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『全マシ。チートを貰った俺』編
第50話『王城での密談』
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-王城の一室-
「あのジローとかいう男、思ったより賢い判断ができたようじゃな?」
玉座に腰かけたハルンケア8世は目の前に控える家臣たちを見渡しながら言った。
部屋に集まっているのはハルンケア8世の腹心の臣下たち。
全員が魔王軍との繋がりを知る者である。
「叙勲を拒否すれば犯罪奴隷にしてでも取り込むつもりでしたが、余計な手間がかからなくてよかったですよ」
「魔王や幹部を簡単に粉砕した男を勇者と認めないのは無理があるかと思いましたが……案外なんとかなるもんでしたなぁ」
「きっとあの男も陛下の迸る威厳を垣間見て忠誠を誓うほかないと判断したのでしょう」
「さすがは陛下です! 勇者も平伏する覇者の風格があります!」
「むはは、やはりそうかのう!?」
臣下の言葉に高笑いするハルンケア8世。
ハルンケア8世たちは本気でジローが一介の冒険者だと思っていたわけではない。
だが、彼らはジローを絶対に勇者と認めるわけにはいかなかったのだ。
それは彼らが魔王軍と陰で密約を交わしていたことを明らかにされては困るからだった。
「まったく、魔王スザクめ……。勇者を差し出し、筆頭魔導士を処刑すれば我が国の大陸統一に力を貸すと持ち掛けてきたくせに……。どこの国の魔王よりも早く倒されおって! 口ほどにもない連中じゃったわい!」
王城に安置されている魔王(故)を思い出し、ハルンケア8世は忌々しげに怒鳴った。
「その通りです! 連中が不甲斐ないせいで我々は大陸統一どころか、国家としての地位が底辺に陥りかけた!」
「勇者召喚に失敗した国という恥をかかせられた挙句、筆頭魔導士の存在という大きな損失まで負わされた!」
「陛下の顔に泥を塗るマネばかりして、これだから下賤な魔族は……!」
家臣たちは君主に同調するように魔王を貶していく。
甘い汁を啜るため、召喚失敗にかこつけたシリウス・ドランスフィールドの処刑に賛成しておきながらこの態度である。
彼らの性根は心の底から腐っていた。
「じゃが、勇者が略奪召喚の話を出してきたときは余も肝が冷えたぞ。まさか本人に知られているとは思わんかった」
ハルンケア8世はヒゲをいじりながら呟く。
「あの話しぶりだとドランスフィールドの娘が言い当てたようですな。まったく、奴隷に落ちるだけだった小娘が余計なことを吹き込みおって……」
宰相が舌打ちをしながらデルフィーヌに毒づく。
「まあ、ドランスフィールドの娘が勇者の足枷になったことも事実です。おかげであの男に借金という首輪をつけることにも成功しました」
「魔導士奴隷として使い潰すくらいしかなかった娘が意外なところで役に立ちましたな」
「没落した家の娘に100億とは。いやはや正気の沙汰とは思えませんよ」
「値切ろうともせずにそのまま受けるとは。必死過ぎて笑えたぞ!」
「あの娘の見目はかなり麗しい。勇者も男。色香に惑わされて狂ったのだろう」
「うーむ、ワシはもう少し大人の色気が漂う年頃がよいなぁ」
ゲスな勘繰りでゲスな笑いを重ねるハルン公国の中央部。
ここには邪な欲望しか渦巻いていなかった。
「魔王が倒されたと聞いたときはどうしたものかと焦りましたが、魔王以上の力を持つ勇者を配下に取り入れることができたのです。結果的に見れば我々は得をしたとみて間違いないありません」
宰相の言葉に部屋の誰もが揃って頷く。
「じゃが、魔王の問題が片付くまでは同盟を結んでいる他国に侵攻命令が下せぬ。はあ、もどかしいのう……」
魔王軍に触発されて芽生えたハルンケア8世の大陸統一に対する野心。
それはすでに止められない渇望に変わっていた。
勇者の力を以てすれば手の届く範囲にあるのに掴めない……。
そのことが堪らなく歯痒い。
そんなハルンケア8世に宰相はニヤリと笑みを浮かべて言う。
「陛下、ここは耐えるときです。ニコルコは100億どころか、まともな収入すら見込めない辺境の領地……。そう遠くない先、ヒョロイカ卿は貧困に苦しみ泣きついてくるでしょう。そうなったら賠償金の減額をちらつかせてやるのです。そうすればどんな指示でも聞き入れるはず……そう、例えば他国を制圧してこい――などというような同盟を無視する命令でも」
