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『領地経営』編
第64話『礼』
しおりを挟むドラゴンとの立ち退き交渉を冴えわたるトークで解決に導いた俺は屋敷に帰宅した。
あれからいろいろ掘ってみたけど結局温泉は見つからず……。
クッソ、いずれ必ず見つけてみせるからな!
今日はいっぱい動いたから腹が減ったぞ。
早くメシ食いたい。
夕食に出てきたのは俺が倒した魔物の肉のステーキだった。
昨日、領民たちに配ったら美味いと評判だったのでさっそく料理人に作ってもらったのだ。
「ヒロオカ殿! すごいな! 昨日は鉱山を見つけたと思ったら今日はブラックドラゴンを服従させるとは!」
「…………」
メシを食いながらデルフィーヌたちに本日の成果を報告する。
エレンは手放しに喜んでいたがデルフィーヌは上の空だった。
お前にこそ喜んで貰いたかったんだけどなぁ……。
少し収入の目途がたったくらいじゃまだ浮かれる気分にはなれないか。
ステーキを口に運ぶ。
もぐもぐ。
うんめーにゃー。
下手したら昨日食った牛肉より柔らくて美味かも。
夜。自室のベッドに腰かけ、そろそろ寝ようかという頃合い。
コンコン。
ドアがノックされた。誰だろう。ベルナデットか?
「ジロー? 入っていい?」
……デルフィーヌだったか。
こんな遅くに彼女が訪ねてくるなんて意外だ。
「いいぞ、入れよ」
「じゃあ、失礼するわね……」
どことなくぎこちない声と共にドアが開く。
「む……」
デルフィーヌは薄手の寝間着にカーディガンを羽織った姿だった。
彼女も寝る寸前だったのだろうか。
こんな無防備な……。
デルフィーヌはそういうところはカッチリしている印象だったのだが。
「なあに?」
「……いや、なんでも。それよりなんか用か? もう寝ようと思ってたんだけど」
「ごめんね、遅くに来ちゃって。でも、ジローに今までのこと、ちゃんとお礼を言ってなかったから……伝えておかないとって思って」
「礼? なんのだ?」
「初めて会ったとき、森で助けてくれたこと。フランクから守ってくれたこと。王城で庇ってくれたこと……今まで助けてくれたこと全部よ」
デルフィーヌが静謐な雰囲気を漂わせて言ってくる。
礼……? あれ? 言われてなかったっけ?
言われてたような気がしてたけど。
よく考えたらハッキリとは言われてないような気もする。
どうだったかなぁ。
「ありがとね、ジロー」
「う、うす……」
改めて言われると照れくさい。
そしてケツが痒くなる。
やれるからやったるかってノリで片づけてきたことばっかだし。
こういうノリは苦手なんすよ。
シリアスはぐわーってなるの。
「ジロー。隣、座っていい?」
「ああ……」
デルフィーヌは俺に断りを入れてから横に腰かけた。
二人分の重さで沈むマット。
すごく近いところにデルフィーヌがいる。
「ジローはすごいわね。領地に来たばっかりですぐに収入のアテを見つけるし。伝説のドラゴンを従えちゃうし。この調子なら本当に100億を返せちゃいそう」
「ま、約束したからな。任せとけよ」
神様から貰ったチートがあればなんとかなると思うよ。
「……うん、信じてる」
静かな夜の空気にあわせて、デルフィーヌが穏やかに微笑んだ。
そして、
「おかげで、わたしも頑張らなきゃって思えるようになったわ!」
「えっ?」
「ウジウジしてたって何も産まないもの、時間は有効に使わなきゃ勿体ないでしょ?」
「ま、まあな……」
いきなりデルフィーヌに元気が戻った。
立ち直ったのか?
いや、立ち直ったというよりは傷を抱えながらも前に進もうと決めたって感じか。
俺はふと思い出す。
そういえばデルフィーヌと初めて会ったときもそうだったっけ。
圧力のせいで誰ともパーティを組めず、魔王に単独で挑まなければならなかった状況で、それでも彼女は諦めていなかった。
どうせ無理だと、普通のやつなら匙を投げそうな境遇に追い込まれながら。
彼女はゼロに等しい可能性に賭けて最後まで足掻いていた。
デルフィーヌという少女は立ち止まらないのだ。
歩みを止めて塞ぎ込んで。
その場に留まっていたら絶対に何も変わらないとわかっているから。
『少し意識が高いところはあると思うけど――』
シリウス氏よ。
おたくの娘さんはどっちかっつーと意識が高いというか意志が強いって感じだよ。
そんなふうに俺は思った。
「でね……? この一か月、ずっと考えてたんだけど。あたし、略奪召喚の魔法陣について調べてみようと思うの。もうあんまり意味はないかもしれないけど、陛下……いえ、ハルンケア8世の非道を世間に訴える僅かな材料になるかもしれないから……」
「そうか」
「駄目かしら?」
デルフィーヌは緊張した面持ちで俺の返事を窺ってくる。
「いや、やってくれると助かるかな。そのうち必要になるかもしれないし。むしろこっちからお願いしようと思ってたくらいだよ」
「え、そうなの!?」
「ああ、それにシ……」
「し?」
おっといけない。
シリウス氏のことは秘密だった。
頼まれてるって言っちゃうとこだったよ。
「それよりも今度王都に行って研究に必要なものを揃えに行かないとな?」
「……? うん……!」
無邪気な笑顔。上手く誤魔化せたぜ!
気が緩んだ俺は思わず猫と同じ感覚で彼女の頭を撫でそうになる。
危ない危ない。
セクハラは重罪やで……。
「…………」
「どうした?」
「なんでもないわ」
デルフィーヌが引っ込めた俺の手をじっと見つめていたのは気のせいだろう。
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