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禁術
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(嘘、だろ…?)
傷の痛みに耐えながら、サラが間者を眠らせた事に安堵した俺は、次の瞬間、白く光ったエリアーヌ嬢の姿に驚愕した。あの光は術が発動した時に生じるものだ。
どうして彼女に術が発動したのか…その可能性は容易に想像出来た。俺は王家の影として裏の事情に通じていて、敵から常に狙われているが、その目的は二つある。一つは単純に邪魔だから消したいというもの。そしてもう一つは…俺から情報を得るためだ。それを回避するためにこの身に術返しを施しているのだが…それが今回は悪手になった。
確証はないが、先ほどの間者が俺かサラに術を掛けようとして、弾かれたのだ。もしその場にいたのが俺とサラだけなら何の問題もなかったが、今回はエリアーヌ嬢がいた。跳ね返した術が…ただ一人何の対策もしていない彼女に作用したのだろう。
間者を捕らえた後、エリアーヌ嬢に掛けられた術をサラと共に調べたところ、想った以上に厄介なものだとわかった。
「ボス、あの術は…」
「…ああ…」
あの術式は…特定の人物を己に従わせる時に使うもので、今では使用が禁止されている禁忌と呼ばれる類いのものだ。俺の身に掛けられている絶対恭順に似たこの術は非常に厄介で、解呪は不可、効果は命尽きるまでだろう。だからこそ禁忌としてその使用を禁じられている。そして、それ以上に問題がある。
「一体、誰の…」
この術の触媒は血だ。となると彼女はここにいる誰かの血を口にした事になる。その相手が誰か。それで対応が大きく変わるが…
「…ボス、でしょうね」
「……」
否定したかったが、サラの言う通りだった。俺やサラくらいの使い手であれば、その気配で誰の魔力かがわかってしまう。彼女の身から感じるのは、間違えようもない自分の気配だった。あの間者のものでなかったのが幸いだろうか。
この術は命じれば従わざるを得ないものだ。その力は絶対で逆らえない。本人の意思を無視して何度も無理な命令を繰り返せば、いずれ心が死に廃人になる。
「くそっ!どうして…こんな事に…」
そう思っても、今更取り返しがつかないのは明白だった。彼女との関係は一時的なものだ。彼女が狙われているから、その危険を払うまでは…と。目的を成した暁には王太子殿下が全てを明らかにして、この婚約も白紙に戻すつもりだった。なのに…
サラに傷を治して貰った俺は、翌朝王太子殿下の元に向かった。解呪の方法がないか、藁にも縋る思いで禁呪の書が置かれている宝書庫も調べたが、残念ながらその方法は見つからなかった。こうなったら、彼女を遠ざけるしかないだろう。物理的に離れてしまえば命じる事もない。なのに…
「今離れるのは得策じゃないだろう」
殿下の言葉は俺の想いに反するものだった。
「しかし、このままでは…」
「エリーが嫌がる事を命じなきゃいいんだろう?」
「それはそうですが…」
「だったら問題ないじゃないか」
確かにそうかもしれないが、本当に大丈夫なのだろうか…考え込む俺に王太子殿下は思いがけない事を告げた。
「それよりもアレク。エリーに命じるんだ」
「…何をです?」
警戒心から思わず低い声になってしまった。だが、何を命じろと言うんだ。まさか…
「アレクの出自だよ。あれは国家機密の中でも最重要案件だ。エリーが知っている事はまだ陛下達はご存じないが、知られれば厄介だ」
「それは…」
「迂闊だったな。エリーに話してしまったのは」
確かに殿下の言う通りだ。あの時は…何故か話してしまったが、後になってマズいと思っていたのだ。
「陛下に知られれば厄介だ。だがあの術で口外しないように命じたと言えば見逃してくれる筈だ。エリーのためにも早めに頼むよ」
「……御意」
出来れば命令などしたくはないが、こればかりは仕方がない。命じておかなければ彼女が消されてしまう可能性もあるのだ。全く、どうして話してしまったのか…今更とわかっていてもあの時の自分に後悔よりも怒りがこみ上げるばかりだった。
