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『勇者伝』編

第149話『パートナー』

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「それにしてもあの女たち、あっさりとリクを置いてくなんて驚いたよなぁ……」

 とある日の夕食時。

 俺は色々と衝撃なところに着地したリクの結末を振り返っていた。

「そう? わたしは全然驚かないわよ」

「まあ、あの女たちならそんなものだろう」

「ですね」

 デルフィーヌ、エレン、ベルナデットが揃って言う。
 リクのパーティメンバーだったボイン二人の薄情行動は俺としてはだいぶ想定外であったのだが……。
 デルフィーヌたちにとっては予想の範疇だったらしい。

 同じ女性として察する何かがあったのだろうか?

「だって、あいつら、勇者なんて股……あっ……!」

 デルフィーヌは途中まで言いかけ、俺を見てハッとした表情になって言い淀む。

「股……? え、なんだって?」

「な、なんでもないわ!」

 俺が訊ねると、デルフィーヌは赤面しながら俯いた。

 何を言いかけたんだろう……。

「あの雌豚ども『勇者なんて股を開けば簡単に取り入れるわよね、貴女たちも上手くやったわね?』などとほざいてましたからね。甘い蜜を吸うためだけに群がった害虫と同類にされて実に不愉快でした」

 ベルナデットがサラダにフォークをブスッと突き立ててさらりと答えた。
 おお、そういう内容だったか……。
 そりゃ、デルフィーヌも言いにくいよな。

 でも、俺がいなかったら躊躇いなく言ってる感じだったな。
 デルフィーヌは女しかいないときは普通にそういう際どい話するのかなって邪推した。
 というか、ベルナデットさん? 雌豚なんて単語どこで覚えたんですか?

 しかも平然と口に出すなんて……。

 パパ、悲しいぞ……しくしく。

「ああいう不義理な輩はけしからん!」

 エレンは思い出して腹が立ったのか、パンをモシャモシャと口に運んでいた。
 普段、彼女は貴族令嬢らしく意外にも上品な仕草で食事をするのだが、それを放棄して勢いよく詰め込んでいた。
 まあ、人を利用するために近づいて平気で見捨てる人間って生真面目なエレンが一番嫌いそうなタイプだもんな。

「ところで落成式の夜会では誰を相手に選ぶのかだよ?」

 それまで無言で咀嚼していた、同じ食卓を囲む五人目の人物が言葉を発した。
 ピンクブロンドの眼鏡をかけた魔道士少女、エルラルキ・フルバーニアンであった。

 彼女はデルフィーヌと協力して魔法陣の解析を行なう関係上、近くに住んでいたほうが効率的ということで領主邸に暮らしている(他の魔法教師として採用が決まった学生たちには専用の寮を建ててあげた)。

 話を戻そう。
 エルラルキが言った相手というのはアレだ。
 数日後に行なう、周辺貴族を招いた夜会で俺がエスコートするパートナーのことである。

 貴族の当主が夜会に異性の同伴者を連れていないのは外聞が悪いっていうからさ。なんでも場合によっては特殊性癖を疑われるとかないとか……。そういえば領地に来た当初も、ジャードから伴侶を決めてないと云々って言われてた気がする。いろいろあってすっかり棚上げフライアウェイになってるけど。

 とりあえず、あらぬ誤解を受けるのは避けたいので誰かしらに役割を頼まないといけないのだが。
 ちなみに夜会の名目は新しい領主邸の落成記念だ。
 新しい屋敷はすでに内装工事も終わっている。

 あとは連邦の商人少女、ジゼル・ウレザムを通して購入したオーダーメイド家具の搬入が済み次第居住を移す予定だ。

「いい加減、決めておくべきだと思うのだよ? ドレスや装飾品の合わせもあるのだから」

「ああ、そうだよな……」

 ちらっ。

「…………!」
「…………!」
「…………!」

 俺が視線を向けると、デルフィーヌ、エレン、ベルナデットの三人がピクッと反応した。
 まあ、頼むなら身近にいる彼女たちになるだろう。
 デルフィーヌとエレンは貴族だし、社交のマナー面でも問題ない。

 ベルナデットは……どうだろう……? こいつ、実年齢幼女だしな……。
 見た目は大人になってるけど。
 一応、エルラルキのほうも見てみる。

 彼女は両手の人差し指を交差させて×をした。
 拒否ですね。
 承り。

「じゃあ、デルフィーヌ頼める?」

「えっ? わたし?」

 直感で決めた。

「ジロー様……」

 ベルナデットが仄暗い瞳でこちらを見ていた気がするのは錯覚だと思う。



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