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『勇者伝』編
第150話『夜会当日』
しおりを挟む夜会当日。
俺は訪れる来客をパーティ会場のホール入り口付近で出迎えていた。
隣にはパーティ仕様にドレスアップしたデルフィーヌ。
長い金髪を編み込み、いつもと違って入念にメイクを施した彼女は微笑みながら招待客に応対している。
もともと貴族令嬢だっただけあって、その所作は意外と堂に入ったものであった。
デルフィーヌが貴族らしいことをしてるのって何気に初めて見たかもしれない。
「これはなんとも豪奢な……」
「ヒョロイカ辺境伯にはこれほどまでの屋敷を建てられる資産があるのか!?」
「町並みもそうだが、いつの間にニコルコはここまでの発展を遂げていたのだ?」
「これが魔王を倒した英雄のなせる技か……」
訪れた貴族たちは屋敷を見ながら感嘆の声を漏らしていた。
新しい領主邸は元のボロ……ヴィンテージ風の屋敷と違い、上位貴族である辺境伯の地位に相応しい規模と外観だ。
見た目はもはや軽く城。
内装もジゼルを通して手に入れた連邦のオーダーメイドインテリアで誂えている。
入り口から正面の階段まで伸びる赤い絨毯とか。
天井にかかってるデカくてギラギラしたシャンデリアとか。
どれもこれもめっちゃバブリーな値段らしい。
来客の反応を見る限り、ニコルコがかつての田舎領地ではないと印象づけるパフォーマンスは成功しているのではないだろうか?
「ヒョロイカ殿、本日はお招き頂きありがとうございます」
「ネイバーフッド伯爵、久しぶりですね」
お隣に領地を持つ貴族、オットナリー・ネイバーフッド伯爵が挨拶に来た。
彼と会うのはハルンケア8世の手先として彼がニコルコを訪問してきたあの時以来だ。
「いやぁ、大変素晴らしい屋敷を建てられましたな! 外観もそうですが、内装も格式高く整っていて思わず息を呑みましたぞ!」
「いえいえ、こちらもおかげさまで様々な家の当主とスムーズに挨拶を交わすことができましたよ」
田舎の貴族には成り上がった新興貴族や、よそ者を受け入れない排他的な考えの者が多くいると聞いていた。
しかし、近隣の古参貴族の代表格であるネイバーフッド伯爵が俺の協力者としてポジティブキャンペーンをしてくれたおかげか、今日訪れた貴族たちは比較的穏やかな態度で俺に接してきた。
ネイバーフッド伯爵って本当にこの辺の貴族たちに影響力あったんだな……。
さすがに全員が伯爵効果で懐柔できたわけじゃないけど。
中にはまだ渋い表情で俺を窺っている貴族もいる。
それでも仲介者がいるのといないのではスタートダッシュに大きな差があった。
そんな、何気にすごかった伯爵の隣には栗毛色の髪の少女がいた。
「これは我が娘のニアと申します。以前お話しした通り、ヒョロイカ殿の屋敷で行儀見習いをさせて頂ければと思いまして……」
行儀見習い? そういえば以前、会食のときにそんなことを言ってたっけ。
あれ、本気だったんだ。
まあ、させたいというなら受け入れてもいいが。
できたばっかのうちで何の作法を学べるのかはわからんけど。
彼には世話になったし、これからも懇意にしていきたいからな。
「ありがとうございます! では、近いうちに娘をヒョロイカ殿の元に送りますので!」
「お父様! わたくしは行儀見習いになど行かないと何度も言っております!」
「お前はまだそんなことを言っているのか!」
「…………」
娘さん、拒否してますが……。
ちゃんと家族会議で意見をすりあわせてからきてくれよな?
「これが魔物の肉だと……! なんという美味! 今まで食ったどの肉よりも美味い!」
「ニホンシュという酒は聖水で仕立てられているというのは本当なのか!?」
「このスシ? とかいうのを私は気に入りましたぞ!」
「ニコルコでは生の魚を食することができるのか……すごい技術力だ……」
パーティで並ぶ料理に舌鼓を打って絶賛している貴族たち。
特産品パワーで胃袋も掴んでいく……。
「なんと可憐な歌姫よ……! これほど実力のある歌い手がニコルコに……!」
「ヒョロイカ辺境伯は武芸だけでなく教養も持ち合わせていたのか……」
さらにニコルコのローカルアイドルとして契約したスチルに歌唱をさせる。
芸術方面にも強い領主アピールだ。
芸術は貴族の嗜み。
ジャード曰く、実力のある芸術家を囲っていることは貴族としてのステータスになるんだって。
「我が領地にもぜひ招きたいものだ……」
「心の清らかさが伝わってくる澄んだ歌声ですなぁ」
正直、こういう知的な印象を得る目的でスチルを雇ったんじゃないんだけど。
まあ、冒険者上がりの貴族は野蛮だとかネチネチ言わせないためにも使えるものは使っておこうって話だったので。
なんにせよ、彼女の歌声は伝統にうるさい地方貴族たちにも響いたようでよかった。
そんなこんなで。
近隣の貴族にニコルコの現状を周知させるパーティは割と好感触で終了した。
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