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無能ジョブ「宝石使い」が実は最強ジョブでした ~強くてかわいい宝石娘に囲まれて幸せです~
第9話 シュムック伯爵
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ドサッ。という音と共に敵を倒した証である削いだ耳を入れた袋、そのどれもがパンパンに膨らんだ物に加え、敵軍総大将の首まで添えられて出された。
その光景に、リンケン国王は開いた口が塞がらない。
「……ここまでの戦果を出すとは、お前たちは『何だ』? 少なくともまともな人間ではあるまい? エンシェントエルフでもここまでの戦果は出せないはずだ」
魔族の脅威が去り、元の冷静さを取り戻したリンケン国王が宝石娘の代表であるダイヤモンドに問う。
「感が良いですね陛下は。ご想像の通り、私たちは人間ではありません。「宝石使い」であるマスター、シュムック様の手によりこの姿となった宝石なんです。ちなみに私はダイヤモンド」
「私はルビー」
「ボクはサファイアだよ」
「私はエメラルドですよ~」
簡単な自己紹介が終わり、王はハァッ、と息をつく。なぜ宝石が王侯貴族の間で独占されるのか? なぜある日突然平民から宝石を取り上げる法律が世界各地で一斉に施行されたのか? その理由が良く分かった。
2000もの大軍すらたった4人で蹴散らすほどの強さを持つ「宝石使い」は王侯貴族たちにとっては脅威以外の何物でもない。野放しにしているといつ寝首をかかれるか、分かったものではないだろう。
「……と言う事は彼は2日前までは平民だった。と言う事か?」
「ええそうです、でもご安心ください。陛下は戦闘の2日前にマスターに伯爵の爵位を与えましたよね? それをそのまま与え続ければいいだけです。そうすれば堂々と宝石を所有できます」
宝石は王侯貴族の物であり庶民の物ではない。本来ならば『元』とはいえ平民であるにもかかわらず宝石を持っていたシュムックは極刑に処せばならない重罪人だ。
しかし彼は文字通り国を救った英雄だ。そんな彼を処刑することなど出来るわけがない。そこで爵位だ。爵位を与えて貴族にしてしまえば、合法的に宝石を持ち歩くことができる。
国王に出来ることはほんの少し、それもダイヤモンドがほぼ完ぺきに予測できたものだ。
「……取引上手なお嬢さんだ事。良いだろう、正式にシュムックを我が国の貴族、伯爵として迎え入れよう。それでいいな?」
「はい、構いません。これからよろしくお願いしますね」
交渉成立、それも宝石娘側の意見が全面的に認められた完全勝利とでもいうべきものだ。
◇◇◇
僕達、正確に言えば宝石娘達が国を救って数日……王国は奇跡的に助かったと報じて国民が戻り急ピッチで復旧、復興がなされていた。
幸い春はまだ先だったので農民たちの種まきには影響は出ず、割とすんなり元の生活に戻っていった。
国を逃げ出した伯爵は「新天地で上手くやってるから心配するな」と言っているそうで僕が後釜に入っても特に問題はなさそうだ。
「シュムック様、これから身の回りのお世話をさせていただきます。よろしくお願いします……にしてもこんな私にこんなキレイなお着せなんてもったいないですよ」
口調こそ標準語だが田舎っぽいなまりが隠し切れない少女3名が僕の屋敷でメイドとして働くことになった。
メイドとはいえ掃除が得意な農民2名に料理が得意な農民1名という構成で、伯爵という地位には多少のバランスの悪さはあったが僕にとってはそれでも十分だ。
復興の進む中、パトロール隊長として人間の兵を率いていたダイヤモンドが戻る。確かあと1時間はパトロールで外にいるはずなのに、妙に早い帰還だ。
「ダイヤモンド、どうしたの?」
「マスターに合わせたい人物がおりますので早めに帰還しました。こちらです」
ダイヤモンドがそう言うと、彼女のそばには手を縄で縛られ数珠繋ぎにされた勇者、アルヌルフがいた。
「!! アルヌルフさん!? こんなところで一体何を!?」
「!! お前、シュムックか!? 何で生きてるんだ!? あの時ミノタウロスに襲われて死んだんじゃなかったのか!?」
勇者というには明らかに汚れてやつれた格好をした姿に僕は大きく驚いた。いったい何があったんだ!?
