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王女の激高
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セザール様の呟きに、オレリア様の片眉がぴくっと反応したのが、セレン様の身体の向こうに見えました。どうやらオレリア様は私だと気付かなかったようですが、これは仕方ないでしょう。セレン様が私とオレリア様の間に立ったので、あちらからは私の顔は見えなかったのでしょうから。
「いや、まさか…だが、その髪と目の色は…」
未だにセザール様は私だと認められないのか、茫然としたままですが…そんなに変わったでしょうか?いえ、確かにここに来てからは肌も髪も艶が出て、そう言えば体型もこの前変わったばかりでしたわね。あの棒切れのような私しか知らない殿下達なら直ぐにはわからない、のでしょうね。
「ル、ルネって…あの平民の…」
「あ、ああ…私の婚約者だった…」
私の婚約者、とセザール様が言ったところで、セレン様の纏う空気が一段寒くなった気がします。いえ、私としても殿下の婚約者だったのは黒歴史ですから、そんな風に気にされる必要はないと思います。
「私の妻のルネです」
「ルネ=アシャルティです。ようこそ、バズレールへ」
「あ、ああ…」
未だに信じられないような表情のままのセザール様を前に、私はセレン様から身を離して、カーテシーと共に挨拶をしました。さすがに元婚約者ですし、知らん顔をするわけにもいきません。
「久しぶりだな、ルネ…」
「セザール王太子殿下、彼女はもう私の妻です。これからはアシャルティ夫人と」
「あ、ああ…すまない」
先ほどから私の名を呼ぶセザール様に、言外に軽々しく名を呼ぶなとセレン様が釘を刺しました。セザール様はそれでようやく私だと確信が持てたのか、返事をされましたが…少々驚き過ぎではないでしょうか。それはそれで何だかモヤっとします。そしてセレン様、直ぐにくっ付くのはどうしてですか?さすがに人目があるので恥ずかしいのですが…
「そんな…セレン様、ご結婚だなんて…」
セザール様に気を取られて忘れていましたが、オレリア様がこちらもまた呆然とした表情で呟かれました。先ほどから驚きっぱなしですが…王族なのに兄妹揃って想定外の事態に弱いのでしょうか…
「一目会った時から、私は妻に心奪われましてね。彼女以外を妻にするつもりはありませんでした。ジルベール様にご助力頂きまして先日、ようやく妻に迎えられたのですよ」
「な…」
これまでの冷たい対応とは一変して、セレン様は甘い声色でそう告げました。私からその表情は見えませんが…オレリア様も、こちらを見ている女性たちも顔を赤らめているので、きっと甘い笑みを浮かべているのでしょうね。マリアンヌ様曰く、心に一物も二物も抱えた裏のある笑顔だそうで、私に見せるものとはまた違うのだそうです。
「…これほどに変わるとは…」
セザール様は先ほどから私を真っすぐに見つめていましたが、そう呟くのが聞こえました。何でしょうか、凄く嫌な気分です。私が貧相だったのは、結界とセザール様達に蔑ろにされていたためです。今更興味なんて持たれたくないのですが…セザール様の視線がずっと私から離れないのが気持ち悪く、私は思わずセレン様の袖をぎゅっと握ると、セレン様は察して下さったのでしょうか、セザール様から私が見えないように体制を変えました。
「そ、そんな…み、認めませんわ、そんな事っ!」
突然、会場内に響き渡る声でそう叫んだのは…オレリア様でした。いつもの王女然とした優雅な姿は影を潜め、今はその美しい顔をゆがめています。認めないと言われましても…既に私達はジルベール様に夫婦として認められていますし、自治権があるバズレールはフェロー王国とは別の国です。オレリア様が認めなくてもこの決定が翻る事はないのですが…
「セ、セレン様はっ!私の夫になるお方ですわ!そんな平民風情との婚姻など許しませんわっ!」
シン…と会場内が静まり返りました。離れた場所のいる方も、突然の叫び声に何事かとこちらを見ています。でも、それもそうでしょう。招待された他国の王女が夜会で叫べば、注目を浴びるのは必然と言えましょう。
「セレン様!目を覚ましなさい!貴方にはこんな平民は似つかわしくありませんわっ!」
会場で注目を浴びているとのご自覚があるのかどうかわかりませんが、オレリア様は完全に命令口調で、取り繕う余裕もないように見えます。あまりの剣幕に、周りの人も大きく目を見開いていますが…あの王女の中の王女と称えられたオレリア様がこんな行動に出るとは思わなかったのでしょう。
「王女殿下に命令される謂れはありません。この結婚はこのバズレールの君主でもあるジルベール大公殿下がお認めになったもの。妹君とはいえ、自治権のある他領の事に口出しされるのは越権行為ですよ」
「な…!」
まさかセレン様に反論されるとは思わなかったのでしょう。オレリア様は目を見開いてセレン様を見上げました。顔は青ざめ、唇が小刻みに震えているようにも見えます。元よりフェローでは皆がオレリア様やセザール様の言いなりだったので、人前でこうもはっきり拒絶される経験がなかったのかもしれません。
「セ、セレン様は騙されているのですわ!その女は聖力を使って怪しげな術を使うのです。そうでなければそんなに姿形が変わる筈がありませんもの!セレン様はその術に騙されているのです!」
さすが王女殿下というべきでしょうか…最初は動揺も露わにされていたオレリア様でしたが、最後にはっきりと言い切るさまは、確信に満ちて説得力があるように見えます。そのせいか、周りの方の私に向ける視線が険しくなったような気がします。まさか姿が変わった事をそんな風に言われるとは思わず、私は押し寄せてくる不安がじんわりと心の広がるのを感じました。
