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『領地経営』編
第76話『アンナ』
しおりを挟む「りょーしゅさまー」
とてとてっ。ぼふっ。
デルフィーヌと話していたら背後から腰のあたりに小さい生き物が抱き着いてきた。
腰から下に決まった良質なタックル。
何者の仕業だ?
「おや、お前は……」
「おひさしぶりです、りょうしゅさま」
そこにいたのは俺が領地に来た日に病気を治した幼女だった。
名前はえーと。
記憶にない……。
「あらあら、アンナはジローが大好きなのね」
デルフィーヌが微笑ましそうに言った。
そうそう、アンナだったわ。
これからはちゃんと覚えておこう。
「アンナは子供たちのなかでも特に才能があるのよ。この子の水魔法と回復魔法は相当高いレベルまで行くんじゃないかしら?」
「ほう、アンナは頑張ってるんだな」
「はい、はやく命の恩人であるりょうしゅさまの役にたちたいですから」
へえ、嬉しいこと言ってくれるね。
ところで、俺はおじさんじゃないよね?
意識がはっきりしてる今ならわかるだろう?
別に改めて訊いたりしないけど。
訊かないのは答えが怖いからじゃない。
こだわってないからだよ。
「あと、あそこにいる子たちもアンナに負けず劣らずの素質を持っているわ」
デルフィーヌが示したのは部屋の隅に集まって円陣を組んでいる4~5人の少年少女。
あの面子はベルナデットが会うたびにいろいろ吹き込んでたキッズどもだな。
手を合わせて瞑想しているが神にでも祈ってるのか?
「じろーさまにしゅくふくを……」
「じろーさまにえいこうを……」
「じろーさまに……」
「じろーさまに……」
「じろーさまに……」
ブツブツブツブツ。
…………。
祈られてるの、俺ぇ――っ!?
「「「「「あっ、じろーさまっ!」」」」」
うわ、見つかった! ヤバい! 具体的に何がヤバいのかは知らないが。
とにかく逃げたほうがいいと俺の第六感が言っていた。
「は、早く立ち去らなくては……!」
「え? ジロー、帰っちゃうの? 相談したいことがあったんだけど……」
「すまん、デルフィーヌ。話は屋敷に帰ってから聞く」
「りょうしゅさま、もういってしまわれるのですか?」
「ああ、ほとぼりが冷めたらまた来るからな」
引っ付いてきたアンナを引き離し、俺は素早く教会を後にした。
さて、次は最近できた宿屋の様子でも見に行くか
本音を言うと子供たちの魔法をもう少しチェックしたかったが。
ベルナデットの啓蒙が意外と進んでたから仕方ない。
ああいうのは自重するよう注意したほうがいいのだろうか?
けど、ベルナデットなりに思いついたコミュニケーションの形なのかもしれないし。
共通の話題で友達ができたっぽいのに止めさせるのはなんだか気が引ける。
うーん、どうすっかな……。
まあ、子供のやってることだ。
そのうち飽きて他の新しい遊びを見つけるだろう。
そう結論を出した俺は優しく見守る選択肢をチョイスした。
ここで止めさせておけば……。
そう思う日が来たり来なかったりするのは――また別の話である。
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