33 / 126
第一章
領主と奴隷2『俺の沽券にかかわることだ。』
しおりを挟む「このたわけッ! お前のようなうつけを探すためにお嬢様がこんなところまで来るか! 自惚れるな!」
女騎士が横から激烈に怒鳴った。主である御令嬢よりもルドルフに手厳しかった。
つーか、こんなところって。そこを治めてるおっさんが目の前にいるんだから少しは気を遣ってやれよ。
領主のおっさん、心を守るために遠い目をして必死に聞かなかったことにしてるぞ。
「まあまあ。エヴィ、そんなに大きな声を出さずともいいじゃないですか」
御令嬢は柔和な言葉で女騎士を嗜める。そしてそのままルドルフのほうに向き直り、
「ルドルフさんのことは道中で見つけたらついでに頼むとあなたのお父様に言われただけですよ。本来の目的は別にありますのでご安心ください」
「こ、このオレ様がついでだとぉ……?」
「プッ」
「笑ってんじゃねえよ!」
思わず噴き出してしまった俺にルドルフが肩パンを入れてくる。当然俺は痛くもかゆくもない。ルドルフが無駄に拳を痛めただけであった。
学習をしない男である。
「それで、あの……あなたは……」
御令嬢が遠慮がちに呟いて俺に目線を寄越してきた。
うむ、俺が何者かということだな。手筈通り、不本意だがルドルフの友人という設定で行くとしよう。
「ええと、俺は――」
…………!?
よく見ると御令嬢陣営の視線が俺に一斉に集まっていた。なんか無言ですごい見られていた。三人ともすごいこっちを見ていた。
誰しもが『なにやってんのこいつ……』という感じの目をしていた。
……これ、明らかに正体ばれてるよね。言っていいのか迷っている雰囲気だもん。
そりゃフードでちょっと顔と耳が隠れたくらいならわかるよなぁ。
まったくもって、御令嬢たちへの対策を忘れていた。領主にエルフだとバレなければいいとだけ考えていたが迂闊だった。
なぜ御令嬢の名前を出さずにルドルフと一緒に来たのか。どうしてこんな時間まで訪れなかったのか。
向こうさんからすれば不審極まりない展開のオンパレードである。
グレン、愚かなり。やってしまった。どうしよう。
「初めまして! 僕はルドルフ君のお友達のブラックタイガーといいます!」
何も聞き出せていないまま領主に正体を知られるわけにはいかない。
誤魔化すため俺は咄嗟にトラック時代の旧名を名乗った。屈辱を堪えてルドルフの友人であると詐称した。
彼女が領主とグルでなければ乗ってくれるはずだ。俺が種族と素性をこの場で公開されたくない事情があるのだと。
グルじゃなくても悟ってくれなかったらアウトだけど。
「えっ、ルドルフさんの……? そうですか……。ならば初めましてですね。ブラックタイガー様」
御令嬢は俺の意図を読み取って茶番に付き合ってくれた。ほっと一安心。見た目に相当する聡明な頭脳だ。
ルドルフとの関係について驚いていたようなので後に訂正を入れないといけないな。俺の沽券にかかわることだ。
「ところで領主様、大切なご相談があると言っておりましたが、彼らも一緒でよろしいので?」
御令嬢が領主に訊ねる。ふむ、領主が大事な話を始めようとしていたところに俺たちが来訪してしまったのか。
「まあ、構わないでしょう。……ルドルフ君も実際に見ればまた違う意見をだしてくれるかもしれんしな」
意見とはなんのことだろう。独り言のようにつけたした言葉に俺含め、ルドルフや御令嬢も疑問符を浮かべる。
「ジンジャー、こっちへおいで」
領主が手を叩くと部屋の隅に控えていた一人のメイドが前に出てきた。メイドの首には奴隷の証である首輪が嵌められていた。
メイドが頭に被っていたヴェールを脱ぐ。
領主以外の全員がハッと息を呑んだ。
ふわふわな亜麻色のロングヘアー。陶器のようにきめ細かい白い肌。
――そして種族の特徴を司る尖った耳。
メイドはフランス人形を彷彿とさせる可愛らしい容貌をしたエルフだった。
領主に促されたメイドは無言で会釈をする。
俺はそいつの顔に見覚えがあった。だが、そいつは俺と視線が合ってもまるで動じることはなかった。
大きなブルーの瞳は感情を失ったように光をなくしていた。
一体どんな目に合えばこんな人形みたいな空虚な表情をするようになるのだ。
「……知ってるやつか?」
俺の反応を見てルドルフがひっそりと訊ねてきた。
「ああ……」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化!
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる