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晴れの日を迎えて
その日は前日から快晴で、晴れの日に最適な青空が広がっていた。私は今、ウェディングドレスを纏って花婿の迎えを控室で待っていた。
「まぁ、アン、綺麗よ」
「本当に、とってもお似合いだわ!」
「ようやくこの日が来たのね……」
エリーとグレース様、お祖母様が褒めてくれたウェディングドレスはオーリー様が考えたデザインで、リファールの伝統的なデザインを取り入れたそれは私にこの上なく似合っていた。鏡に映った自分が自分だと思えない。侍女たちに盛りに盛られた私はもはや別人だ。
「アンジェ、そろそろいいかな?」
そう言って迎えに来たオーリー様は、これまた私のお揃いのリファールの伝統を取り入れた正装で、とてもよく似合っていた。語彙が単調なのは緊張しているせいだろうか。でも、本当にオーリー様はかっこよかった。このまま残しておきたい程に。
「ああ、アンジェ、綺麗だ……」
蕩けるような甘い笑顔を更に蕩けさせてオーリー様に見つめられて、魂をもっていかれそうになった。近くにいた侍女たちまで真っ赤になっている。あんな笑顔は反則だ。
(私を昇天させる気ですか……!)
きっと私も赤くなっているだろう。ヴェールがあるのが幸いだ。それでなかったら恥ずかしくて人前に出られなかっただろう。
結婚式の会場は我が家の大ホールだ。その後の披露宴も同じ。ここでの式は領民たちの前で誓いを述べるし、場所が幾つもあるわけじゃないから披露宴も同じ場所だ。辺境はおおむね似たような感じだけど、衣装や披露宴の中身は領によってそれぞれだ。
我が家は今回、王子の婿入りと言うことでかなり盛大な式になった。というかそうせざるを得なかった。これはお祖母様の時も同じだけど、父の時は何も出来なかったので使用人や領民が張り切ったのだ。
ちなみに領内では十日前からお祭り騒ぎだったとか。娯楽の少ない田舎にとって、領主の結婚は一大イベントなのだ。しかも今回は隣国からちょっかいを出される不安がないだけに尚更だった。お陰でオーリー様の人気も物凄くて、あっという間に領民の心を掴んでいた。
婚約破棄して廃嫡された第一王子は、実は国王の極秘の命を受けて魅了事件の解決に奔走した。そう発表されてからは蔑む者もいなくなり、忠義の王子だともてはやされている。真実を知っているだけに複雑な心境だったりするのは内緒だ。
王家からはルシアン様ご夫妻が参列し、国内の主だった貴族が殆ど参加した。ベルクール公爵一派がいなくなって風通しがよくなり、派閥間の争いが沈静化したのも大きいだろう。お陰でルシアン様の即位の準備も順調で、オーリー様の婿入りが一層それを強固にしていた。式は滞りなく終わり、それと同時に私への爵位継承が発表された。
「さ、アンジェ。行こうか」
「はい、オーリー様」
式の後、私たちは屋敷のバルコニーに出た。バルコニーの前は広場になっていて、有事の際にはここに騎士が集まって走行式を行うけれど、今日は祝いに駆けつけてくれた領民たちが集っていた。彼らの前にオーリー様のエスコートで向かうと、これまでに聞いたこともない歓声が上がった。
「皆、アンジェの結婚と爵位継承を喜んでいるんだよ」
「え、ええ……」
バルコニーの端まで出ると、一層の喝さいを浴びた。眼下に広がるのはそれぞれに花を手にした領民たちの姿だった。私が手を振ると一層歓声がった。ここから見える顔には笑みが咲いていた。
(まだ、信じられない……)
父に代替わりしたら、ここから追い出されると思っていた。廃籍されて平民になったら治癒師としてどこかで静かに暮らそうと思っていたし、その準備も万全だった。なのに、私は今、辺境伯としてここにいる。
「リファール辺境伯、アンジェリク様」
不意にオーリー様が跪いて私の手を取った。咄嗟のことで何かと思っている私に、オーリー様が安心させるかのようににっこりと笑みを浮かべた。領民たちも何事かと思ったのだろう、歓声が止まった。
「我が主たる辺境伯アンジェリク様に、私オードリックの永遠の忠誠を。この身の全てをあなたと、このリファールに捧げると誓いましょう!」
張りのあるその声は、風に乗って朗々と響いた。暫くの間沈黙があって、その直後にこれまでにない歓声が上がった。
「アンジェリク様、万歳!」
「オードリック殿下、万歳!」
「我らがリファールに栄光あれ!」
一瞬にやっとした笑みを浮かべるとオードリック様は立ち上がって、私の横に並ぶと領民に向けて手を振った。
「死ぬまで離さないからね」
小声でそう言うとオーリー様はロイヤルスマイルを惜しみなく領民へと向けて手を振った。近くにいたルシアン様が苦笑し、お祖母様はやれやれといった表情を扇で隠した。咄嗟の言葉に私は頬に熱を持つのが止まらない。この演出もオーリー様の計算だったのだろう、民衆の熱狂は暫く止むことはなかった。
【完】
- - - - -
最後までお付き合い下さってありがとうございます。
「まぁ、アン、綺麗よ」
「本当に、とってもお似合いだわ!」
「ようやくこの日が来たのね……」
エリーとグレース様、お祖母様が褒めてくれたウェディングドレスはオーリー様が考えたデザインで、リファールの伝統的なデザインを取り入れたそれは私にこの上なく似合っていた。鏡に映った自分が自分だと思えない。侍女たちに盛りに盛られた私はもはや別人だ。
「アンジェ、そろそろいいかな?」
そう言って迎えに来たオーリー様は、これまた私のお揃いのリファールの伝統を取り入れた正装で、とてもよく似合っていた。語彙が単調なのは緊張しているせいだろうか。でも、本当にオーリー様はかっこよかった。このまま残しておきたい程に。
「ああ、アンジェ、綺麗だ……」
蕩けるような甘い笑顔を更に蕩けさせてオーリー様に見つめられて、魂をもっていかれそうになった。近くにいた侍女たちまで真っ赤になっている。あんな笑顔は反則だ。
(私を昇天させる気ですか……!)
