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雨男と砂漠の国 ~超雨男が国から追い出されたけど砂漠の民に拾われて破格の待遇でもてなされる。追い出した祖国は干ばつに苦しんでるけどそんなの知
第6話 ひでりの日が続くソル王国
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「……今日で3ヶ月以上晴れの日が続いていますね」
王が言うには雨男であるピオッジャを追い出してから、3ヶ月が経った。セレーノ王率いるソル王国の国民たちは晴れに満足していた……こうして3ヶ月以上晴れの日が続くことにならなければ。
「……灌漑用水の不足か。修理は終わってないのか!?」
「セレーノ様。全ての施設において修理は遅い物でも先週には終わったのですが、工事が想定以上の大規模なものになってしまいまして、作業の際に水をすべて抜かないと修理ができなかったそうです」
「ううむ……」
セレーノの目下の悩みは雨が降らないことによる作物への水不足だ。
今のところは作物へ水を回すために井戸の利用時間を制限しており(と言っても国民が普段利用しない夜間の間だが)、その間くみ上げた水でしのいでいる。
だが雨が降らなければ根本的な解決にはならず、ほんの少しの延命措置にしかならない。
肝心のため池などの貯水施設は30年近く放置されていたのもあって想像をはるかに上回るほどボロボロに壊れており、木材を使った部分はどれもこれも根元から腐っていた。
また石を使っていた物でも破損がひどく、貯めてある水を全部抜いて抜本的な大工事を行わないといけなかった。
結局全ての工事が終わったのは1週間前。後は雨を待つだけとなったがその肝心の雨が降らない。手詰まりだった。
「このまま晴れが続けば最悪、日中も取水制限をしなくてはなりませぬぞ」
「ううむ……」
こうもひでりが続くと民の不満の声を無視してでもやらざるを得ないという状況まで追い込まれるのは目に見えている。
貯水施設はどうにかなるが天気ばかりは人知の力ではどうにもならない……せいぜいが雨乞いの儀式をやる程度だ。眉間にしわが寄る日々が続く中、とある声が王の耳に届く。
「閣下! 我々が夜間井戸水をくみ上げていることで、井戸水が枯れるのではという不安が国民の間に広まっております!」
そんなセレーノの耳に入ったのは、王国内でまことしやかにささやかれる噂話。何の根拠もないデタラメな話だ。
「何ぃ!? そんなバカな話が起こるわけないだろうが! すぐに否定しろ! 早いうちにデマを潰せ!」
井戸水というのは基本的は地下水で、季節で上下する川の水とは違って年間を通して安定した水量を持つ。
現代地球のようにポンプで24時間休みなく汲み上げるのならまだしも、井戸を使って人の手で水を汲み上げる程度では余程の事……それこそ天変地異クラスでもない限り枯れる心配はないのだが、国民は無学ゆえにそういう根拠のない噂が広がる。
学校教育によりある程度は知識や知恵を学んだ現代地球の日本人でさえ、女子高生の他愛もない話から根も葉もない完全にデマな話である豊川信用金庫の倒産の危機が広まり、取り付け騒ぎになった事もあったし、
2021年でもワクチンを打つと「ネットに5G接続されてしまう」とか「身体が磁力を帯びてスプーンやフォークがくっつくようになる」などと言うデマが流れ、さらには「トマトにワクチンが含まれている」と言って不買運動を訴えかける人もいる。
それと同じ……いや国民が無学ゆえに、加えて噂話が娯楽の1つとして扱われている世界では、噂話には背びれ尾びれが信じられない速度と壮大さでついていくことになる。
「セレーノ王は畑に水をやるために夜間井戸の水を汲んでいる」という正しい情報が「セレーノ王は干ばつを起こるのを予知して自分用の水を確保するために井戸の水を抜いている」という噂話、
あるいはそれに背びれ尾びれがついて「セレーノ王は干ばつを起こして水を高値で売りつけるために今の段階で井戸の水を抜いてどこかに隠している」
という根拠のないデマに拡大するまでそう時間はかからない。国民からの支持は急激に落ちて行った。
ソル王国第6代国王セレーノ。彼は「ひでり王セレーノ」と呼ばれソル王国史上最低最悪の暗君として王国史にその名が刻まれることになるのだが、それまであと3ヶ月。
