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第二章
幼女と出立2『リリンのくせに生意気だ。』
しおりを挟むそれにしても奴隷商人はどういう意図があって奴隷たちをこんなところに放置したのだろう。
まだ確定したわけではないが、彼女らはニッサンの町の奴隷商から連れ出された非合法の奴隷で間違いないはずだ。
証拠品であり、商品でもある彼女らを監視もつけずほったらかしとは。
証拠隠滅のために捨てて行ったにしてもお粗末すぎる。
確かに自由に動けなかった奴隷たちはかなり衰弱していた。あと一日、発見が遅れていたら危なかったかもしれない。
だが、確実に処分しなければ意味がない。現にこうやって俺が見つけてしまった。これまで実在する痕跡を一切残さずにやってきた連中にしては杜撰すぎるやり方だ。考えられるのは何か想定外のアクシデントが起こり、それどころではなかったということだが……。
「おにーさん、何か考えごとしてるの?」
頭を整理するのにちょうどいいタイミングでリリンが話しかけてきた。
こいつとのコミュニケーションもだいぶスムーズになってきた。
最初の出会いからは考えられない進歩だ。
「いや、この馬車の持ち主は積み荷を置いてどこへ行ったのかって思ってさ」
「ひょっとして、キメラに襲われたとか?」
「キメラって今探してるやつか? なぜそう思うんだ?」
「だってキメラって罪を犯した人間の肉を好んで食べる習性があるっていうじゃん? あくまで噂だけど」
「キメラが? なんだその話は」
もしかしてこいつって案外物知りなの?
は、一般常識? 俺が無知なだけだと?
そんなわけあるか。きっとエルフには伝わっていない話なんだよ。
そう言ったら白い目で見られた。リリンのくせに生意気だ。
「この馬車の人たちっていわゆる悪人だったんでしょ? だからありえない話じゃないと思うんだよね」
どうやらキメラというのはかつて国の治安維持や罪人の処刑に用いるために作られたものだったらしい。
役割を円滑に果たすため、キメラには罪人の匂いを嗅ぎ分ける能力が備えられ、さらにその匂いで食欲が増進する本能を植え付けられているのだとか。
「小さい頃はよく悪い子だとキメラに食われるぞーって怒られたりしたもんだよ」
日本でいうナマハゲみたいなもんか? キメラって民間伝承なの?
……話半分に聞いておくとして。実際のところ、どうなんだろ。
悪人を食わせるという発想で作られた生物というのはぞっとしない話だが、現状と照らし合わせると可能性は無きにしも非ず。
罪深き商人たちはキメラに食われ、奴隷は悪人ではないから見逃された……。
でも悪人だけを都合よく狙うならギルドで討伐隊なんか組む必要ないよな。あ、手を付けられないから処分されたんだっけ。
キメラの生態系とか知らんしな。領主は詳しかったりするだろうか。
あのおっさんは一応貴族だし、町娘のリリンより深い知識を持っているかもしれん。
帰ったら奴隷たちを預けるついでに訊いてみるか。
俺はコロコロ馬車を引っ張りながら考えた。
森の出口、街道にでそうなところまであと少し。
結局、キメラについては何も掴めなかったな。
鳴き声が聞こえた場所を伝えるだけでも一応報酬はもらえるらしいが……。
そんなんでいいのか? まあ、ギルドへの対応はリリンに任せるとしよう。
「おや……?」
ふと、俺は森の空気が変わったことに気が付き立ち止まった。
エルフ特有の森に対する嗅覚っていうのかな。
他の連中よりは鈍いが、俺にもそういう直感のようなものが備わっているのだ。
――ガサガサ
――メキメキ
『ギィギィ……!!』
『ガァガァ……!!』
森の奥から木々が揺れたり折れたりする音が響く。
次いで、魔物の逃げ惑う声があちこちから聞こえた。
森が不穏な空気を発している。
経験上、こういうときは森のヌシが行動を起こしている場合が多い。
「なに!? キメラがきたの!?」
「…………」
俺は立ち止まって音のする方角を眺めた。
喧噪が徐々にこちらへ近づいているような……?
まさか、キメラとご対面か?
しっかり準備しないと倒せないらしい化け物を二人で相手にしないといけないのか?
俺はごくりと唾を嚥下する。
――がさがさっ
そして、茂みから森道に小さな影がひとつ飛び出してくる。
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