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「な、何とか間に合いましたわ…」
その日の夕方、私はレリアとマリアンヌ様がよこして下さった侍女たちによって別人と化していました。この日のドレスは深みのあるグリーンのドレスでした、差し色は白と黄色で、これは私とセレン様の髪色でしょうか。装飾が少なく大人しめのデザインですが、その分品があってとっても素敵です。ただ、私が着るとドレスに負けてしまいそうですが。
そしてそんな私の隣に立つセレン様は、今日も正装がとてもお似合いでため息が出る程です。隣に立つのが心苦しいと言いますか、きっと釣り合っていないと言われるのだろうと気が重くなります。レリアもマリアンヌ様の侍女の皆さんも、とてもお似合いだと言ってくれますが、それを真に受ける程私は身の程知らずではありません。
そして気になるのは、その手首でした。あのオレリア様から贈られた腕輪がセレン様の左手首にあるのです。既に術は解いて問題ないと言われましたが…それをつけて出席するのかと思うとモヤモヤします。
「やぁ、ルネ嬢、急に呼び出して申し訳なかったね」
「そうね。でもルネ、そのドレスとっても似合っているわ!」
大公宮を訪れた私を迎えてくれたのは大公ご夫妻でした。既に着替えも終わって、どこから見ても麗しい一対です。今日は艶のある茶色の生地を使った衣装のお二人ですが、上品でありながらすっきりとしていて、正にジルベール様のお好み通りです。このようなデザインは、硬質な美貌と楚々とした印象のマリアンヌ様の魅力を最大限に引き出しているように見えます。バズレールに来てからのマリアンヌ様を見ていると、ゴテゴテと飾り立てるのはかえって品を損なうものだな…とすごく感じます。
そして今日のお二人はとても機嫌がいいように見えました。それを言ったらセレン様もですが…昨日からずっとあの腕輪の事で相談なさっていたようですが、何をお考えなのでしょうか…私はまだ何も聞かされていないので、物凄く気になります。
今日の夜会はフェローのお二人と、隣国の一つルーベルク王国の王子殿下と王女殿下の四人のお別れの会でもありました。ルーベルク王国はバズレールやフェローの北に位置する国で、バズレールとも友好な関係を築いています。先月のセレン様の国境の視察では王子殿下が同行されて今後の魔獣対策の話し合いをされるなど、バズレールにとっても重要な国として、ジルベール様はフェローよりも重要視されていると聞きます。
「ルネ!セレンもお久しぶりね!」
そう言って気安く声をかけてくださったのは、ルーベルク王国のアデライン第四王女殿下でした。輝く銀の髪にキラキラと煌めく紫の瞳を持つ王女殿下は現在十五歳。まだあどけなさが残るものの、しっかり者で王女としての威厳と品を兼ね備えています。とても麗しくて周辺国一の美少女と讃えられていますが、その外見に反して剣の腕はとんでもなくお強いらしく、とても負けず嫌いだと伺っています。
そんな王女殿下のストッパーが、隣でエスコートする実兄のオーブリー第四王子殿下です。こちらも同じ銀の髪と紫の瞳を持ちますが、瞳の色は兄君の方が少し薄いですわね。その色彩と元より口数が少ないご性分もあって、氷の貴公子とも呼ばれています。
噂ではセザール様はこのオーブリー殿下にライバル心を持っているのだとか。実際、お二人は年も近く、その優れた外見は比べたくなるほどの麗しさで、周辺国でも一、二を争う麗しい王子として有名です。
ただ、性格は全く違い、尊大で身分意識の強いセザール様と、無口だけど情に厚いオーブリー殿下では、どちらか好ましいかなどわざわざ口にする必要もないでしょう。
「アデライン様、お久しぶりでございます」
「ああもう、ルネったらそんなに畏まらないで。もっと気さくに話して欲しいわ」
「そうね、ルネの謙虚さは美徳だけど、私達だけの時はもう少し楽にして欲しいわね」
「ほら、マリアンヌ様もそう言ってるわ!」
二人に畳みかけるようにそう言われて、私は返事に困ってしまいました。そう言って頂けるのは光栄ですが、さすがに身分差があり過ぎて簡単に是とは言い難いのです。