「噂じゃ信じられないような戦働きをして伯爵の地位を手に入れた奴がいたと思ったら、お前だったのか!? 何で宝石使いなんかにそんなことができるんだ!?」
「まぁ色々あって……詳しくは言えませんけど。ところでアルヌルフさんはいったい何を!?」
「マスター、彼は旅人を襲って荷物の追いはぎをやっているところを現行犯で捕まえたのですが、いかがいたしましょうか?」
「!! 追いはぎだって!? 何で勇者もあろう人がそんなことをやらなくてはいけないんだ!?」
信じられない。というのが最初に出た感想だ。S級冒険者パーティを率いている勇者アルヌルフもあろうお方がなぜ山賊をやっているのか? 僕には訳が分からなかった。
「シュムック。俺だってこうはしたくなかった。俺だってこんなことして生きていかなくてはならないのが俺自身信じられん。でもこうなっちまったんだ、どういうわけかは知らんがな」
彼は事の顛末を語りだした。
【次回予告】
山賊は語りだす。自分の身に降りかかった不幸を。
伯爵は決断する。目の前の罪人にどんな裁きを科すのかを。
最終話 「山賊アルヌルフ」
その光景に、リンケン国王は開いた口が塞がらない。
「……ここまでの戦果を出すとは、お前たちは『何だ』? 少なくともまともな人間ではあるまい? エンシェントエルフでもここまでの戦果は出せないはずだ」
魔族の脅威が去り、元の冷静さを取り戻したリンケン国王が宝石娘の代表であるダイヤモンドに問う。
「感が良いですね陛下は。ご想像の通り、私たちは人間ではありません。「宝石使い」であるマスター、シュムック様の手によりこの姿となった宝石なんです。ちなみに私はダイヤモンド」
「私はルビー」
「ボクはサファイアだよ」
「私はエメラルドですよ~」
簡単な自己紹介が終わり、王はハァッ、と息をつく。なぜ宝石が王侯貴族の間で独占されるのか? なぜある日突然平民から宝石を取り上げる法律が世界各地で一斉に施行されたのか? その理由が良く分かった。
2000もの大軍すらたった4人で蹴散らすほどの強さを持つ「宝石使い」は王侯貴族たちにとっては脅威以外の何物でもない。野放しにしているといつ寝首をかかれるか、分かったものではないだろう。
「……と言う事は彼は2日前までは平民だった。と言う事か?」
「ええそうです、でもご安心ください。陛下は戦闘の2日前にマスターに伯爵の爵位を与えましたよね? それをそのまま与え続ければいいだけです。そうすれば堂々と宝石を所有できます」
宝石は王侯貴族の物であり庶民の物ではない。本来ならば『元』とはいえ平民であるにもかかわらず宝石を持っていたシュムックは極刑に処せばならない重罪人だ。
しかし彼は文字通り国を救った英雄だ。そんな彼を処刑することなど出来るわけがない。そこで爵位だ。爵位を与えて貴族にしてしまえば、合法的に宝石を持ち歩くことができる。
国王に出来ることはほんの少し、それもダイヤモンドがほぼ完ぺきに予測できたものだ。
「……取引上手なお嬢さんだ事。良いだろう、正式にシュムックを我が国の貴族、伯爵として迎え入れよう。それでいいな?」
「はい、構いません。これからよろしくお願いしますね」
交渉成立、それも宝石娘側の意見が全面的に認められた完全勝利とでもいうべきものだ。
◇◇◇
僕達、正確に言えば宝石娘達が国を救って数日……王国は奇跡的に助かったと報じて国民が戻り急ピッチで復旧、復興がなされていた。
幸い春はまだ先だったので農民たちの種まきには影響は出ず、割とすんなり元の生活に戻っていった。
国を逃げ出した伯爵は「新天地で上手くやってるから心配するな」と言っているそうで僕が後釜に入っても特に問題はなさそうだ。
「シュムック様、これから身の回りのお世話をさせていただきます。よろしくお願いします……にしてもこんな私にこんなキレイなお着せなんてもったいないですよ」
口調こそ標準語だが田舎っぽいなまりが隠し切れない少女3名が僕の屋敷でメイドとして働くことになった。
メイドとはいえ掃除が得意な農民2名に料理が得意な農民1名という構成で、伯爵という地位には多少のバランスの悪さはあったが僕にとってはそれでも十分だ。
復興の進む中、パトロール隊長として人間の兵を率いていたダイヤモンドが戻る。確かあと1時間はパトロールで外にいるはずなのに、妙に早い帰還だ。
「ダイヤモンド、どうしたの?」
「マスターに合わせたい人物がおりますので早めに帰還しました。こちらです」
ダイヤモンドがそう言うと、彼女のそばには手を縄で縛られ数珠繋ぎにされた勇者、アルヌルフがいた。
「!! アルヌルフさん!? こんなところで一体何を!?」
「!! お前、シュムックか!? 何で生きてるんだ!? あの時ミノタウロスに襲われて死んだんじゃなかったのか!?」
勇者というには明らかに汚れてやつれた格好をした姿に僕は大きく驚いた。いったい何があったんだ!?
「噂じゃ信じられないような戦働きをして伯爵の地位を手に入れた奴がいたと思ったら、お前だったのか!? 何で宝石使いなんかにそんなことができるんだ!?」
「まぁ色々あって……詳しくは言えませんけど。ところでアルヌルフさんはいったい何を!?」
「マスター、彼は旅人を襲って荷物の追いはぎをやっているところを現行犯で捕まえたのですが、いかがいたしましょうか?」
「!! 追いはぎだって!? 何で勇者もあろう人がそんなことをやらなくてはいけないんだ!?」
信じられない。というのが最初に出た感想だ。S級冒険者パーティを率いている勇者アルヌルフもあろうお方がなぜ山賊をやっているのか? 僕には訳が分からなかった。
「シュムック。俺だってこうはしたくなかった。俺だってこんなことして生きていかなくてはならないのが俺自身信じられん。でもこうなっちまったんだ、どういうわけかは知らんがな」
彼は事の顛末を語りだした。
【次回予告】
山賊は語りだす。自分の身に降りかかった不幸を。
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最終話 「山賊アルヌルフ」
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