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『領地経営』編
第77話『タンクトップ男』
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宿屋に着いた。
転移スキルを使えばすぐだけど、あえてテクテク歩いて行ったよ。
町を見て回って領民の暮らしぶりを把握しておくことも大切だからね。
おかげで知り合いが増えてきてるぜ。
「これは領主様! おはようございます!」
宿屋に入るとムキムキの暑苦しいタンクトップ男が出迎えてきた。
ニコルコで宿屋を営むため王都から移住してきたトーマス氏である。
「領主様、いつもお世話になっております」
垂れ目に泣きほくろの美女でトーマス氏の妻、シンディ夫人も続いて奥から出てきた。
二人はもともと王都の高級宿で働いていたのだが、そろそろ二人で独立して宿を始めようと考えていたらしい。
なかなか決断できずにいたところ、偶然にも俺の出した求人に目が留まり、そこでビビッときて応募してきたとかなんとか。
まあ、彼らの事情を語る必要性は特にないんだが。
宿屋の外装は俺のスキルで作り、内装はジゼルの連れてきた職人にやってもらった。
そうすると期間とコストが軽減できていいのよ。
初めのうちはそうやってどんどん新しい家を効率重視で作っていくつもりだ。
ちなみに『田舎に白い家を建てて宿屋を営むのが夢だったんです!』という夫妻の希望に沿って真っ白な壁と屋根にしてあげたんだけど……。
白って古くなったら汚れが目立ってくると思うんだよね。
色褪せた宿の壁が数年後の夫婦関係に亀裂を及ぼさないか気がかりである。
「で、どうだ? 宿屋の調子は? こっちの生活には慣れたか?」
「はい! お陰様で経営は順調です! 食べ物も美味しいですし、町も綺麗ですし、とても暮らしやすい町です!」
せやろ? うんこが落ちてないのはやっぱりいいよな。
他の町も片づければいいのにね。
とりあえず上手くいってるなら何よりだ。
王都の高級宿で働いていた二人の接客なら心配はいらないだろう。
水道が整備されたら真っ先にシャワーを設置する予定もあるし。
宿泊施設の充実は領地の発展に必須だからな。
ただの通過地点ではなく来訪者を引き留めて商業都市のようにしていきたいからさ。
投資と思って初めのうちは手厚くフォローしていこうと思う。
あんま介入しすぎると商売っ気がなくなりそうだから注意しないといけないけど。
「領主様のご期待に沿えるよう、夫婦二人で精一杯切り盛りしていく所存です!」
トーマス氏は期待されるほどモチベーションを上げるタイプの人間だから心配ないだろう。
「これから何十年とニコルコで宿を続けてもらうんだ。途中で息切れをしないようにな?」
「そ、そのような先まで私どもを……! ありがたいお言葉ァに! むごおおお――ッ!」
トーマス氏は顔を大きく歪めて泣き崩れた。
妻のシンディさんも貰い泣きで鼻をすすっている。
おいおい……大丈夫かこいつら……。
「あっ、そうそう! 実はニコルコに来てから私の料理の腕が上がっているんです! 食材がいいからなんですかね? もしよかったら何か食べて行かれませんか!?」
ガバッと顔を上げて大胸筋をドラミングしながら笑顔で誘ってくるトーマス氏。
なんやねんその動き。
表情のアップダウンが激しいぜ。
「じゃ……何か食っていこうかな……」
ここにも急成長している者がいたか……。
そろそろすっとぼけるのも限界かもしれないと思いました。
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