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『領地経営』編
第88話『ギルドマスターを務める予定の者』
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今日は何をしようかね。
あ、ジャードが来た。
「ヒョロイカ卿、冒険者ギルドの方が来ていますので面会して下さい」
「は?」
こいつはいきなり何を言ってるんだ? 冒険者ギルドとか久々に聞いたぞ。
「どうして冒険者ギルドの人間が来てるんだ?」
もしかして懸賞金とか諸々を払いすぎてヤバいから返してくれってわけじゃねえよな?
「違います。ニコルコにも冒険者ギルドの支部を置くことが決まったので、我が領でギルドマスターを務める予定の者が挨拶に訪れているのです」
「えっ、冒険者ギルド? ニコルコにもできるの?」
「ヒョロイカ卿が仰ったのではないですか。ニコルコにも冒険者ギルドを誘致したいと」
俺、そんなこと言ったか?
うーん、前にちらっと考えた気もしないではない……が……。
それ、こいつに話したっけ?
なんか怖いからスルーしておこう。
どうやらジャードはニコルコにギルドを置いた際に見込める利益率などをレポートにして冒険者ギルドへ送っていたらしい。
地道に書面で交渉を重ね、視察に来た関係者と協議を繰り返し、先日ようやく認可が下りたのだとか。
いや、そんなことやってるの全然知らなかったんだけど……。
いつの間にやってたのさマジで。
けど、特に指示を出さなくても仕事してくれるとか素敵な部下だね。
不労所得者になった気分。
ちょっと意味が違うか?
領地経営の専門部分はこいつに任せて正解だったわ。
俺じゃこういうのはできなかったもんな。
ほんと、さっさと内政官にしといてよかったぜ!
冒険者ギルドの人間がいる部屋にジャードと移動する。
「そういえば、先方はヒョロイカ卿のことをご存じのようでしたよ」
「え? 俺のことを?」
ギルドの職員で俺を知ってる可能性があるのはウレアの街にいたやつらくらいだけど。
こっちは職員の名前と顔なんてほとんど覚えてないからどうしよう……。
ガチャ。
「ヒョロイカ、久しぶりだな……」
部屋で待っていたのは俺が名前と顔を覚えている数少ない意外な人物だった。
ウレアの街で魔王と互角に戦った男と呼ばれていたAランクの冒険者。
筋骨隆々の偉丈夫、鋼鉄のバルバトスであった。
「えっ、ギルドの人ってバルバトスだったの?」
彼は俺が冒険者ギルドに入った際、飛び級のランクアップによるやっかみで余計なトラブルが起きないようさり気なく手を打ってくれたいいやつだ。
見た目は無愛想で強面な感じだけどね。
「ああ、魔王スザクが倒されてオレの冒険者としての区切りはついたと思ってな……。あの戦いの後で引退を決めたのだ……」
そうか、ギルドの職員ということは冒険者を引退したってことか……。
バルバトスは魔王に仲間を殺された過去を持っていて、敵討ちを目標にしていた。
けど、俺があっさり倒しちゃったんだよね。
そこら辺も絡んでモチベーションが維持できなくなってしまったのか?
じゃあ、引退は俺が原因の一端であったりもする?
うわ、どないしよ。
いや、気にしても仕方ないことだけど。
「しかし、バルバトスがギルドマスターとしてニコルコの領地にくるとは驚いたなぁ」
「本当は一般の職員を希望していたんだけどな……」
バルバトスは引退を決めて休養期間を挟んだ後、ニコルコのギルド職員の求人を見つけて応募をしたらしい。
すると高名な冒険者であるバルバトスが職員になるならそれなりのポストを用意すべきという声が各所から上がり、気が付けばマスターの座に祭り上げられていたのだとか。
「さすがに断ろうと思ったのだが……オレの話す速度では口を挟めなくて……」
あなた、やたら『……』を入れてゆっくり喋りますもんね。
寡黙な男というのは周囲が遠慮なく踏み込んできたら単なる口下手にしかならない。
畳みかけるように話を進められてどうしようもなくなっている彼の姿が容易く目に浮かんだ。
「正直、事務仕事には自信がなくて困っているのだ……」
ま、バルバトスに期待されてるのは広告塔とか象徴みたいなもんでしょ。
深く考えず、どっしり構えてればいいと思うよ?
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