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第一章
チンピラと徒手格闘1『平たい顔のビッチめ!』
しおりを挟む「ねー? やっぱりエルフ基準だと、あれくらいの回復魔法は当たり前にできちゃうもんなの?」
ギルドを出て歩いてしばらく、俺は馴れ馴れしい口調の女に話しかけられていた。
見ればルドルフ一派にいた女だった。
「にへへへっ」
ショートカットの茶髪を揺らし、八重歯を見せて少女は笑う。
こいつ、どの面下げて……。
なぜ追いかけてきたのか知らんが、こいつらのせいで俺のギルドデビューは最悪なものになったんだが?
むかつく笑顔だ。
こいつの属するクラスターを考えるとそういう感情しか沸かない。
「いやぁ、エルフのお兄さんはすごいねぇ。無詠唱であれだけの回復魔法は初めて見たよ」
「…………」
少女の格好はチューブトップとベストを羽織っただけ。スカートもうっかりすると下着が見えてしまいそうな短さ。
腹巻みたいな面積の服を着やがって。
慎ましい女性が多いエルフ里では絶対に見られない破廉恥な軽装である。
「……どうしてついてくるんだよ。仲間のところに帰って酒でも飲んでろよ」
「それでもいいんだけどね? ちょいーっと、お兄さんに個人的な興味が出ちゃってさ。ルドルフと同じくらい……ううん、それ以上の回復魔法なんてそう見ないからさぁ」
俺の迷惑そうな態度を汲み取らず、少女は軽いノリを崩さない。
それどころか品定めするような上目遣いで俺を見つめてくる。
エルフと比べると平べったく感じるが、人間にしては目鼻立ちのハッキリした端正な顔立ちだった。
きっと人間基準では結構な美人に入るのだろう。エルフ規格では及第点くらい。
彼女はくすんだ金髪に俺を監視するよう命令されたのか?
それとも田舎の男をからかってやろうというビッチ精神に基づく行動なのか?
彼女の腹の内側を推察するが、現時点で真意はまだ推し量れない。
「ルドルフっていうのはあの金髪野郎のことだろ? あのチンピラ、魔法を使えるのか?」
このまま邪険に追い払ってもいいのだが、今後また連中に絡まれないとも限らない。
俺は探りを入れて少女からくすんだ金髪についていろいろ聞き出してみることにした。
「ああ見えてルドルフは魔法の才能に関しては相当なもんだよ。おまけにいいところの坊ちゃんだから割と上等な教育を受けてるみたいだね」
「ふーん、あいつが魔法をねぇ……」
エルフは誰もが当たり前のように魔法が使える。
だが人間では一部の者に限られていて、魔力の素養があればそれだけで身を立てられるほど貴重な才だと聞かされていた。
だから、当たり屋のような真似をしているチンピラ紛いのあの男も人間社会では才能あるエリートということになる。
納得がいかないぜ。
「じゃあ仕込みの仲間の怪我もあいつは魔法で治せたのか?」
「まあ、そういうことだね。慰謝料を請求して後からルドルフが元通りに治療する。いつもの初心者狩りの手口だよ」
結構搾り取れるんだよ、と悪びれもせず少女は言う。
隠すこともしないのはいっそ清々しい。はり倒したくなるけどな。
どうりで仲間の怪我にも動揺が少なかったわけだ。
その気になればすぐ治せるのだから焦る必要なんかない。
元の世界にいた当たり屋よりもたちが悪い。本当にくたばればいいのにと思った。
「でもお兄さんはエルフなのにすごい力持ちだよね? 足首をへし折るなんてなかなかできることじゃないよ。あ、それとも身体強化の魔法が得意とか?」
やたらと積極的に話しかけて絡んでくる少女。
エルフの男は里の外でモテる法則が発動中なのか?
いや、だがファーストコンタクト的にその可能性は限りなく低く思えるが……。
「今回は壺を取り落としたお兄さんから弁償代をむしり取るだけの楽な作戦だったのにさ。お兄さんが力持ちだったせいでいつもの作戦に路線変更しなくちゃいけなくなって調整が大変だったんだから」
そんなん知るかァ!
この女、ぺらぺらと裏事情を喋ってくるが、包み隠さず語れば帳消しになると思っているのか?
カラッとした調子で話してくる態度には違和感しか覚えない。悪事を語るときのテンションじゃねえだろこれ……。
こいつと話しているとモラルが何なのかわからなくなる。思考回路が汚染されていくような気がする。
エルフの大人たちよ、社会経験ってこういうことだったの?
もうわけがわからんよ……。
頭痛がしかけた俺は歩くスピードを上げて少女を引き離すことにした。
もっといろいろ聞き出してもいいんだが、体調に異変をきたしそうなのでギブアップだ。
「あ、待ってよ、お兄さぁん」
少女は駆け足で追いついてきて俺の腕を掴む。
ええい、触れるな。平たい顔のビッチめ! 体つきは平たくないけど。
「お兄さん。このままだとギルドで仕事するの大変なんじゃない? あそこのトップはルドルフの実家にビビってるからだいぶ厳しい感じになると思うよ?」
手を払いのけようとした俺に平たいビッチは揺さぶるような台詞を放ってくる。
「あたしに付き合ってくれたらルドルフに手打ちにしてあげるよう口利きしてあげてもいいんだけどなぁ?」
「…………」
この女、人の足元を見るような真似を……。
「お前らは信用ならん」
俺はペシッと少女の手を叩き落とす。
「えぇ!?」
悪女だと直感した俺の勘は間違っていなかった。流石だと自分を褒めてやりたい。
「ど、どうして? このまんまじゃお兄さん、まともに働けないよ? わたしの提案に乗ったほうが絶対に得だって――」
「知ったことか」
損得よりも自分の提案は断られないだろうという彼女の上から目線の態度が気に食わなかった。
舐め腐った長いものに巻かれる生き方は俺のトラック道には存在しない。
長いものが巻き付いてくるのなら、どこまでも走り抜けて断ち切るのが真のトラックというものだ。
「いやいや、そんなこと言わずにね? ほら、着いてきてくれたらいいことあるよ?」
俺が拒絶の意志を明確に示すと少女の余裕に綻びが見え始める。
「いや、ほんと冗談じゃなくて。お願いだから一緒に来てよぉ! なんでもするから! ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからぁ!」
少女はなりふり構わず腰にしがみついて俺を引き留めようとしてくる。気取っていた態度も形無しだ。
うーん、この優位な立場からしか強気に出られない小物具合。
だが俺は歩くことをやめない。これくらいで俺を足止めできると思うてか?
なんなら引きずったまま何キロだって走り抜けられるぜ? 多分、お前が先に根負けして振り落とされるのが早いぜ?
俺は縋りつく少女を腰にくっつけたまま町中を闊歩することにした。
実は誰かを乗せている重量感に過去を思い出して落ち着きと据わりの良さを感じていたのは内緒だ。
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