『完結』孤児で平民の私を嫌う王子が異世界から聖女を召還しましたが…何故か私が溺愛されています?

灰銀猫

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王族の誓い

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 セザール様とオレリア様が、アデライン様が贈った腕輪をはめたのを見届けると、アデライン様はにっこりと笑みを浮かべました。招待された王族の中でも最年少のアデライン様が相手となると、オレリア様も我を押し通す事は出来ないようです。セレン様にチラチラと視線を送りながらも、それ以上の事は出来ずにいました。

「皆様とお揃いの腕輪、とっても嬉しいですわ」
「え、ええ…」
「そうですね。ありがとうございます、アデライン様」
「いいえ、私、お姉さま達に憧れていましたの。ですからこうしてお揃いの物を身に付けられて、とても感激ですわ」

 無邪気にはしゃぐアデライン様の愛らしさに、周りにいる貴族たちも目元を緩めて微笑ましそうに見ています。すっかりこの場はアデライン様の独断場ですわね。

「そうだわ!セレン、貴方の国には腕輪におまじないをかける風習があるのですって?」

 アデライン様がパン!と手を合わせると、セレン様に向かってそう尋ねました。

「ええ、そうですね。お揃いのアクセサリーを身に付けて、誓いを立てる習慣がありますね」
「誓いを?」
「ええ、友人同士なら末永い友情を、恋人や夫婦なら永遠の愛を。私の国では王子や王女が王族としての誓いを立てていましたね」
「王族としての誓い?」
「ええ。王族として民に寄り添い、民のために尽くすと。私も王族の一人として、この身を民の幸せのために捧げると誓いを立てましたね」
「まぁ!セレン様の世界には素敵な習慣がありますのね!」
「ああ、それはいい習慣だな」

 セレン様の言葉に、アデライン様をはじめとしてジルベール様やマリアンヌ様が賛同していました。一方でセザール様とオレリア様は複雑な表情を浮かべています。彼らにとって民は自分たちに奉仕するものとの考えなので、セレン様の世界の考えが意に沿わないのでしょう。

「ねぇ、皆さま。せっかく同じ腕輪を身に付けたのですもの。私達も同じように誓いを立てません事?」

 アデライン様がいい事を思いついたと、目を輝かせてそう提案されました。

「まぁ、それは素敵ね」
「そうだな、セレン殿の世界は粋な事をされるのですね」

 ジルベール様とマリアンヌ様はすっかりやる気です。お二人はその言葉通り、民のために日々努力を重ねていらっしゃるので、その誓いは当然のものなのでしょう。
 一方でセザール様とオレリア様は微妙な表情です。心情的にはそんな誓いを立てたくないのでしょうが、それをはっきり拒否する事も憚られるのでしょう。場の雰囲気はすっかり誓いを立てる方向に向かっていて、回りの貴族たちも興味津々で王族の様子を見ているので、ここで否定的な事を言うのも気まずいでしょう。

「そうだね、それなら是非お願いしよう。セレン殿、いいだろうか?」
「ええ、構いませんよ」
「うふっ、素敵ですわ。フェローとバズレールの方々と一緒に、王族としての誓いを立てられるなんて。私、これからもっと頑張りますわ」
「アデライン様は素晴らしいですね。きっと立派な王女殿下におなりですわ」
「そうでしょうか?だったら嬉しいです」

 そうしている間にも、誓いを立てる方に話が進み、セレン様は何やら魔術を展開しました。

「私の世界の王族の誓いと同じでよろしいですか?」
「そうだね」
「それでは、腕輪をはめたまま、誓いの言葉をお一人ずつどうぞ」

 そうセレン様に促されて、王家の方々は順番にそれぞれの誓いを口にされました。ジルベール様とマリアンヌ様、アデライン様とオーブリー様、そしてジルベール様とオレリア様は、国と民のために身を賭して働くと誓いました。全員の誓いが終わると、魔法陣が一瞬眩しいほどに光を放ち、その光はそれぞれの腕輪へと吸い込まれていきました。

「あれ?腕輪が…?」
「どこに?」

 光を吸い込んだ王族の六人の腕輪は、いつの間にかその腕から消えていました。セレン様は術をかけた事で腕輪が身体と同化し、身に付けなくてもずっとその効力を持ち続けるのだと説明しました。

「じゃ、失くす心配がないわね」
「そうね。それに、目に見えなければ他の腕輪を身に付ける事も出来るし、これは便利だわ」

 アデライン様とマリアンヌ様が楽しそうに話しています。アデライン様の無邪気さのせいで、魔術がおまじないとして微笑ましい話でまとまりました。腕輪が見えないので、今の事は夢なのかと感じてしまいそうです。

 夜会も後半に入ると、まだ十五歳のアデライン様は程なくして退出されました。彼らがドアの向こうに消えると、早速オレリア様がセレン様の元にやってきました。先ほどからアデライン様がいたため、セレン様に話しかけられなかったのですよね。
しかもアデライン様がセレン様を呼び捨てにして親しく話をしているのを、険しい表情で見ていました。未成年のアデライン様にまで嫉妬するなんて、少々大人気ないと思ったのは私だけではないでしょう。

「セレン様!貴方は私の夫となる身ですわ。早く私の手を取りなさい」

 アデライン様達の登場で中断していた話を、オレリア様が再び蒸し返しました。このような人目のあるところで、妻のいる男性にそんな事を言うなんて…周りにいた貴族たちも何事かとこちらを見ています。

「おい、オレリア、この場ではよせ」
「まぁ、セザール様お兄様。だって、セレン様ったらずっとあの聖女崩れの女を側に置いているのですもの。彼は私の夫となるお方ですわ。その方に虫がつくなんて許し難いですわ」

 先ほどの王族の誓いはどこへやら…オレリア様はそんな事などすっかり忘れ、私を射殺さんばかりに憎々し気に睨みつけたのでした。


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