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『勇者伝』編
第153話『民族大移動か?』
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二ヶ月が経った。
この二ヶ月でニコルコのマーケットは無事開設された。
各国から特産品が持ち込まれ、そこに様々な国から来た商人が買い付けに来ることで人の行き来が爆発的に伸び、ニコルコはより活気に満ちた町に変化した。
これだけスムーズに出店者や買い付けにくる人間が集まったのは立地や通行税の免除だけでなく、蛇口を捻るだけで簡単に聖水を手に入れられることが知れ渡ったのもあるんだろうなぁと思う。実は公共の水場の聖水を複数の樽に移して運ぶ連中の姿があると時折報告を受けているのだ。
きっと自国に持ち込んで転売するのだろう……。
懸念はあったが、やっぱりそういうことをするやつが出てきたかーって感じである。
ニコルコではただの水道水なので大きな痛手はないが、いずれその辺の規制を考えるべきかもしれない。
大聖国の聖水との兼ね合いもあるし。
インフラの維持や整備だってタダでやってるわけではない。
日本でも公園の水をポリタンクに汲んで持ち帰ったら盗水になるもんな。
まあ、そんな些細な問題はあれど。
このままいけば、やがて交易都市なんて呼ばれる日が来るのではないか?
それくらい今のニコルコは軌道に乗っていた。
なお、余談だが――
王国の勇者リクは数日前にニコルコを去った。
彼は『ゲイ・ボルグ』という上級の冒険者パーティと組んで再び魔王討伐の旅に出たのだ。
詳しくは知らないが、共通の趣味趣向とやらで意気投合したらしい……。
ゲイ・ボルグは短髪ヒゲのがっちりむっちりした男ばかりのパーティで、以前のリクなら間違いなく拒絶していたはずの面子だった。
しかし、人は変われば変わるもの。
かつてのボインたちとは違い、今度は心から信頼し合える人間関係を築けたようで、リクは『オススメの軟膏を教えて貰ったんすよ!』と笑顔で語っていた。きっと、魔物との戦闘で負った傷に効く薬をアドバイスしてもらったのだろう。
『滑りもよくなるんです』とか言っていたのは何かを聞き間違えたに違いない。
そうに決まっている……。
共通の趣味趣向が何だったのか、俺は最後まで訊かなかった。
それは突然のことだった。
執務室で俺がいつもの通り書類にハンコをペタペタしていると、慌てた様子のエレンが駆け込んできた。
「大変だ、ヒロオカ殿! 共和国方面の街道から300人規模の集団が押し寄せている!」
300人……?
民族大移動か?
とりあえず現地の門に向かう。
「あれがそうか……」
物見櫓から遠方を眺めると確かに街道を歩く集団がいた。
「ほとんどは非武装の女性だが、前方を歩く数人は武装しているそうだ」
エレンから情報を得て俺は思案する。
ほとんどが非武装……。ならば傭兵や軍隊ではない。
見た感じ商隊って雰囲気でもない。
避難民か何かだろうか……?
でも、近隣で災害が起こったという報告は受けていない。
仮に避難民だとしても、あれだけの人数で他国に流れてくるのだから警戒は必要だろう。
女性ばかりで300人というのも何か妙だ。
「とりあえず、俺が接近して先頭の人間に話をしてくるよ」
「ならばヒロオカ殿、私も同行しよう」
エレンがそういうので二人で行くことにした。
見えている範囲だし、転移を使うか。
俺はエレンに手を出すように言った。
「ん? こうだろうか?」
「おう、それでいいよ」
差し出された手を俺はぎゅっと掴む……というか握る。
「ふわわっ……!?」
「おい……」
エレンよ、いつもより高い声で変な声だすな。
ちょっと手の平の感じとか意識しちゃうだろ。
まあいいや。
俺はエレンと共に一団の数メートル手前に転移した。
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