傷の痛みに耐えながら、サラが間者を眠らせた事に安堵した俺は、次の瞬間、白く光ったエリアーヌ嬢の姿に驚愕した。あの光は術が発動した時に生じるものだ。
どうして彼女に術が発動したのか…その可能性は容易に想像出来た。俺は王家の影として裏の事情に通じていて、敵から常に狙われているが、その目的は二つある。一つは単純に邪魔だから消したいというもの。そしてもう一つは…俺から情報を得るためだ。それを回避するためにこの身に術返しを施しているのだが…それが今回は悪手になった。
確証はないが、先ほどの間者が俺かサラに術を掛けようとして、弾かれたのだ。もしその場にいたのが俺とサラだけなら何の問題もなかったが、今回はエリアーヌ嬢がいた。跳ね返した術が…ただ一人何の対策もしていない彼女に作用したのだろう。
間者を捕らえた後、エリアーヌ嬢に掛けられた術をサラと共に調べたところ、想った以上に厄介なものだとわかった。
「ボス、あの術は…」
「…ああ…」
あの術式は…特定の人物を己に従わせる時に使うもので、今では使用が禁止されている禁忌と呼ばれる類いのものだ。俺の身に掛けられている絶対恭順に似たこの術は非常に厄介で、解呪は不可、効果は命尽きるまでだろう。だからこそ禁忌としてその使用を禁じられている。そして、それ以上に問題がある。
「一体、誰の…」
この術の触媒は血だ。となると彼女はここにいる誰かの血を口にした事になる。その相手が誰か。それで対応が大きく変わるが…
「…ボス、でしょうね」
「……」
否定したかったが、サラの言う通りだった。俺やサラくらいの使い手であれば、その気配で誰の魔力かがわかってしまう。彼女の身から感じるのは、間違えようもない自分の気配だった。あの間者のものでなかったのが幸いだろうか。
この術は命じれば従わざるを得ないものだ。その力は絶対で逆らえない。本人の意思を無視して何度も無理な命令を繰り返せば、いずれ心が死に廃人になる。
「くそっ!どうして…こんな事に…」
そう思っても、今更取り返しがつかないのは明白だった。彼女との関係は一時的なものだ。彼女が狙われているから、その危険を払うまでは…と。目的を成した暁には王太子殿下が全てを明らかにして、この婚約も白紙に戻すつもりだった。なのに…
サラに傷を治して貰った俺は、翌朝王太子殿下の元に向かった。解呪の方法がないか、藁にも縋る思いで禁呪の書が置かれている宝書庫も調べたが、残念ながらその方法は見つからなかった。こうなったら、彼女を遠ざけるしかないだろう。物理的に離れてしまえば命じる事もない。なのに…
「今離れるのは得策じゃないだろう」
殿下の言葉は俺の想いに反するものだった。
「しかし、このままでは…」
「エリーが嫌がる事を命じなきゃいいんだろう?」
「それはそうですが…」
「だったら問題ないじゃないか」
確かにそうかもしれないが、本当に大丈夫なのだろうか…考え込む俺に王太子殿下は思いがけない事を告げた。
「それよりもアレク。エリーに命じるんだ」
「…何をです?」
警戒心から思わず低い声になってしまった。だが、何を命じろと言うんだ。まさか…
「アレクの出自だよ。あれは国家機密の中でも最重要案件だ。エリーが知っている事はまだ陛下達はご存じないが、知られれば厄介だ」
「それは…」
「迂闊だったな。エリーに話してしまったのは」
確かに殿下の言う通りだ。あの時は…何故か話してしまったが、後になってマズいと思っていたのだ。
「陛下に知られれば厄介だ。だがあの術で口外しないように命じたと言えば見逃してくれる筈だ。エリーのためにも早めに頼むよ」
「……御意」
出来れば命令などしたくはないが、こればかりは仕方がない。命じておかなければ彼女が消されてしまう可能性もあるのだ。全く、どうして話してしまったのか…今更とわかっていてもあの時の自分に後悔よりも怒りがこみ上げるばかりだった。
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