【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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陛下の決断

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「皆の者、すまなかった」

 先王陛下達が連れ出されると、国王陛下が壇上で皆にそう告げて頭を下げた。国王たる者が臣下に頭を下げるなどあってはならない事なだけに、貴族達の方が動揺してしまった。

「へ、陛下…頭をお上げ下さい」

 宰相が皆の気持ちを代弁するかのようにそう告げると、陛下がようやく頭を上げた。その表情は苦しそうにも悲しそうにも見えたが、その理由は私などにはわからなかった。

「いや、私は王として力不足で、先王陛下の横暴を止めることが出来なかった」
「それは致し方ありますまい。あの者はまだ子供だった陛下に、ご両親の安全を盾にやりたい放題だったのです。それを言うなら、あの者を止められなかった我々臣下にも責任がございます」

 宰相様も事情は察していらっしゃったのだろうか。それでも、親の年代の先王陛下と前宰相を止めるのが難しい事は私でもわかった。父を葬り去ると言われれば、その身を案じて言いなりになるしかなかったのだろう。

 その後陛下は、これまでの経緯を説明された。
先王陛下はとある貴族の生まれだった。紫瞳を持っていたため、同じ時期に生まれた国王陛下の実父の影武者として引き取られたという。王家の血を引いていないため子が出来ない様に王家の秘毒を飲まされていたが、その事を知らなかった彼は自身の血を王家のそれと入れ替えようとしたという。それはもしかしたら王家への復讐だったのかもしれない。
 そんな先王陛下は、自身の子が出来ない事に苛立ち、紫瞳を持つ子を産んだ王妃様を襲ったと言う。実際は未遂に終わったが、その直後に王妃様の妊娠が判明したため、自身の子だと信じたのだろう。それがアリソン王女だった。だがそれは先々代の陛下のお子を引き取るための裏工作だった。
 アリソン王女が生まれた後、先王陛下は王太子殿下を廃しようと策謀し始めた。その手先がラドン伯一派だったのだ。

(じゃ…殿下や副団長は、最初から先王陛下を?)

 ラドン伯が黒幕だと思っていたけれど、本当は先王陛下を断罪するのが目的だったのだろうか。

(じゃ…私ってもしかして、先王陛下に狙われていたとか?)

 もしそうだったら副団長や殿下の態度も婚約を白紙にしたのも、ラドン伯達が逮捕されて先王陛下の手駒がなくなったからとなれば納得だ。

「王家の闇は私一人が背負おう。私は…王太子に王位を譲るつもりだ」
「陛下…! それは…!」
「王家は紫瞳を持て囃し過ぎた。だが、それで生まれたばかりの赤子をいなかった事にするのは天の理に反する。このような愚かな行為は私の代で終わりにしたいのだ」
「陛下…」

 宰相が陛下に退位を思い止まる様に試みたが、陛下の御意志は固かった。それはこれまでの苦汁の日々と、瞳の色のせいで起きた不幸を断ち切りたいと言う強い想いが見えたような気がした。

「アルフォンス陛下、この場に立ち会って下さって感謝申し上げる」
「いや、役に立てたなら幸いだ。私としても血の繋がった甥や姪がなかった事にされるのは納得出来んからな」

 そう、我が国の王族だけど、アルフォンス様にしてみれば王太子殿下も副団長も実の甥で、彼の国の王位継承権も持つのだ。こちらの都合で消されてはたまったものではないだろう。

「そして…ここに我が息子であるアレクサンドルの王籍の復帰を発表する。王太子の右腕となりその治世を支えて欲しい」
「微力ながら尽力いたします」

 副団長が陛下の御前に歩み出て、片膝を折ってそう答えるのを、私は不思議な気分で見ていた。ようやく彼が本来の立場に戻ったのだと言う安堵感と、もう決して手の届かない存在になったのだと言う寂寥感が胸を満たした。やはり…私達の道は交わる事はないのだ。
 子が出来なくても、何れは副団長も妻を娶るのだろう。子がいない夫婦は珍しくないし、養子を貰う事も可能だろう。上位貴族ではよくある事だ。

「よかったな、アレクサンドル。お前にも兄と同様、我が国の王位継承権を認めよう」
「アルフォンス陛下に感謝申し上げます」

 ああ、副団長はようやくその地位を取り戻したのだ。そして会場内の皆が驚きと戸惑いを抱きながらも、新たな王の誕生と、王籍を取り戻し大国の継承権を認められた副団長を祝福していた。王家の闇は国王陛下が背負って表舞台から去り、これからは王太子殿下を中心とした新しい王家に生まれ変わるのだろう。会場内を満たす割れんばかりの拍手に、私も手を叩きながら本当に失恋したのだと感じた。



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