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第55話『実力の底』
しおりを挟む「その月光ってやつはそんなやばいんですか? 何か学園の四天王で最強って言われてるらしいですけど」
舎弟さんが大騒ぎをして、風魔先輩が警告にくるほどだ。
どういう輩なのか俺は少し気になって訊ねてみた。
「あいつ、異常に身体が頑丈なんだよなぁ。トンファーでいくら殴っても全然効かなくてさ。仕舞いにはわたしのマイトンファーを奪い取って素手でボキボキに折りやがったんだ! アレ、お気に入りだったのに!」
鳥谷先輩は思い出して腹が立ったのか、プンスカと頬を膨らませて言う。
次に風魔先輩が目を閉じて回顧するように口を開く。
「私も彼奴と一度だけ対峙したことがあるが……決着は結局つかなかった。そもそも、あの男は本気で私に向かってこなかった。実力を測るかのように終始技を受け流されて――最後は飽きたと言って向こうがどこかへ行ってしまった。私も真の力を使っていなかったが、全力を尽くしても差が縮まるとは到底思えない感覚があったな」
真の力とはあの棒を刀にできる能力のことだろう。
いくら最強の不良相手でも、さすがに人間との喧嘩でポン刀は持ち出せないもんな。
「君も私を相手にしたときは随分と加減していたようだったが、彼奴もまた私に実力の底を見せることはなかった。月光の本当の実力は未知数だ。もし相見えることになったら、十分に気をつけて臨みたまえ」
風魔先輩がいつになくマジな感じで俺に言ってきた。
「あいつに絡まれたらわたしを呼べよ! いつだって仲間を集めて駆けつけてやるからな!」
「新庄サン! オレらは一蓮托生っすよ! 頼って下さいね!」
鳥谷先輩、舎弟さんも声をかけてくる。
何か、みんなして不安を煽ってきてない……?
いや、本人たちは俺の身を案じてるつもりなのかもしれないけど。
さっきまではまあ大丈夫やろって思ってたのに、あんまり言われるもんだから逆にちょっと心配になってきたぞ。
ちなみに花園のやつは一年生のときにワンパンで月光に沈められたらしい。
「鳥谷先輩たちはああ言ってたけど、あんたならきっと余裕でしょ?」
月光の話題が一段落して風魔先輩が帰った後、結城優紗が『自分はちゃんとわかってるから』とでも言いたげな言葉を耳打ちしてきた。
「何せ、あんたは勇者のあたしすら簡単に捻る魔王だもんね!」
「ああ……うん……」
フラグっぽくなりそうだからそういうことを言ってくるのはやめてほしいなぁ。
「なんなら、あたしが先に月光ってやつをやっつけてやろうかしら。魔王を倒したければあたしを倒してからにしろ! みたいな?」
ワハハと脳天気に笑う結城優紗を見て、まあ、確かに最強の不良っていっても宇宙人や悪魔を倒してきた俺が今さら恐れることはないよなと冷静に思った。
そういえば、江入さんは月光の話をしていた間もずっと部室に持ち込んだノートパソコンでユーチューブを見ていた。
画面に映っているのは3DCGの女の子が雑談をしている配信のアーカイブ。
この前はエンタメ寄りの本だったが、とうとう部室で活字を読まなくなったか……。
「これらの動く絵の畜生たちはなぜこうも人気なのか……非常に興味深い……」
熱心に見ながら、微妙に失礼っぽいことを呟いている。
畜生って、きっと褒め言葉ではないよね?
その界隈には詳しくないからよく知らんけど。
ちなみに江入さんといえばテストである。
力を取り戻してまたカンニング無双するのではないかと懸念されていた江入さんであったが、俺が途中で宇宙船を壊してしまったことで知識のデータを完全にはダウンロードできなかったらしく、結局彼女は今回もまた否応なしに自力でテストに臨むことになった。
宇宙パワーを使わない江入さんは間違いなく赤点を取ると思ったので、俺は同居人のよしみで勉強を見てやったのだが――
日本の義務教育で習う範囲がそもそも怪しかった江入さんに高校の学習内容を教え込むのは非常に難儀なことであった。しかし、どうにかこうにかヤマを張った要点部分だけを丸暗記させることには成功した。
睡眠時間を削っての突貫工事だったが、多分、赤点の回避くらいはできているはず。
というか、頼む、できていてくれ……!
自分の勉強もしながら夜中まで付き合った日々の苦労を無駄だったとは思いたくない。
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