マリアンヌ様とアデライン様ですが、実は姉妹のように仲がいいのですよね。聞けばマリアンヌ様のお母様の実家はルーベルク王国の侯爵家で、その縁もあって昔から交流があったのだとか。アデラインの一番上の姉姫様とマリアンヌ様は同じ年で、一時期その姉姫様はフェローに留学していたこともあったそうです。その伝もあって、バズレールに移ってからはより親しく行き来をするようになったのです。
「ルネ、今日はあの王女にいい話を持ってきたのよ」
「いい話、ですか?」
「そうよ!」
「それは一体…」
「ふふっ、それは後のお楽しみ」
とても愛らしい笑顔のアデライン様にそう言い切られてしまうと、それ以上聞けなくなってしまいました。ちらっと隣のセレン様に視線を向けると、セレン様も私の視線に気づいて笑みを向けてくれましたが…どうやらセレン様もご存じのようです。でも教えてくれないという事は、聞いても無駄という事なのは私もこの一年で理解しました。これはお楽しみとして待つしかなさそうです。
夜会が始まると、私達はジルベール様の側近の皆さんの列の最後に続きました。身分的には夜会に出席できる立場ではないのですが、側近としてなら可能なのです。今日は二国の王子や王女が帰国される前の夜会なので、歓迎の夜会並みに華やかでした。
「セレン様!」
夜会も中盤に差し掛かり、ようやく挨拶などが終わって自由な時間に入ると、早速セレン様を呼ぶ甲高い声が会場に響きました。その姿を見なくてもわかります、オレリア様です。今日もまたセレン様の瞳の色の青碧のドレスですが…さすがに滞在中に衣装も整えたのか、今日は前回の夜会と違って美しく見栄えのあるドレスです。この会場内の誰よりも華やかに着飾っているので、非常に目立っています。
「セレン様!まぁ、その腕輪、身に付けてくださったのですね!」
袖口からわずかに見える腕輪にオレリア様が反応しました。やはりあの腕輪はオレリア様が文官に噓をつかせて送ってきたのは間違いないようです。ふと、セレン様がどう反応するのか気になった私でしたが…見上げたセレン様はいつもの人を引き寄せる笑みを浮かべていましたが、その心中までは伺い知れませんでした。
その日の夕方、私はレリアとマリアンヌ様がよこして下さった侍女たちによって別人と化していました。この日のドレスは深みのあるグリーンのドレスでした、差し色は白と黄色で、これは私とセレン様の髪色でしょうか。装飾が少なく大人しめのデザインですが、その分品があってとっても素敵です。ただ、私が着るとドレスに負けてしまいそうですが。
そしてそんな私の隣に立つセレン様は、今日も正装がとてもお似合いでため息が出る程です。隣に立つのが心苦しいと言いますか、きっと釣り合っていないと言われるのだろうと気が重くなります。レリアもマリアンヌ様の侍女の皆さんも、とてもお似合いだと言ってくれますが、それを真に受ける程私は身の程知らずではありません。
そして気になるのは、その手首でした。あのオレリア様から贈られた腕輪がセレン様の左手首にあるのです。既に術は解いて問題ないと言われましたが…それをつけて出席するのかと思うとモヤモヤします。
「やぁ、ルネ嬢、急に呼び出して申し訳なかったね」
「そうね。でもルネ、そのドレスとっても似合っているわ!」
大公宮を訪れた私を迎えてくれたのは大公ご夫妻でした。既に着替えも終わって、どこから見ても麗しい一対です。今日は艶のある茶色の生地を使った衣装のお二人ですが、上品でありながらすっきりとしていて、正にジルベール様のお好み通りです。このようなデザインは、硬質な美貌と楚々とした印象のマリアンヌ様の魅力を最大限に引き出しているように見えます。バズレールに来てからのマリアンヌ様を見ていると、ゴテゴテと飾り立てるのはかえって品を損なうものだな…とすごく感じます。
そして今日のお二人はとても機嫌がいいように見えました。それを言ったらセレン様もですが…昨日からずっとあの腕輪の事で相談なさっていたようですが、何をお考えなのでしょうか…私はまだ何も聞かされていないので、物凄く気になります。