「皆様、騙されてはなりません、この女は魔女ですわ!」
オレリア様が私を指さしてそう宣言しました。その眼にははっきりと怒りと優越に満ちた何かが宿っていました。
「いや、まさか…だが、その髪と目の色は…」
未だにセザール様は私だと認められないのか、茫然としたままですが…そんなに変わったでしょうか?いえ、確かにここに来てからは肌も髪も艶が出て、そう言えば体型もこの前変わったばかりでしたわね。あの棒切れのような私しか知らない殿下達なら直ぐにはわからない、のでしょうね。
「ル、ルネって…あの平民の…」
「あ、ああ…私の婚約者だった…」
私の婚約者、とセザール様が言ったところで、セレン様の纏う空気が一段寒くなった気がします。いえ、私としても殿下の婚約者だったのは黒歴史ですから、そんな風に気にされる必要はないと思います。
「私の妻のルネです」
「ルネ=アシャルティです。ようこそ、バズレールへ」
「あ、ああ…」
未だに信じられないような表情のままのセザール様を前に、私はセレン様から身を離して、カーテシーと共に挨拶をしました。さすがに元婚約者ですし、知らん顔をするわけにもいきません。
「久しぶりだな、ルネ…」
「セザール王太子殿下、彼女はもう私の妻です。これからはアシャルティ夫人と」
「あ、ああ…すまない」
先ほどから私の名を呼ぶセザール様に、言外に軽々しく名を呼ぶなとセレン様が釘を刺しました。セザール様はそれでようやく私だと確信が持てたのか、返事をされましたが…少々驚き過ぎではないでしょうか。それはそれで何だかモヤっとします。そしてセレン様、直ぐにくっ付くのはどうしてですか?さすがに人目があるので恥ずかしいのですが…
「そんな…セレン様、ご結婚だなんて…」
セザール様に気を取られて忘れていましたが、オレリア様がこちらもまた呆然とした表情で呟かれました。先ほどから驚きっぱなしですが…王族なのに兄妹揃って想定外の事態に弱いのでしょうか…
「一目会った時から、私は妻に心奪われましてね。彼女以外を妻にするつもりはありませんでした。ジルベール様にご助力頂きまして先日、ようやく妻に迎えられたのですよ」
「な…」
これまでの冷たい対応とは一変して、セレン様は甘い声色でそう告げました。私からその表情は見えませんが…オレリア様も、こちらを見ている女性たちも顔を赤らめているので、きっと甘い笑みを浮かべているのでしょうね。マリアンヌ様曰く、心に一物も二物も抱えた裏のある笑顔だそうで、私に見せるものとはまた違うのだそうです。
「…これほどに変わるとは…」
セザール様は先ほどから私を真っすぐに見つめていましたが、そう呟くのが聞こえました。何でしょうか、凄く嫌な気分です。私が貧相だったのは、結界とセザール様達に蔑ろにされていたためです。今更興味なんて持たれたくないのですが…セザール様の視線がずっと私から離れないのが気持ち悪く、私は思わずセレン様の袖をぎゅっと握ると、セレン様は察して下さったのでしょうか、セザール様から私が見えないように体制を変えました。
「そ、そんな…み、認めませんわ、そんな事っ!」
突然、会場内に響き渡る声でそう叫んだのは…オレリア様でした。いつもの王女然とした優雅な姿は影を潜め、今はその美しい顔をゆがめています。認めないと言われましても…既に私達はジルベール様に夫婦として認められていますし、自治権があるバズレールはフェロー王国とは別の国です。オレリア様が認めなくてもこの決定が翻る事はないのですが…
「セ、セレン様はっ!私の夫になるお方ですわ!そんな平民風情との婚姻など許しませんわっ!」
シン…と会場内が静まり返りました。離れた場所のいる方も、突然の叫び声に何事かとこちらを見ています。でも、それもそうでしょう。招待された他国の王女が夜会で叫べば、注目を浴びるのは必然と言えましょう。
「セレン様!目を覚ましなさい!貴方にはこんな平民は似つかわしくありませんわっ!」
会場で注目を浴びているとのご自覚があるのかどうかわかりませんが、オレリア様は完全に命令口調で、取り繕う余裕もないように見えます。あまりの剣幕に、周りの人も大きく目を見開いていますが…あの王女の中の王女と称えられたオレリア様がこんな行動に出るとは思わなかったのでしょう。
「王女殿下に命令される謂れはありません。この結婚はこのバズレールの君主でもあるジルベール大公殿下がお認めになったもの。妹君とはいえ、自治権のある他領の事に口出しされるのは越権行為ですよ」
「な…!」
まさかセレン様に反論されるとは思わなかったのでしょう。オレリア様は目を見開いてセレン様を見上げました。顔は青ざめ、唇が小刻みに震えているようにも見えます。元よりフェローでは皆がオレリア様やセザール様の言いなりだったので、人前でこうもはっきり拒絶される経験がなかったのかもしれません。
「セ、セレン様は騙されているのですわ!その女は聖力を使って怪しげな術を使うのです。そうでなければそんなに姿形が変わる筈がありませんもの!セレン様はその術に騙されているのです!」
さすが王女殿下というべきでしょうか…最初は動揺も露わにされていたオレリア様でしたが、最後にはっきりと言い切るさまは、確信に満ちて説得力があるように見えます。そのせいか、周りの方の私に向ける視線が険しくなったような気がします。まさか姿が変わった事をそんな風に言われるとは思わず、私は押し寄せてくる不安がじんわりと心の広がるのを感じました。
「皆様、騙されてはなりません、この女は魔女ですわ!」
オレリア様が私を指さしてそう宣言しました。その眼にははっきりと怒りと優越に満ちた何かが宿っていました。
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