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『勇者伝』編
第133話『野村陸』
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今日はバルバトスが屋敷に客として来ている。
何か用事があるのかもしれないが、口下手なバルバトスは何も切り出してこない。
そういうわけだから酒瓶とツマミを出した。
明るい内から執務室でニホンシュ注いでカンパーイ。
酒を飲み交わしながら、俺はバルバトスから他国の勇者の動向を聞いていた。
冒険者ギルドっていろいろと情報が入ってくるらしいから助かる。
「ふむふむ、なるほど……」
まず、ミエルダ王国の勇者。
ヤリチン大学生は最近、魔王軍幹部の一人を倒したらしい。
だが、現在は激戦の疲れもあって静養期間に入っているそうだ。
次にスペルマ共和国の勇者。
マッシュルームカットの中学生は相変わらず奴隷解放に情熱を傾けているそうで、奴隷だった大勢の女どもを連れて彼女たちを受け入れてくれる土地を探し国中を旅しているのだとか。
いや、魔王放置して何やってんの……?
「同じ勇者なんだろ……? 噂を聞きつけたら、ひょっとしたら期待してそのうち大勢でニコルコに押しかけて来るかもしれんぞ……」
バルバトスが冗談めかして言った。
やめてくれよ。
「ミューカス大聖国の勇者は……まったく情報が入ってこないな。動きがなさすぎるせいで実は聖都に籠もったまま討伐の旅をしていないんじゃないかと噂されている……」
大聖国に行ったのはピアスしてた女子高生か。
聖女としてスチルの上位互換だったみたいだけど。
本当に籠もってるんならマジで酷いな。
まあ、俺はまだ異世界を去るわけにはいかないから、そういう足を引っ張ってくれるやつがいるのは時間の猶予ができてありがたいことではある。
その国の人たちには悪いけどね。
すべての魔王を倒したら俺たちは元の世界に帰らないといけないし。
それにしても――
まともに役目を果たそうとしてるのがヤリチン大学生だけとか終わってる感じがする。
俺の片付けるべきことが済んでも進展がないようなら、俺が代理で他国の魔王を倒してやる必要が出てくるかもしれない。
どっちにしろ当分先の話になるだろうが――
『勝手に歩き回られては困ります! 応接間でお待ちになっていて頂かないと……まだ領主様からは面会の許可が――』
『メイドさーん、別にいいじゃん? ちょっと会って確かめたいだけなんだし。ちゃんと王国の王様に貰った身分証も見せたでしょ?』
『そうよそうよ! カレを誰だと思ってるの?』
『ただの使用人ごときがリクのやることにケチつけんじゃないわよ!』
ガヤガヤ。
なんか部屋の外が騒がしいな。
ガチャ。
「おい、何があった? 誰か来たのか?」
「あー! やっぱあんときの兄さんじゃーん! チスチーッス!」
廊下に顔を出すと、束感のある金髪ヘアーの青年がいた。
そして軽いノリで俺に挨拶してきた。
ん? こいつは……。
「神様のところ以来だよな? ジロー・ヒョロイカさん……ってんだっけ? 元気してた? あっ、オレは野村陸な! どうぞ、シクヨロ~ッ!」
「…………」
ミエルダ王国の勇者こと、ヤリチン大学生が俺の屋敷に侵入していた。
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