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『勇者伝』編
第148話『何かを失い、何かを得た者の表情』
しおりを挟むもやもやすることを言い残されてしまったが。
さて、ドラゴン対決のほうはどうなっただろうか?
気になって上空を見上げてみると。
『グワァアアアアアアア――ッ!!!!』
バラバラになったドラゴンゾンビの破片が降り注いできた。
辺り一面に腐肉の残骸が散らばっていく。
汚いし、デカい飛来物だから危ねえな……。
ドスンッ。
俺の近くに頭部が落ちてきた。
『バカな……なんダ……コノ強さハ……あの若造、以前ヨリも遙かに強く――』
首だけになったドラゴンゾンビが悔しそうに呻いている。
『もう! 強い弱いとかじゃなくて、ぼくは常識の話しかしてないよね!』
ブラックドラゴンも下りてきた。
そして、
『あっ! じろぉ……! ちがうんだよ! これはちがうんだよ!』
俺の姿を確認すると、途端に慌て始める。
どうやら、塔で大人しくしていろと言われたのに守らなかったことを気にしてるらしい。
別に、今さらもういいよ。
『まだ力が足りなったノカ……。ダガ、アンデッドとなった我ハ何度デモ蘇る! そのたびに強くナッテ復活スルノダ……』
「えいっ」
ビュッ、ビュッ、ビュッ。
復活してもらっちゃ困るので聖水をかけた。
これで成仏してくれや。
『ギャアアアアアア――ッ! コレは聖水……!? 貴様、何者だッ!? グアアアアッ! 浄化サレル! 存在が完全に消え去ってシマウ――』
ジュウウゥウウゥゥウッ。
聖水を浴びたラゴンゾンビは断末魔を上げ、パサパサにひび割れて崩れ去った。
「す、すごい……四天王を二人も簡単に……!」
タチアナがリクを抱えながら目を見開いて驚嘆していた。
なんか、成り行きで他国の魔王幹部を二人も倒しちゃったよ。
例のごとく、ほとんど聖水で一撃だったわけだけど。
これならどこの魔王軍が相手でも一緒だったかな……?
特段、公国がイージーモードというわけではなかったらしい。
翌日。
一晩休んで元気になったリクがタチアナを連れて挨拶にやってきた。
てっきり、痛い目を見て意気消沈しているかと思いきや――
「いやぁ、なんかぁ、兄さんとゴルディオンが助けてくれたって聞いたんでぇ、お礼言っとかないとなーって思いまして! まさか、ゴルディオンが兄さんのトコにいたなんてビックリっすわ! 気絶する前に聞いたデカい声は走馬灯かと思いましたもん!」
朗らかスマイル。
リクは憑きものが落ちたようにスッキリ晴れ晴れした顔つきになっていた。
ええ……。
どないなっとんねん。
「これはですね、何かを失い、何かを得た者の表情っすよ」
リクがドヤっと言ってきた。
何の話だよ。
ボインたちに裏切られて、タチアナの優しさに気づけた的な?
「で、お前ら、どうすんのこれから?」
幹部は二人いなくなったが、リクが倒したわけではない。
パーティメンバーも二人いなくなったし。
このまま魔王軍を相手にするのは厳しいだろう。
「まあ、しばらくはタチアナと二人でやってみるつもりっすよ。ゴルディオンもニコルコにいる間は稽古つけてくれるみたいだし」
ゴルディオンは、今の自分はニコルコの騎士団長だから旅についていくことはできないとリクたちに告げたらしい。
だが、ニコルコでならいくらでも稽古をつけると申し出たのだ。
負けてみて、ゴルディオンの言っていたことが正しかったとわかったリクが謝罪したのもあるだろうが、今さらもう遅いとか言わずに面倒見てあげるの優しいよな。
「鍛え直したら、魔王と残りの幹部を討伐して平和な世の中にしてみせる! それが勇者としての責任だから!」
責任感があると言われたせいか、リクはすっかりその気になっている模様。
「すべてが終わったら、タチアナと幸せに暮らすんだ!」
「もうっ、リク様ったら……」
頬に手を当てて照れるタチアナ。
その距離感はさながら、できたてのカップルのようであった。
いや、でもタチアナは男だしな……。
「フッ……兄さん、本当に大事な人って、男とか女とかに拘らないもんなんすよ?」
リクとタチアナは見つめ合い、通じ合ったように頷いた。
ああ、男って知ってるんだ……。
知った上でそこに収まったんだ……。
ボインたちに裏切られてそういう解釈に至ったのかな?
「リク様、そろそろ行きましょう。訓練場でゴルディオン卿が待っています」
「そうだな。じゃあ、兄さん、当分はニコルコにいるんで、今度呑みでもしましょー!」
遠ざかっていくリクとタチアナ。
見送りながら、二人の会話が少し聞こえた。
「アイテテ……」
「リク様、大丈夫ですか? やはり昨日の痛みが……」
ぎこちない歩き方をするリクをタチアナが支える。
昨日の怪我は毒と一緒に俺のスキルで全部治したはずだが。
「心配ないさ、これは幸せの痛みってやつだからな」
尻を擦りながら、リクは誇らしげに言うのだった。
…………!?
「フフフ」
「ハハハ」
仲良く連れ立って見えなくなった二人。
まさか失ったのって……!?
いや、お前がそっちなの……!?
マジで?
まあ、何がとは言わない。
だが、どうやら、あいつもまた一種のネコだったらしい。
そっちのネコはノーセンキュー。
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