おおっ! と家臣たちから歓声が上がった。
「ヤツに辺境伯の地位をやったのも戦闘に赴かせる際に他の貴族の介入を防ぐため……」
「陛下と辺境伯号の貴族が主導の戦争なら穏健派貴族も簡単には口を出してこれまい!」
「いっそ、穏健派の貴族たちもヒョロイカ卿に始末させてはどうか?」
「たった一人で魔王軍を潰した男なら口だけの腰抜けどもを容易に黙らせられるはず!」
「100億の借金を背負って手にした女のためだからな!」
「きっとなんでも言うことを聞くだろう!」
彼らは細かいことは気にせず自分たちに都合がいいように考えていた。
すでに他国の領土が自分たちのモノになった気分の者さえいる。
他国にも勇者はいるとか、侵略後の反感とか……。
そういう懸念はスッパリ抜け落ちていた。
力を手にした人間のオツムが緩くなってしまうのは定められたカルマなのかもしれない。
「…………」
はしゃぐ家臣たちの傍ら、ハルンケア8世は静かに目を閉じ俯いていた。
脳裏に浮かぶのは目の前に魔王を出されたときに晒した醜態……。
気絶させられた挙句、さらにそのうえ――
恥辱に塗れながら下着を取り替えたことは忘れもしない。
「ジロー・ヒョロイカ、あやつは余に耐えがたい屈辱を味わせおった……!」
彼は自分の対応に問題があったとは微塵も感じていない。
よって発生するのはジローへの逆恨み。
「金に困って媚びを売りに来たあの男を使い潰してやる日が楽しみでならんッ!」
ハルンケア8世は唾を吐き散らしながらそう叫んだのである。
「ところで、空いてしまった筆頭魔導士の席はどうしましょうか?」
「次席や三席はドランスフィールドと比べると些か格が落ちる気がしますねぇ」
「うむ、そうじゃな……。筆頭魔導士の格を落としたくはないし、困ったもんじゃ」
自分たちでシリウス・ドランスフィールドを処刑に追い込んでおきながら悩ましそうに相談するハルンケア8世ら。
すると――
『ならば、わたくしがその筆頭魔導士に立候補してもよろしいですか?』
突然、誰もいなかった部屋の隅から声が聞こえた。
ハルンケア8世たちが振り返ると、そこには目深にローブを被った謎の人物が佇んでいた。
体つきや声から女であろうことは推測できるが――
「き、貴様は何者だ!」
「一体どこから入った!?」
「陛下の命を狙う者か!?」
家臣たちは突如現れた謎の女に向かって怒鳴り散らす。
自分が誰よりも王を慮っているように見せかけるための打算的行為として。
『ふふ、皆さま、そんなにビクビクしなくても大丈夫ですよ。わたくしはただ、空席になったハルン公国の筆頭魔導士になりたいと思って馳せ参じただけですから……』
外見に漂うおどろおどろしさとは対照的に朗らかな口調で女は言った。
「ふん、何の実績もない、実力もわからん輩に筆頭魔導士の称号は軽々しく与えられん!」
ハルンケア8世は厳しい口調で言い放つ。
周りには家臣という肉壁たちがいるので彼はちょっと強気だった。
『そうですねぇ、実績と言うのなら……勇者の略奪召喚を行なった魔法陣。あれはわたくしが構築して魔王様に献上したモノなのですが』
ざわざわ。
驚く家臣たち。
女の妖しげな雰囲気も合わさって、それは本当のことのように聞こえた。
「ほう、あのドランスフィールドの魔法陣に介入したアレを作ったのがそちじゃと……?」
『はい、魔族があのような魔法陣に造詣が深くないことは御存じでしょう?』
「ふむ、そういえばそうじゃったな……」
ハルンケア8世は女の言い分に納得して頷いた。
彼も魔王軍がどのようにして公国の筆頭魔導士の術に割り込むほどの高度な技術を手にしたのかは疑問だったのだ。
「じゃがやはり、そちの力を余にわかるようにも示してもらわんとな。その言葉だけで真実と判断するのは早計すぎる」
ハルンケア8世は毅然と言った。
彼は己の保身と威信を損なわないことに関しては誰よりも真剣に考える男である。
無能を推して位を与えた場合、自分の沽券に関わるのでやたらと慎重だった。
『でしたら……力の証明として、勇者の置いて行った魔王様の亡骸を使って国益をもたらして見せましょう』
「…………っ!」
女は妖しく口元を綻ばせて言うのだった。
◇◇◇◇◇
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