きっと私も赤くなっているだろう。ヴェールがあるのが幸いだ。それでなかったら恥ずかしくて人前に出られなかっただろう。
結婚式の会場は我が家の大ホールだ。その後の披露宴も同じ。ここでの式は領民たちの前で誓いを述べるし、場所が幾つもあるわけじゃないから披露宴も同じ場所だ。辺境はおおむね似たような感じだけど、衣装や披露宴の中身は領によってそれぞれだ。
我が家は今回、王子の婿入りと言うことでかなり盛大な式になった。というかそうせざるを得なかった。これはお祖母様の時も同じだけど、父の時は何も出来なかったので使用人や領民が張り切ったのだ。
ちなみに領内では十日前からお祭り騒ぎだったとか。娯楽の少ない田舎にとって、領主の結婚は一大イベントなのだ。しかも今回は隣国からちょっかいを出される不安がないだけに尚更だった。お陰でオーリー様の人気も物凄くて、あっという間に領民の心を掴んでいた。
婚約破棄して廃嫡された第一王子は、実は国王の極秘の命を受けて魅了事件の解決に奔走した。そう発表されてからは蔑む者もいなくなり、忠義の王子だともてはやされている。真実を知っているだけに複雑な心境だったりするのは内緒だ。
王家からはルシアン様ご夫妻が参列し、国内の主だった貴族が殆ど参加した。ベルクール公爵一派がいなくなって風通しがよくなり、派閥間の争いが沈静化したのも大きいだろう。お陰でルシアン様の即位の準備も順調で、オーリー様の婿入りが一層それを強固にしていた。式は滞りなく終わり、それと同時に私への爵位継承が発表された。
「さ、アンジェ。行こうか」
「はい、オーリー様」
式の後、私たちは屋敷のバルコニーに出た。バルコニーの前は広場になっていて、有事の際にはここに騎士が集まって走行式を行うけれど、今日は祝いに駆けつけてくれた領民たちが集っていた。彼らの前にオーリー様のエスコートで向かうと、これまでに聞いたこともない歓声が上がった。
「皆、アンジェの結婚と爵位継承を喜んでいるんだよ」
「え、ええ……」
バルコニーの端まで出ると、一層の喝さいを浴びた。眼下に広がるのはそれぞれに花を手にした領民たちの姿だった。私が手を振ると一層歓声がった。ここから見える顔には笑みが咲いていた。
(まだ、信じられない……)
父に代替わりしたら、ここから追い出されると思っていた。廃籍されて平民になったら治癒師としてどこかで静かに暮らそうと思っていたし、その準備も万全だった。なのに、私は今、辺境伯としてここにいる。
「リファール辺境伯、アンジェリク様」
不意にオーリー様が跪いて私の手を取った。咄嗟のことで何かと思っている私に、オーリー様が安心させるかのようににっこりと笑みを浮かべた。領民たちも何事かと思ったのだろう、歓声が止まった。
「我が主たる辺境伯アンジェリク様に、私オードリックの永遠の忠誠を。この身の全てをあなたと、このリファールに捧げると誓いましょう!」
張りのあるその声は、風に乗って朗々と響いた。暫くの間沈黙があって、その直後にこれまでにない歓声が上がった。
「アンジェリク様、万歳!」
「オードリック殿下、万歳!」
「我らがリファールに栄光あれ!」
一瞬にやっとした笑みを浮かべるとオードリック様は立ち上がって、私の横に並ぶと領民に向けて手を振った。
「死ぬまで離さないからね」
小声でそう言うとオーリー様はロイヤルスマイルを惜しみなく領民へと向けて手を振った。近くにいたルシアン様が苦笑し、お祖母様はやれやれといった表情を扇で隠した。咄嗟の言葉に私は頬に熱を持つのが止まらない。この演出もオーリー様の計算だったのだろう、民衆の熱狂は暫く止むことはなかった。
【完】
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