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第二章
精霊と決着4『スピリチュアル・バレット』
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俺とラッセルはフィールドに二人で向かい合って立っていた。
歓声も再び沸いて、いい具合で場は温まっている。
「本当によかったのかい? あのままなら君たちの勝利で終わっていたはずだ」
「俺たちは形だけの勝利が欲しいわけじゃない。あんな勝ち方じゃ意味がないんだよ」
独断で決めたのはちょっと横暴だったかもしれんけど。
ラルキエリや女教師、ポーンたちも事後承諾で賛成してくれたから問題ない。
「お前こそ、えらく負けを許容してるじゃないか」
「我々に非があったのだから甘んじて受け入れるのは当然だろう。君たちの戦い方には思うところがたくさんあるが、審判が認めた以上は正攻法と見做すしかない。だが、階級を使った負けの強要は明確なルール違反だ」
ほう、意外と殊勝な考え方をしているんだな。
ちょっとだけやつの認識を改めてやる必要があるようだ。
「さて、真剣勝負なら手加減は一切しないぞ? こちらは負けるはずのところから勝ちを拾わせてもらえるので助かるが……今ならまだ取り消しを認めてもいい」
ラッセルは舐めているのではなく、俺たちのために言っているのだろう。
だが、そこは余計な世話ってやつだ。
「俺はお前を倒して勝利を掴み取る。悪いが、お前には実力で負けたという事実を大衆の前で晒してもらう」
「ふっ、大層な自信だ。けど、そうか、ならば何も言うまいよ……せめていい勝負ができることを祈るとしよう」
どことなく楽しそうにラッセルは言う。
「そういえば、まだ君の名前を訊いてなかったね。よければ教えてもらえないか?」
「俺はトラック……エルフのグレンだ」
おっといけない、また間違えた。
「そうか、トラックエルフか……君は新種のエルフだったのだな……」
ラッセルが得心顔で頷いた。やれやれ、今回も誤って覚えられちまったか。
「では、僕も改めて名乗ろう。僕はラッセル・マーサカリィ! マーサカリィ侯爵家の長男にして、数多の上級精霊から祝福を授かりし者!」
大仰な言い方でラッセルは俺に名乗った。
ラッセル・マーサカリィ、精霊の祝福を受けた男。
……って、ラッセルの家って侯爵かよ。
上から二番目くらいにすごいんじゃなかったっけ?
テックアート家の名前出さなくてよかったわ……。
レグル嬢の家は伯爵だもんな。危うく迷惑かけるところだったぜ。
審判の合図が告げられ、試合が開始する。
『精霊から祝福を受けた彼の精霊魔法は他の魔導士の魔法とは性質が違う。いくら君がエルフとはいえ、油断は絶対にするのではないのだよ?』
直前でラルキエリに言われた注意を思い出す。
油断するな……か。
一体どうすれば油断してないことになるのだろう。
俺が逡巡していると『何やってるのだよ!?』とラルキエリが悲鳴に近い声で叫んでいた。
何って、ちゃんと油断しない方法をだな……。
「精霊たちよ! 僕に力を!」
前を見ると、ラッセルがすでに詠唱を終えて魔法を放つ準備を整えていた。
うむ、早い。今までのやつらとは格が違う。
先手を取られてしまったか。油断する暇もなかったな!
「僕の魔導士の誇りにかけて、君を正しき道に導いてやろう……」
ラッセルは不敵に微笑みながら俺に杖を向けてくる。
この澄み切った魔力の質は……。確かにルドルフや他の魔導士たちのものとは全然違う。
さて、どんな魔法を使ってくるのだろう?
「『スピリチュアル・バレット』」
カッ! ラッセルの指先から眩い光球が発射され――ぽしゅんっ。
「…………?」
ラッセルの魔法は俺にぶつかる直前で消失した。
なんだよこれ。期待させておいて。身構えてたのに届いてすらこないじゃねえか。
「あれ? 精霊たちよ、なぜだ!? ……は? なんだと? やつは女神様の……!?」
ラッセルが一人でなんか言っている。
精霊の声は俺に聞こえんのでラッセルが取り乱している理由は不明だ。
「そ、そんなになのか……? では彼は……だが、今は勝負中であってだね……」
何かしらのトラブルがあったことは間違いなさそうだが。
ふーむ……。
待っていてもラッセルは狼狽えているだけ。手を出してくる気配はまったくない。
これ以上は時間の無駄か。
「そっちがこないならこっちからいくぞ?」
「わっ、ちょっと! ま、待ってくれ! 少しだけ精霊と話す時間を――」
「問答無用!」
ウォーターバレット! ドバァ――ッ! ザバーンッ!
「う、うわああああああ――っ! ぴぎゃっ!」
俺のかなり手加減したウォーターバレットはラッセルをフィールド上から吹き飛ばし、そのままの勢いで観客席手前のフェンスに叩きつけた。
「馬鹿な……こ、この僕が――こ、これが女神様に選ばれた者の力……素晴らしい……」
フェンスにめり込んだラッセルは最後に何か呟き、ガクリと気絶した。
ちょっとあっさりすぎたか。もっと苦戦したほうが演出としてはよかったかも。
「俺の勝ちだよな?」
「えっ、あっ!」
茫然としていた審判に確認を取ると、慌てて俺の勝利を告げる。
それに合わせて俺は拳をぐっと掲げた。
会場は大いに盛り上が――
『…………』
『…………』
『…………』
客席は静まり返ったままだった。おい、ちゃんと勝ったんだが?
もっとこう、湧き立ったりしないの?
「うわぁ? すごいんだよぅ!?」
「いや、圧勝しすぎなのだよ?」
「あの寵児を一撃とは驚きなのですよ……!」
ラルキエリたちのほうを見ても無邪気に喜んでいるのは女教師だけだった。
おかしい……納得がいかん。何はともあれ。
こうして俺たちはラッセル一派に勝利した。
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