今日の夜会はフェローのお二人と、隣国の一つルーベルク王国の王子殿下と王女殿下の四人のお別れの会でもありました。ルーベルク王国はバズレールやフェローの北に位置する国で、バズレールとも友好な関係を築いています。先月のセレン様の国境の視察では王子殿下が同行されて今後の魔獣対策の話し合いをされるなど、バズレールにとっても重要な国として、ジルベール様はフェローよりも重要視されていると聞きます。
「ルネ!セレンもお久しぶりね!」
そう言って気安く声をかけてくださったのは、ルーベルク王国のアデライン第四王女殿下でした。輝く銀の髪にキラキラと煌めく紫の瞳を持つ王女殿下は現在十五歳。まだあどけなさが残るものの、しっかり者で王女としての威厳と品を兼ね備えています。とても麗しくて周辺国一の美少女と讃えられていますが、その外見に反して剣の腕はとんでもなくお強いらしく、とても負けず嫌いだと伺っています。
そんな王女殿下のストッパーが、隣でエスコートする実兄のオーブリー第四王子殿下です。こちらも同じ銀の髪と紫の瞳を持ちますが、瞳の色は兄君の方が少し薄いですわね。その色彩と元より口数が少ないご性分もあって、氷の貴公子とも呼ばれています。
噂ではセザール様はこのオーブリー殿下にライバル心を持っているのだとか。実際、お二人は年も近く、その優れた外見は比べたくなるほどの麗しさで、周辺国でも一、二を争う麗しい王子として有名です。
ただ、性格は全く違い、尊大で身分意識の強いセザール様と、無口だけど情に厚いオーブリー殿下では、どちらか好ましいかなどわざわざ口にする必要もないでしょう。
「アデライン様、お久しぶりでございます」
「ああもう、ルネったらそんなに畏まらないで。もっと気さくに話して欲しいわ」
「そうね、ルネの謙虚さは美徳だけど、私達だけの時はもう少し楽にして欲しいわね」
「ほら、マリアンヌ様もそう言ってるわ!」
二人に畳みかけるようにそう言われて、私は返事に困ってしまいました。そう言って頂けるのは光栄ですが、さすがに身分差があり過ぎて簡単に是とは言い難いのです。
マリアンヌ様とアデライン様ですが、実は姉妹のように仲がいいのですよね。聞けばマリアンヌ様のお母様の実家はルーベルク王国の侯爵家で、その縁もあって昔から交流があったのだとか。アデラインの一番上の姉姫様とマリアンヌ様は同じ年で、一時期その姉姫様はフェローに留学していたこともあったそうです。その伝もあって、バズレールに移ってからはより親しく行き来をするようになったのです。
「ルネ、今日はあの王女にいい話を持ってきたのよ」
「いい話、ですか?」
「そうよ!」
「それは一体…」
「ふふっ、それは後のお楽しみ」
とても愛らしい笑顔のアデライン様にそう言い切られてしまうと、それ以上聞けなくなってしまいました。ちらっと隣のセレン様に視線を向けると、セレン様も私の視線に気づいて笑みを向けてくれましたが…どうやらセレン様もご存じのようです。でも教えてくれないという事は、聞いても無駄という事なのは私もこの一年で理解しました。これはお楽しみとして待つしかなさそうです。
夜会が始まると、私達はジルベール様の側近の皆さんの列の最後に続きました。身分的には夜会に出席できる立場ではないのですが、側近としてなら可能なのです。今日は二国の王子や王女が帰国される前の夜会なので、歓迎の夜会並みに華やかでした。
「セレン様!」
夜会も中盤に差し掛かり、ようやく挨拶などが終わって自由な時間に入ると、早速セレン様を呼ぶ甲高い声が会場に響きました。その姿を見なくてもわかります、オレリア様です。今日もまたセレン様の瞳の色の青碧のドレスですが…さすがに滞在中に衣装も整えたのか、今日は前回の夜会と違って美しく見栄えのあるドレスです。この会場内の誰よりも華やかに着飾っているので、非常に目立っています。
「セレン様!まぁ、その腕輪、身に付けてくださったのですね!」
袖口からわずかに見える腕輪にオレリア様が反応しました。やはりあの腕輪はオレリア様が文官に噓をつかせて送ってきたのは間違いないようです。ふと、セレン様がどう反応するのか気になった私でしたが…見上げたセレン様はいつもの人を引き寄せる笑みを浮かべていましたが、その心中までは伺い知れませんでした。
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