見えます。ご自身をいかに美しく見せるかに心血を注いているようなお二人には珍しい光景です。

「どうやらお二人は随分お疲れのようだね」
「え、ええ…」

 お二方がジルベール様達と話しているのを、少し離れた場所から見ていた私に、セレン様が小声で話しかけてきました。

「ふふ、迂回したせいで十分な宿も取れず、大変だったようだね」
「ええ?それじゃ…」
「旅程が伸びたせいで衣装箱にしまっておいたドレスが皴になってしまったらしい。途中で雨にもあったから、湿気でドレスの張りが失われたのかも」

 セレン様が小声でそう教えてくれました。どうやら早くに出発したのが仇になったようで、大きく迂回したせいで予定していた宿に泊まれなかったのだとか。旅程が長引いた上にいつもよりもずっと粗末な宿に泊まったせいで、十分お疲れが取れないようです。う回路には大きな宿場町がないので、衣装の手入れが十分に出来る宿もなかったのかもしれません。

「最初から予定通りに来ていれば、こんな事にはならなかったのにね」

 セレン様が悪戯っぽくそう言いましたが、なるほど、確かにそうであればこんなにお疲れにはならなかったのでしょうね。それに…オレリア様、他のドレスもあったでしょうに、セレン様の色のドレスをお召しになったとは…
 でもこれで一層、マリアンヌ様の方がずっと美しく気品高く見えています。マリアンヌ様の黒髪はドレスの色によく映えていますが、一方のオレリア様の金の髪はちょっと負けているように見えるのは私の欲目でしょうか…遠目にもマリアンヌ様の方がずっと美しく見えます。色が似ている分、どうしても比べてしまうのは人の性でしょう。
 一方で、オレリア様のセレン様への執着を見た気がして、私の気分は沈みました。いえ、今に限ってだと赤と白の組み合わせは私達だけなので、オレリア様とは少しも被っていません。そこはホッとしましたが、皴があってもセレン様の色のドレスを選んだオレリア様の執着心が、思った以上に浅からぬ事を感じました。

「これまでのように、私の色を纏って周りに私を自分のものだと知らしめようとしたようだけど、残念ながらあれな失敗だろう」
「それじゃ、今日のこの色は…」
「私がルネのものだと知らしめるためもあるけど、あの王女と被るなんて遠慮したかったからね。ジルベール様に話をしたら、それなら…とこうなったんだよ」

 聞けばジルベール様はずっと、マリアンヌ様を地味で華がないと馬鹿にしていたオレリア様を心苦しく思っていたそうです。その為、今回はオレリア様がセレン様の色を纏うのを見越して、わざと同じような色にしたのだとか。こちらに来てからのマリアンヌ様は、フェローにいた頃のストレスから解消され、肌艶も戻って見違えるようにお美しくなられました。ジルベール様にとってこの夜会は、ささやかな復讐の場でもあったようです。

「後はセザール殿下だね。ルネにはまだ気づいていないようだけど…どんな反応をするやら…」

 セザール様もまだこちらには気付いていないようです。私達はジルベール様達から少し距離を取っているので仕方ありませんが…いずれは彼の目に留まるのでしょう。その時の反応を思うと、一層気が重くなりました。
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