【次回予告】
ピオッジャが砂漠の国デラッザに拾われて5ヶ月……ついに研究成果がお披露目され、彼にはそのお礼を送られる。
第7話 「さらに2ヵ月後……」
王が言うには雨男であるピオッジャを追い出してから、3ヶ月が経った。セレーノ王率いるソル王国の国民たちは晴れに満足していた……こうして3ヶ月以上晴れの日が続くことにならなければ。
「……灌漑用水の不足か。修理は終わってないのか!?」
「セレーノ様。全ての施設において修理は遅い物でも先週には終わったのですが、工事が想定以上の大規模なものになってしまいまして、作業の際に水をすべて抜かないと修理ができなかったそうです」
「ううむ……」
セレーノの目下の悩みは雨が降らないことによる作物への水不足だ。
今のところは作物へ水を回すために井戸の利用時間を制限しており(と言っても国民が普段利用しない夜間の間だが)、その間くみ上げた水でしのいでいる。
だが雨が降らなければ根本的な解決にはならず、ほんの少しの延命措置にしかならない。
肝心のため池などの貯水施設は30年近く放置されていたのもあって想像をはるかに上回るほどボロボロに壊れており、木材を使った部分はどれもこれも根元から腐っていた。
また石を使っていた物でも破損がひどく、貯めてある水を全部抜いて抜本的な大工事を行わないといけなかった。
結局全ての工事が終わったのは1週間前。後は雨を待つだけとなったがその肝心の雨が降らない。手詰まりだった。
「このまま晴れが続けば最悪、日中も取水制限をしなくてはなりませぬぞ」
「ううむ……」
こうもひでりが続くと民の不満の声を無視してでもやらざるを得ないという状況まで追い込まれるのは目に見えている。
貯水施設はどうにかなるが天気ばかりは人知の力ではどうにもならない……せいぜいが雨乞いの儀式をやる程度だ。眉間にしわが寄る日々が続く中、とある声が王の耳に届く。
「閣下! 我々が夜間井戸水をくみ上げていることで、井戸水が枯れるのではという不安が国民の間に広まっております!」
そんなセレーノの耳に入ったのは、王国内でまことしやかにささやかれる噂話。何の根拠もないデタラメな話だ。
「何ぃ!? そんなバカな話が起こるわけないだろうが! すぐに否定しろ! 早いうちにデマを潰せ!」
井戸水というのは基本的は地下水で、季節で上下する川の水とは違って年間を通して安定した水量を持つ。
現代地球のようにポンプで24時間休みなく汲み上げるのならまだしも、井戸を使って人の手で水を汲み上げる程度では余程の事……それこそ天変地異クラスでもない限り枯れる心配はないのだが、国民は無学ゆえにそういう根拠のない噂が広がる。
学校教育によりある程度は知識や知恵を学んだ現代地球の日本人でさえ、女子高生の他愛もない話から根も葉もない完全にデマな話である豊川信用金庫の倒産の危機が広まり、取り付け騒ぎになった事もあったし、
2021年でもワクチンを打つと「ネットに5G接続されてしまう」とか「身体が磁力を帯びてスプーンやフォークがくっつくようになる」などと言うデマが流れ、さらには「トマトにワクチンが含まれている」と言って不買運動を訴えかける人もいる。
それと同じ……いや国民が無学ゆえに、加えて噂話が娯楽の1つとして扱われている世界では、噂話には背びれ尾びれが信じられない速度と壮大さでついていくことになる。
「セレーノ王は畑に水をやるために夜間井戸の水を汲んでいる」という正しい情報が「セレーノ王は干ばつを起こるのを予知して自分用の水を確保するために井戸の水を抜いている」という噂話、
あるいはそれに背びれ尾びれがついて「セレーノ王は干ばつを起こして水を高値で売りつけるために今の段階で井戸の水を抜いてどこかに隠している」
という根拠のないデマに拡大するまでそう時間はかからない。国民からの支持は急激に落ちて行った。
ソル王国第6代国王セレーノ。彼は「ひでり王セレーノ」と呼ばれソル王国史上最低最悪の暗君として王国史にその名が刻まれることになるのだが、それまであと3ヶ月。
【次回予告】
ピオッジャが砂漠の国デラッザに拾われて5ヶ月……ついに研究成果がお披露目され、彼にはそのお礼を送られる。
第7話 「さらに2ヵ月後……」
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