『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

文字の大きさ
58 / 71

王女の激高

しおりを挟む
 セザール様の呟きに、オレリア様の片眉がぴくっと反応したのが、セレン様の身体の向こうに見えました。どうやらオレリア様は私だと気付かなかったようですが、これは仕方ないでしょう。セレン様が私とオレリア様の間に立ったので、あちらからは私の顔は見えなかったのでしょうから。

「いや、まさか…だが、その髪と目の色は…」

 未だにセザール様は私だと認められないのか、茫然としたままですが…そんなに変わったでしょうか?いえ、確かにここに来てからは肌も髪も艶が出て、そう言えば体型もこの前変わったばかりでしたわね。あの棒切れのような私しか知らない殿下達なら直ぐにはわからない、のでしょうね。

「ル、ルネって…あの平民の…」
「あ、ああ…私の婚約者だった…」

 私の婚約者、とセザール様が言ったところで、セレン様の纏う空気が一段寒くなった気がします。いえ、私としても殿下の婚約者だったのは黒歴史ですから、そんな風に気にされる必要はないと思います。

「私の妻のルネです」
「ルネ=アシャルティです。ようこそ、バズレールへ」
「あ、ああ…」

 未だに信じられないような表情のままのセザール様を前に、私はセレン様から身を離して、カーテシーと共に挨拶をしました。さすがに元婚約者ですし、知らん顔をするわけにもいきません。

「久しぶりだな、ルネ…」
「セザール王太子殿下、彼女はもう私の妻です。これからはアシャルティ夫人と」
「あ、ああ…すまない」

 先ほどから私の名を呼ぶセザール様に、言外に軽々しく名を呼ぶなとセレン様が釘を刺しました。セザール様はそれでようやく私だと確信が持てたのか、返事をされましたが…少々驚き過ぎではないでしょうか。それはそれで何だかモヤっとします。そしてセレン様、直ぐにくっ付くのはどうしてですか?さすがに人目があるので恥ずかしいのですが…

「そんな…セレン様、ご結婚だなんて…」

 セザール様に気を取られて忘れていましたが、オレリア様がこちらもまた呆然とした表情で呟かれました。先ほどから驚きっぱなしですが…王族なのに兄妹揃って想定外の事態に弱いのでしょうか…

「一目会った時から、私は妻に心奪われましてね。彼女以外を妻にするつもりはありませんでした。ジルベール様にご助力頂きまして先日、ようやく妻に迎えられたのですよ」
「な…」

 これまでの冷たい対応とは一変して、セレン様は甘い声色でそう告げました。私からその表情は見えませんが…オレリア様も、こちらを見ている女性たちも顔を赤らめているので、きっと甘い笑みを浮かべているのでしょうね。マリアンヌ様曰く、心に一物も二物も抱えた裏のある笑顔だそうで、私に見せるものとはまた違うのだそうです。

「…これほどに変わるとは…」

 セザール様は先ほどから私を真っすぐに見つめていましたが、そう呟くのが聞こえました。何でしょうか、凄く嫌な気分です。私が貧相だったのは、結界とセザール様達に蔑ろにされていたためです。今更興味なんて持たれたくないのですが…セザール様の視線がずっと私から離れないのが気持ち悪く、私は思わずセレン様の袖をぎゅっと握ると、セレン様は察して下さったのでしょうか、セザール様から私が見えないように体制を変えました。

「そ、そんな…み、認めませんわ、そんな事っ!」

 突然、会場内に響き渡る声でそう叫んだのは…オレリア様でした。いつもの王女然とした優雅な姿は影を潜め、今はその美しい顔をゆがめています。認めないと言われましても…既に私達はジルベール様に夫婦として認められていますし、自治権があるバズレールはフェロー王国とは別の国です。オレリア様が認めなくてもこの決定が翻る事はないのですが…

「セ、セレン様はっ!私の夫になるお方ですわ!そんな平民風情との婚姻など許しませんわっ!」

 シン…と会場内が静まり返りました。離れた場所のいる方も、突然の叫び声に何事かとこちらを見ています。でも、それもそうでしょう。招待された他国の王女が夜会で叫べば、注目を浴びるのは必然と言えましょう。

「セレン様!目を覚ましなさい!貴方にはこんな平民は似つかわしくありませんわっ!」

 会場で注目を浴びているとのご自覚があるのかどうかわかりませんが、オレリア様は完全に命令口調で、取り繕う余裕もないように見えます。あまりの剣幕に、周りの人も大きく目を見開いていますが…あの王女の中の王女と称えられたオレリア様がこんな行動に出るとは思わなかったのでしょう。

「王女殿下に命令される謂れはありません。この結婚はこのバズレールの君主でもあるジルベール大公殿下がお認めになったもの。妹君とはいえ、自治権のある他領の事に口出しされるのは越権行為ですよ」
「な…!」

 まさかセレン様に反論されるとは思わなかったのでしょう。オレリア様は目を見開いてセレン様を見上げました。顔は青ざめ、唇が小刻みに震えているようにも見えます。元よりフェローでは皆がオレリア様やセザール様の言いなりだったので、人前でこうもはっきり拒絶される経験がなかったのかもしれません。

「セ、セレン様は騙されているのですわ!その女は聖力を使って怪しげな術を使うのです。そうでなければそんなに姿形が変わる筈がありませんもの!セレン様はその術に騙されているのです!」

 さすが王女殿下というべきでしょうか…最初は動揺も露わにされていたオレリア様でしたが、最後にはっきりと言い切るさまは、確信に満ちて説得力があるように見えます。そのせいか、周りの方の私に向ける視線が険しくなったような気がします。まさか姿が変わった事をそんな風に言われるとは思わず、私は押し寄せてくる不安がじんわりと心の広がるのを感じました。

「皆様、騙されてはなりません、この女は魔女ですわ!」

 オレリア様が私を指さしてそう宣言しました。その眼にははっきりと怒りと優越に満ちた何かが宿っていました。


しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

捨てられた私が聖女だったようですね 今さら婚約を申し込まれても、お断りです

木嶋隆太
恋愛
聖女の力を持つ人間は、その凄まじい魔法の力で国の繁栄の手助けを行う。その聖女には、聖女候補の中から一人だけが選ばれる。私もそんな聖女候補だったが、唯一のスラム出身だったため、婚約関係にあった王子にもたいそう嫌われていた。他の聖女候補にいじめられながらも、必死に生き抜いた。そして、聖女の儀式の日。王子がもっとも愛していた女、王子目線で最有力候補だったジャネットは聖女じゃなかった。そして、聖女になったのは私だった。聖女の力を手に入れた私はこれまでの聖女同様国のために……働くわけがないでしょう! 今さら、優しくしたって無駄。私はこの聖女の力で、自由に生きるんだから!

処理中です...