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『勇者伝』編

第143話『魔王軍四天王が一角、ストーム!』

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 勇者リクとドラゴンゾンビは言った。

 つまり俺ではなく、あちらさんサイドの関係者である。


「な、なんだよ、オレはお前なんか知らねーぞ!」


 腐敗臭漂う巨大なドラゴンゾンビを前にリクは後退り。

 あれ? 知り合いではないのか?


『グフフフ、冷タイことを言うナヨ。我ハ、貴様ニ感謝シテイルノダゾ……?』


 臭そうな息を吐きながら、ドラゴンゾンビは笑う。


「はあ? 感謝って意味わかんねー!」

「そうよそうよ!」

「いきなり出てきて気味悪いのよ!」


 ブーブーとリクパーティ。


『ねえ、勇者はアンタのことわかってないみたいよ? 自己紹介してあげたら?』


 ドラゴンゾンビの背後から、紫色の髪をした美少女が顔を覗かせる。
 美少女は蝙蝠のような黒い翼をパタパタさせ、悪魔っぽい尻尾をピコピコ生やしていた。
 黒いボンテージ衣装を着ていて、ザ・小悪魔って感じの見た目である。

 きっとサキュバスとか、そういう種族だろう。

 多分ね。


『そうダナ……我ハ以前とは姿モ変わってイル。ワカラナくても仕方ないカ……』


 グフフと、喜びを押し隠すような笑い声を上げるドラゴンゾンビ。


『改めて名乗っテやろう! 我ハ、セイリュウ様率いる魔王軍四天王が一角、ストーム! 貴様に倒サレタことでアンデッド化し、最強のドラゴンとナッテ蘇ったのダッ!』


 ドラゴンゾンビは己の強さを誇示するように、バサァッと翼を大きく広げた。





「ゴルディオン、アンデッド化って?」

 まあ、大体の想像はつくけど。
 些細な違いもあると思うからね。
 この世界では具体的にどんな事象なのかを訊いてみた。

「極々稀にしか起きない現象なのですが、竜族や上位種の魔物の死体をある程度原型を残したままで放置すると、腐った肉体のまま動き出してしまうことがあるのです」

「ふむふむ」

「そして、そのなかでもさらに稀に、自我を残したまま変異して、強大な力を得るものもいます。あのドラゴンゾンビのように――」

 極々稀のさらに稀ということは、微粒子レベルの超レア現象がよりにもよって魔王幹部に発生してしまったというワケか。

 で、奇跡のパワーアップ復活を遂げた幹部はリクに復讐するため、ニコルコくんだりまでわざわざ追いかけてきたと……。

「リク殿にも魔王軍の幹部クラスを倒したときは聖水を最後に振りかけるか、死体をきちんと処理しておくよう教えたはずなのですが……」

 ゴルディオンが渋い表情を浮かべる。
 リクのやつ、すっかり忘れていたようだな……。
 あるいは確率が低いなら平気と思っていたか。

 滅多に起きることじゃないからって油断していると思わぬ大事故に繋がる。
 そんな教訓は世の中にありふれている。
 どんな些細なことでも『ヨシ!』って、しっかり確認していくことが大事なんだぞ。





 一方、ドラゴンゾンビの正体を聞いたリクたちは、

「ストーム……? まさか、魔王軍幹部のドラゴニュートか!?」

「ええ? あのドラゴニュートはリクが討伐したはずじゃ!?」

「完全に種族変化してアンデッドになってるじゃない!」


 絶賛、オロオロしまくり中であった。


「リク様、討伐後の死体は……? きちんと後処理はしたのですよね?」

「あーいや、討伐の証明になりそうなあいつの武器だけ拾って、その辺にポイッっと……」 

 タチアナが訊ねると、リクは頬をポリポリしながら気まずそうに答えた。

「な……なぜ、埋葬を怠ったのです!?」

「ええ~? そんなことしなきゃいけなかったんだっけぇ?」

 とぼけているのか。
 本気で忘れていたのか。
 どっちとも取れる反応をするリク。


「ゴルディオン卿から何度も言われていたはずですよ!」

「そ、そうだったかぁ……?」

「そうですとも!」


 ぷんぷんのタチアナ。


「大体、インバーテッド! 聖職者であるあなたがついていながら、どうしてそのような真似を許したのです!」

「う、うるさいわね! あの時は疲れてたんだから仕方ないでしょ! 怪我して近くの村で寝込んでたあんたにとやかく言われたくないっての! まさか、アンデッド化なんて本当に起きると思わないじゃない!」

 ボインシスターのほうは確信犯だったらしい。

 こういう感じの人間性だと、やはり多少腕が立っても勇者パーティには不適格よなぁ。


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